ハイコスパなランチコースのおすすめと秋山さんイチ押しつまみはこれ

食べ進むごとに感動するスペシャリテの「野菜巻き」

使う食材と味は隔月で変えるため、足繁く通ってもいつも新しい「野菜巻き」に出合える
 

伝統的な江戸前寿司を軸としながら、前衛的とも言える一品が味わえるのも「宇田津 鮨」のお楽しみ。秋山さんのおすすめは、手巻きと握り12貫にお椀、卵焼きが付いて8,800円とハイコスパな「ランチおまかせ握り」だ。

 

秋山さん

昼ですがビールや日本酒で楽しむのがおすすめです。

巻き上がったら直接手渡し。パリッとした海苔の食感と風味も楽しい

おまかせ握りの冒頭に供される、この店のスペシャリテが「野菜巻き」。赤酢と米酢2種類をブレンドしたシャリに合わせてあるのは、アボカド、納豆、たくあん、塩昆布を混ぜたもの。季節により味や具を変えており、レンコンなど野菜のチップスを加えて食感を足すこともあるという。

3口、4口と進むにつれ、異なる味や食感になるよう工夫を凝らすのが宇田津流。「最後の一口の部分だけ、福岡県糸島市の醤油醸造元から取り寄せたもろみを利かせ、ちょっと濃いめの味で全体を引き締めています」(宇田津さん)

 

秋山さん

魚ではなく野菜だけを巻いた寿司で、とても爽やかな食べ心地です。

たっぷり贅沢に! 磯の香りもかぐわしい「ウニ」

ウニはバフンウニ、紫ウニなど、その時々でいいものを選ぶ

ランチおまかせ握りで味わえる、大将おすすめの握りがこちら。シャリとウニの間に鎮座するのは、少量の小麦粉で形を整えて素揚げした生の青海苔。

やさしく、リズミカルにシャリを握る宇田津さん

もともと相性のいい海苔とウニ。「そこにオリジナリティを出すために、海苔の天ぷらからインスピレーションを受け創作しました。皆さんウニがお好きなので、たっぷりとのせてお出しします」と宇田津さん。

ざくっとした海苔の食感と磯の香り、とろけるウニの甘味が口中で一つになり、えも言われぬ大人の味わい。客からの評判が上々というのもうなずける。

マグロ専用のシャリで味わう「中トロ」

マグロ専用の赤シャリに程よい脂のりの中トロが絶妙にマッチ

握りから、もう一つのおすすめが、マグロのためだけに合わせたシャリで味わう「マグロ中トロ」だ。

「脂がのったマグロとのバランスを考え、米酢1種類、そこに米酢の倍量の赤酢を合わせ、シャリにパンチをつけています」(宇田津さん)。この時期ならではの、中トロの甘く滑らかな舌ざわりが堪能でき、赤酢をやや強めに利かせたシャリとの相性も抜群だ。

五感が喜ぶ「大トロの燻製」

目の前で大トロがスモークされているようなサプライズに心が躍る

ご紹介するおまかせ握りに、ぜひ追加オーダーしてほしいのは、秋山さんも絶賛する「大トロの燻製」だ。

ガラス作家が手がけた器の蓋を外すと、薫香をまとった白いスモークに包まれた大トロが見え隠れする、心憎い演出。マグロは漬けにして、藁で炙って香り付けを。しっとり、ねっとりした食感が心地よい。鮫皮でおろしたわさびはツンとする辛味は全く感じず、大トロの脂を中和させ、旨みを引き立てている。

 

秋山さん

鼻には燻製の香り、口の中では大トロの旨みを味わえる贅沢な一品です。

魚と野菜の組み合わせが新しい「ハーブ巻き」

お花畑のような「ハーブ巻き」。添えられているのは食べられる花、エディブルフラワーのビオラ

店を訪れたら絶対に外せないのが月替わりの「ハーブ巻き」である。魚とハーブなどの野菜を融合させたアートのように美しい巻き寿司で「宇田津 鮨」の代名詞ともなっている一品だ。魚は時期や仕入れで変わるが、この日はサンマ。魚は毎朝豊洲に出向いて仕入れ、ていねいな手当てをして使う。

「お寿司にハーブなんて、という固定観念がありましたが、広島の農園が栽培する完全無農薬のハーブに魅せられ、新たな取り組みとして考案しました」と宇田津さん。使われているのは、香りがフレッシュで柔らかい新芽の部分のみ。この日はカイワレ2種、赤軸ほうれん草、水菜が海苔とサンマに包まれており、食感がまたやさしく心地よい。

 

秋山さん

魚とハーブがこんなに合うんだと思わされる、こちらでしか食べられない一品です。

食材も人材も「サステナブル」を大切にする

やさしい笑顔と気遣いの人、宇田津さん。ここなら緊張しすぎず存分にお寿司が味わえる、との声も多い

完全無農薬のハーブだけでなく、シャリにもこだわり、生産者と一緒に米作りから行う宇田津さん。6月には熊本までオーガニック米の田植えに出かけたという。

無農薬やオーガニックというと、健康によいというイメージが真っ先に浮かぶが、宇田津さんが最も意識するのは、昨今、世界的に着目されている「サステナブル(持続可能)」、それらを具体化する取り組みである「SDGs」だ。

「お米に限らず、野菜や酢など全てに言えることですが、よいものは後世にしっかり残していかなければいけません。生産者に直接会い、そこに込める思いや作り方など、見えない部分を学び取り、ここで提供するものを通じてお客様にきちんと伝えていく。その思いでやらせていただいています」(宇田津さん)

時間をかけ練り上げていったという洗練されたギャラリーのような店内

「SDGs」は人材育成にも。「寿司業界というと、修業が長く厳しいイメージがあり若い人が少ない現状がありますが、僕はそこを変えていきたい。目で見て覚えなさいというよりは、失敗してもいいと、何にでもどんどん挑戦してもらっています」。こう話すように「宇田津 鮨」には若手スタッフが多く、調和のとれたチームワークがよい雰囲気を醸し出す。

そんな宇田津さんが牽引する店は、伝統の中に新たな息吹を吹き込む姿勢などが評価され、「ミシュランガイド東京2023」で、新たな星付きレストランの一軒に選出された。そのもてなしと味を体感しに、予約を取ってぜひ出かけていただきたい。

※価格は税込です。

※本記事は取材日(2022年12月6日)時点の情報をもとに作成しています。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:齋藤ジン
文:池田実香