薪火と発酵、ペアリングで新しい和食の世界を創る!
本日のコースの先付けは「河豚の白子の茶碗蒸し このこ醤」。寒い日にはあったかい茶碗蒸しが初めに出ると嬉しいですね。ペアリングにはオールドバカラのグラスに注いだ福島「仁井田本家」の吟醸純米「穏(おだやか)」を。優しい味わいの茶碗蒸しとの相性は抜群!
使用した食材は卵、昆布と鰹で取った出汁、「このこ醤」、そして最後に削りかける「ブッシュカン」のみですが、喉を通る瞬間に重なり合う味わいと香りの複雑妙味に驚かされます。薪火で焼いた白子はプルップルで噛むとプチッと弾けて中からミルキーなクリームが口いっぱいに広がります。
これが仕上げに削りかけた「ブッシュカン」です。ビジュアルは衝撃的ですが香りは他にはなく新鮮! 「発酵うど」や「蓬の花」など知られざる食材を使う國居さん。「山の中に入ると、食べたことがないけれど、宝のような食材がたくさんあることに気づきました。以前頼っていた柚子と山椒は使わず、他の食材で多彩な味わいを作っていきたい」と話します。
さて、いよいよ薪の炎が大きくなりました。メインに使う薪は楢と桜ですが、この「すま鰹」にはワイナリーが剪定した葡萄の木を使います。藁で炙ると消えがちな鰹の風味はそのままに、葡萄の甘い香りがちょっぴり漂い、香りで酒が進みます。皮目だけをサッと炙り、身はしっとりと仕上げる絶妙な焼き加減が素晴らしい。
注目は「つけダレ」。ポン酢や柑橘を使わずに発酵させた緑茶の茶葉とトマトで酸味を作りました。とても市販の酢を使っていないとは信じられない味わいです。
また、添えたのは「みりん」という珍しい海藻。生のままだと数時間しかもたないためすぐに塩蔵処理を行うそう。シャキッとしながらぬめりのある食感がクセになる!
ペアリングは鰹のうまみに合わせたスペインの「Cosmic Vinyaters」 Confiancaのロゼ。丸みがありながら酸もしっかり感じるので、鰹のうまみをふくよかにさせつつ後味を切ってくれます。國居さん曰く「最高のペアリングです」。
自然が作る調味料で味わいが自由で楽しく!
甘鯛ははじめに油をかけ、うろこを立たせます。それから熾火でゆっくりと焼きあげていきます。すると皮はパリパリ、身はふんわりとジューシーなまま火が入っていくのです。
そうやって完成したのがこちらの「甘鯛の松笠焼き」。上質な甘鯛は塩を振るだけで十分においしいので、富士の山の中で自然に枯れて乾燥した香り高い蓬の花を下に敷いて香りを移し、四季を表現しています。付け合わせにした「2週間発酵させたうど」と「椿の花」の甘酢漬けの持つ苦味と酸味が甘鯛の脂のうまみを引き立たせます。
コースの中間で提供される多種多彩な「八寸」は五感を刺激します。本日は「鯛の二色卵」「金柑と天然若さぎの南蛮漬け」「昆布で作ったコンブチャで昆布締めした白魚の炙りとすじ青のり」「子持ち昆布のフライ」「牡蠣のオイル漬けと春菊のお浸し」「味噌とくるみのゆべし」「自家製のカラスミと大根と梨」「あん肝の生姜煮と発酵させた海老芋チップス」「鴨ロースと昆布締めした菜花」「牡蠣酢を使ったセリと牡蠣の胡麻酢和え」というラインアップ。
味噌とくるみと果汁を入れて2カ月間風干しした「ゆべし」や、自家製のカラスミは定番の大根と梨で挟むという変則技を使うなど、國居さんの独特な味の組み合わせ方は「八寸」で発揮!「カラスミには水分と甘みがあればいいと思うので梨も合うんです」と國居さん。
もう一つ、この店の魅力に器と酒器があります。「懐石 小室」での修業時代、親方に器の買い出しに連れて行ってもらったことがきっかけで器に興味を持ったそう。良い器を見ているとどうしても欲しくなり、20歳から少しずつ買い集めてきた器が今、「SHIZEN」で使われています。
「僕がしていることは、実はクラシック。懐かしさを感じるホッとする料理が出せたら」と話す國居さん。馴染みのある日本料理は、今まで見向きもしなかった秀逸な食材や発酵と融合させることで、“今を生きる日本料理”となるのです。若い料理人ならではのワクワクする料理、ぜひお試しあれ!