定食王が今日も行く!

歌舞伎町で創業61年!まさに人間交差点、つるかめ食堂の「豚肉天」定食

変化する新宿歌舞伎町で

61年変わらない人間交差点

 

戦後、空襲で焼け野原となった新宿に、歌舞伎の演舞場を作ることで新東京の最も健全な家庭センターにしようと作られたのが、すでに取り壊されてしまったコマ劇場。その意図に反して、歌舞伎町は東洋一、世界一の歓楽街として発展、成長してきた。最近では歌舞伎町をクリーンな街にするため、さまざまな施策がとられ、外国人向けの観光ツアーが組まれる観光スポットとしても人気を集めている。

 

そんな変わりゆく歌舞伎町の中で、61年間、ひっそりと変わらず営業をし続ける食堂が「つるかめ食堂」だ。客層は実に幅広く、スーツを着たサラリーマンから、OL、役者の卵、ホストやキャバ嬢、外国人観光客まで、歌舞伎町のオアシスとして長年愛され続けている。一人で来るお客も多いが、耳に入ってくる会話を聞くだけで、本当にさまざまな人生を送る人間模様がうかがえる。まさに人間交差点である。ちなみに新宿西口の思い出横丁にある同名の食堂とは親戚関係だが、まったくの別店舗だそうだ。

 

 

 

初めて訪れたのは私が大学生だった15年以上前だ。700円台で23時すぎまで定食が食べられる場所はそのころでも今でも貴重だ。当時から内装もメニューもほとんど変わっていない気がする。定食メニューは揚げ物、天ぷら、炒め物、魚を含めると35種類ほど。アジコロ定食、さばコロ定食など、アジフライやサバの煮つけにコロッケを付けたコンビネーション定食や、日替わりメニューで登場する生姜焼きハムエッグのような“大人のお子様ランチ”のような定食も、この店ならではの魅力だ。

 

 

なぜか時々食べたくなる「豚肉天」!

白飯にもお酒にも合う隠れた逸品

 

多くの定食メニューの中でも、ここでしか食べられない逸品が「豚肉天ぷらの大根サラダのせ」だ。その名前のとおり、豚肉の天ぷらの上に大根と人参の千切りサラダをのっけていただくのだ。一緒に口に含むと、大根サラダの爽やかさの中に肉の旨味が後から溢れ出す。ふわふわの衣はタレを吸いしなっとなるが、逆に大根のサラダのシャキシャキ感の歯ごたえとのコントラストが際立つ。天つゆのような醤油ダレが、サラダにも天ぷらにもよく合い、一つにつなげる。ほかほかのご飯を掻き込むと、すべてが融合し完成された一口になるのだ。

 

 

大根サラダの上には大根おろしとおろし生姜が添えられており、ピラミッドのような見た目はビジュアル的にも大迫力だ。肉の天ぷらというコッテリしたメニューで大変、満足感がありながらも、後味はさっぱり。定食だけではなく単品でも550円で頼むことができるので、ご飯だけではなく、お酒にも合わせて楽しみたい逸品だ。

 

 

人の数だけ楽しみ方がある

食堂と大衆食堂の懐の深さを味わう

 

私がこの店を知る15年の間、変わらず営業を続けているが、フェイスブックページができたり、最近では外国語メニューができたりと、細かい進化を遂げている。こういった大衆食堂が昔と変わらず営業をするためには、常に進化し続けなくてはいけないということだろう。

 

大衆食堂はその名前のとおり大衆に向けたご飯を提供するため、メニューが豊富で、どんな人でも何かしら好きなメニューがあることが重要だ。定食とはデモクラティックでなければいけない。

 

昔はなかったメニューも少しずつ増えている。個人的にお気に入りなのはアボカド納豆だ。どちらかというとカフェ飯系のメニューにありそうな小鉢があるのにもこの店の個性を感じる。

 

 

もうひとつこの店の個性といえば、ご飯にかけてピリ辛でいただける絶品の「キムチごま」ふりかけだ。ふりかけがある定食屋は、残った白飯だけでも美味しくお腹いっぱいになるように!という気遣いが感じられ、お母さんの温かさのようなものを感じる。働く人々の良きサポーターである証なのだ。

 

さまざまな人間模様を眺めながら定食をいただき、それぞれの人生を生き抜くために、また旅立っていく。まさにこの暖簾に描かれた大きな月に向かってはばたく鶴と、それを見上げる亀のように。そんな懐の深い食堂として、名前の通り長く変わらずあり続けてほしい。