〈秘密の自腹寿司〉
高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直されはじめたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。
教えてくれる人
猫田しげる
20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。
控えめなのれんからは、価格破壊コースが出てくるとは思えない
大阪の都島って最近、イイ店が増えている気がします。ここもその一つ。2021年5月に路地裏にひっそりオープンした寿司店ですが、初めて伺った時に衝撃を受けました。
コースは7,700円、9,900円の2本立てですが、とにかく量がスゴイ! もちろん量だけではありませんよ。その辺も含めてゆっくりじっくりご紹介してまいりましょう。
店内はカウンターが4席のみ、奥には個室がありますがファミリーなどの特別予約に限ります。なので2組ほど入れば満席になり、4名だと貸し切りになるようなコンパクト感!
自分の店より他の店を宣伝してしまう良心的な店主
いかつ~い!とビビらないでください(笑)。店主の上村圭一郎さんは、物腰柔らかく人当たりも良いソフトな人柄。この日も「都島の商店街内にできたイタリアンと、小料理屋さんと、野江駅近くにできた焼鳥と……あとウチの隣の『焼鳥の店 圭』さんも、ホントにおいしいんですよ! 都島アツいです」と他のお店のことばかり褒めちぎっていました。
相当食べ歩きもお好きなようですが、ご自身の料理にも研究熱心です。もともと寿司酒場「栄鮓」の系列で10年以上修業を積み、居酒屋店長の経験も経て、和も洋も自在に操れるスキルを磨きました。
梅田からもアクセスが良く、かつ個人店が多く親しみやすいエリアである都島に、店を構えたのがコロナ禍真っただ中のこと。お酒の提供を制限したり、テイクアウトに力を入れたりと他のお店同様に試行錯誤しながら、着実にファンを獲得し、今ではネットの検索窓に「都島 」「う」と入力しただけで「都島 上邑」と出るまでの知名度になりました!
“安くて旨い”のトリックは、信頼のおける仕入れルートにあり
そのハイコスパなコースの内容をご紹介しましょう。最初になんと「ほぼマグロ!」というほど大きなトロが詰まったマグロの巻き寿司が出てきます。「お腹いっぱいで入らなくなる前に、自慢のマグロをまず食べてほしくて」との思いから。続いて吸い物などのお椀、次にお造り、アテ、握り3種、肉料理、握り3種、餡かけ、マグロ3種食べ比べ、コハダ、エビ、茶碗蒸し、イクラ、ウニ、アナゴ、卵焼き……でフィニッシュ。
肉料理も楽しめるなんてうれしい誤算です。黒毛和牛のももタタキだったり、和牛ローストだったりと、しっかりメイン級のポーション。
以上は9,900円のコースですが、7,700円のコースは、肉料理が出ないのと食材のグレードが変わるぐらいで、品数はさほど変わらないそう。なぜここまでリーズナブルに提供できるかと聞くと、「中央市場に知り合いの魚屋があって。ここが良いものを安価で入れてくれるおかげです」とどこまでも謙虚……!
この日の料理から、蒸し牡蠣の餡かけ。北海道・厚岸の大ぶりな殻付き牡蠣を蒸して、出汁の風味が利いた銀餡仕立てに。下にはご飯が入っており、贅沢な餡かけ丼のようにいただける仕組みです。もみじおろしと木の芽の辛みと香りが爽やかな余韻を残します。
「お造りは和歌山のサゴシです」と出されたので「サゴシと、あと何ですか?」と聞いたら「サゴシです」と噛み合いません。手前の茶色い物体は何かの貝類かと思いきや、「醤油です」。え~!
醤油は醤油でも「泡醤油」と言って、出汁と醤油を混ぜて泡立てたお手製調味料だそう。さらに自家製カラスミをたっぷり振りかけています。いつまでも泡が消えないので不思議に思ったら、ゼラチンで固めているからだとか。やるぅ~!
もちろんお酒も厳選しています。ご自身の好きな銘柄が中心で、「風の森」「酔鯨」など辛口をチョイスしているそう。「招徳の特別純米なんかは、あまり一般受けしませんが、完璧に自分の好みですね〜」と、酒好きのニヤッとした笑いを浮かべていました。