〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

体にいいものが食べられる和食店

1Fは7席のカウンター

「料理や、小料理や」があるのは、中目黒と祐天寺と池尻大橋のちょうど間くらい。バス通り沿いではあるが、決して便利とはいえない住宅街にある。そのため「体によくてちょっとおいしいものを食べたい」というときに近くに住む人が訪れる和食店となっている。しかし、近所の人だけのものにしておくにはもったいない心地よさに溢れていた。

左から、料理人の山口大志さん、代表の永峯千夏さん

かつて、この場所は代表の永峯千夏さんがイタリアワインバーを経営していた。しかし、コロナ禍による休業をきっかけに店を一新。2022年3月から和食屋としてスタートを切った。「前の店は、24時にピークを迎えて27時に閉店する店でしたが、これからの日常や自分が続けられることを考えて、体にいいごはんが食べられる和食店を始めることにしました」と永峯さん。そこで、呼び寄せられたのが、イベント時に出店してもらったことのある和食の料理人・山口大志さん。当時は京都で修業していたが、永峯さんの期待に応え、東京に戻って調理場で腕をふるっている。

店内では6,600円と8,800円の日替わりコースがいただける。6,600円は9品のコースで、8,800円のコースはそれにプラス魚料理と土鍋ご飯がつく。ご飯までしっかり食べたいなら、8,800円のコースがおすすめ。21時からは2,200円のチャージでアラカルトの注文も可能。八寸をおつまみにして、自然派ワインを楽しむこともできる。ソムリエでありお茶インストラクターでもある永峯さんはワインのほか、お茶のコーディネートもできる。お茶は11種類が用意され、900円〜。要望があれば、自然派ワインもお茶もお茶割りも、永峯さんがペアリングをアレンジしてくれる。1Fのカウンター席がメインだが、2Fに個室があって貸切にできるため、子ども連れの家族利用もできる。

ラ・フランスのごま和え×凛としたオレンジワイン

コースの中盤に出される「ラ・フランスのごま和え」

2つのコースは、毎日食べても体にやさしくなじむような料理が続く。永峯さんが福島、山口さんが山形と二人とも東北出身なので、ふるさとにちなんだ一品が出てくることも。この日、コースの中盤で出されたのは山形のラ・フランスを使ったごま和え。山形出身の山口さんはフルーツを使った料理に定評がある。ラ・フランスにカッテージチーズ、黒ごまのソース、カシューナッツ、きぬさやをのせた料理だ。ラ・フランスのしっとりフレッシュな甘みに、コクのある黒ゴマがまろやかにからまる箸休めとなっていた。

ジャン・マルク・ドレイヤーのオーセリス2020(グラス1,100円、ボトル7,500円)

ラ・フランスのごま和えに合わせるのは、アルザスのオレンジワイン。「こちらのワインには独自の渋みがあって、フレッシュなラ・フランスを誘う味。唾液がでるようなマリアージュが楽しめます」と永峯さん。ワインからは柿や桃のような香りが漂い、色も味わいもクリアなリンゴジュースのような味。全体には料理を引き立てながら、渋みのアクセントが利いた組み合わせとなっていた。

牡蠣のお椀×宮城の赤ワイン

コースの一品「牡蠣のお椀」

この日のお椀は、宮城県産の牡蠣を使った吸い物。中には、ごぼうと水菜も入っている。出汁には、利尻の昆布と枕崎のまぐろ節が使われ、一品一品、出汁の取り方にこだわりがある。ふたを開けた途端、まろやかな香りが食欲をそそる。海と山の幸が詰まったおいしさは、誰もがほっとできる味わいに仕上がっていた。

ファットリア・アル・フィオーレの一輪の花2021(グラス1,400円、ボトル9,000円)

牡蠣のお椀に合わせたいのが、牡蠣の産地と同じ宮城県で造られたマスカットベイリーAとスチューベンを使った赤ワイン。「お椀に赤ワインとは意外な組み合わせと思われるかもしれませんが、軽い赤ワインなのでちょうどよく合います。お椀に入っているごぼうの土っぽさをやさしい旨みで包むようなマリアージュになっています」と永峯さん。少しにごった淡い色合いから連想されるほわほわとしたワインの旨みが、出汁のすきっとした旨みとよく合っていた。

炊き込みご飯×まろやか白ワイン

「カマスの炊き込みご飯」8,800円のコースの一品

8,800円のコースの締めには炊き立ての土鍋ご飯が待っている。この日の「カマスの炊き込みご飯」には贅沢にも別で焼いた一尾分のカマスがのせられ、蓮根と原木椎茸も入っている。「炊き込みご飯ですが、醤油を入れず、昆布とまぐろ節とうるめ煮干しの出汁で炊いています。そのほうが最後まで食べあきないんです」と山口さん。混ぜると、魚や椎茸からの味が染み込み、ちょうどいいおいしさになっていた。

シュミットのゾルド2019(グラス1,500円、ボトル10,000円)

炊き込みご飯に合わせるのは、シルバネールで造られた白ワイン。「ブドウをきれいに造る女性の生産者の白ワインで、炊き込みご飯のおだやかな味にもバランスよく合います」と永峯さん。少しにごった白ワインは、ハーブや洋梨のようなやさしいまろやかさがあり、いつまでも味わっていたくなる組み合わせだった。

永峯さんの「私が恋した自然派ワイン」

永峯さんが恋したワインは、ファットリア・アル・フィオーレのオオノ・フィールドブレンド2021(グラス1,400円、ボトル9,000円)

永峯さんは日本ワインに注目し、北海道や東北などの日本ワインの生産者をよく訪ねているそう。なかでも応援しているのが、宮城県川崎町にあるファットリア・アル・フィオーレのワイン。

「畑は、虫が出やすい山の中にありますが、なるべく農薬を使わず、苦労してブドウを作られているので応援しています。

こちらのワインは、フィールドブレンド*で造られていて、ロゼとオレンジワインの中間のような色合いです。品種にとらわれず、おいしくなる方法を探って造られています。いろいろな味わいが出てくるので、コースをボトルで味わうときにもぴったりです」

*フィールドブレンド…品種を問わず同じ畑で一緒に植えられ育ったブドウを一度に収穫して仕込む醸造方法。混植混醸とも言う。

和食になじむ、やさしいワインをラインアップ

ワインのラインアップは、やさしい和食に合わせて主張しすぎないワインを中心にそろえられている。アルザスやイタリアなど世界各国のワインがあるが、日本ワインも多い。ボトルは40種類(7,000〜15,000円)、グラスワインは8種類(1,100〜1,700円)用意されている。銘柄はたびたび入れ替えられているので、訪れるたびに違う一本に出会えるだろう。

しみる旨みが織りなす、なごみのハーモニー

外観

いただいたコースは、料理ごとに香りや味わいを巧みに操る出汁使いや、センスを感じる素材使いが魅力的。自然派ワインと合わせると、出汁の旨みとワインの旨みが混ざり合って、じんわりと五感を満たしてくれるマリアージュになっていた。どの街にも属さない都会の秘境ともいえるアドレスもまた、そんな心地いいなごみの雰囲気を高めてくれる。

「料理や、小料理や」は、コースが楽しめる「料理や」の日とは別に、月に2回程度の小料理がメインの「小料理や」の日がある。軽いおつまみから自家製ラーメンまでアラカルトで800円〜1,600円でいただける。入口に表札が出ているが、インスタグラムや電話でも確認できる。好みのほうを確認してから利用しよう。

※価格はすべて税込、サービス料別(5%)

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡本のぞみ(verb) 
撮影:山田大輔