〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

新富町の一軒家にある大人の自然派ワインバー

4席限定の1Fのカウンター席

新富町は、銀座や東京駅からも近いアクセスのいい場所だが、かつての花街として栄えた料亭もある大人の街。落ち着いて飲みたいという時にうってつけなのが「Vin Nature a(ヴァンナチュールアー)」。自然派ワインを中心にセレクトされたワインバーながら、料理にもこだわり、印象的な体験ができる店だ。

オーナーシェフの高須さん

オーナーソムリエの高須さんは、30年以上に渡ってさまざまな経験を積んで2017年にヴァンナチュールアーをオープン。ソムリエでありながら、フランスのレストランに料理見習いであるスタジエとして本場の食文化を学んだり、レストラン運営会社でディレクターとして新規オープンの立ち上げを任されてたりしてきた。

2階のテーブル席

高須さんと自然派ワインとの出会いは25年前。日本に輸入されはじめたばかりの頃から惚れこんできた。自身の店となるヴァンナチュールアーでは脳裏に残るマリアージュをテーマに、自然派ワインのピュアで深みのある味を引き立てる究極の料理が追求されている。

イタリア伝統の希少なサラミでスタート

「イタリアサラミの盛り合わせ」1人前 1,200円

ヴァンナチュールアーの看板おつまみといえば、長らく「クラテッロ」というイタリアの生ハムが提供されていた。独自の環境下で熟成をとげることで極上の旨みと香りを持つ生ハムだったが、現在はアフリカ豚熱の発生によって輸入禁止になってしまった。そのため現在は同じく希少な「イタリアサラミの盛り合わせ」がおすすめ。極薄に切られたサラミは、芳醇な旨みと食感が押し寄せ、口の中で大きな存在感を発揮する。

ワインは、ファゾーリ・ジーノのソアヴェ ボルゴレット2021(グラス950円)

一緒にいただきたいワインはイタリアのソアヴェ。「グラスの縁に少し泡がつくくらいフレッシュなワインで、当店ではスターターとしてお客様に親しまれているワインです」と高須さん。よくある水っぽいソアヴェではなく香りも味もしっかりと強く出ていながらフレッシュさがある。喉の渇きを癒やしながら、サラミの味をしっかり受け止めてくれる乾杯にぴったりの組み合わせだった。

チーズを味わうためのキッシュと白ワイン

「自家製キッシュロレーヌ」1,000円」

ワインバーながら手作り料理もぬかりない。「自家製キッシュロレーヌ」は、高須さんがフランスで修業した頃に出会ったものを再現した伝統的のつくり。「キッシュは日本だと冷めたお惣菜やカフェで食べるイメージですが、本物はふわっとやわらかいもの。パイ生地のサクサク感がチーズの味を引き立てる料理です。チーズをおいしく食べるための料理でもあるので、ワインにぴったりなんです」と高須さん。グリュイエールチーズとチェダーチーズの二つが溶け出して、たまらないおいしさがあった。

ワインは、アモス・バネレスのエルス・リュエルナ2018(1,200円)

キッシュにはフランス・アルザス地方のワインを合わせるのがセオリーだが、変化球でスペインのチャレッロをおすすめされた。「チーズのボリュームに合わせて、凝縮感がしっかりあるワインを選びました。シェリーのような酸化熟成の雰囲気もあって、味わいが深まります」

ジュラの薄旨系赤ワインが合う滋味深いステーキ

「国産黒毛和牛のステーキ 赤ワインソース」2,700円

こちらは“自然派ワインバーらしい究極の牛肉のステーキと赤ワイン”の組み合わせを考えて作られたステーキ。黒毛和牛は脂肪分の多いA5やA4を使わず、噛んで旨みの出るランプの部位を使用。赤ワインソースも独自の渋みが出ないようあくまで香りやフルーティーさを引き出すよう研究して作られている。その結果、色の淡いフランス・ジュラ地方のプールサールにも合うステーキが完成した。

ワインは、ジャン・ルイ・ティソのアルボワ プールサール2019(1,300円)

「プールサールとこちらのステーキは、よくあるパワフルな肉&赤ワインのマリアージュとは対照的な組み合わせ。じわっと深みに入っていくような滋味深いおいしさが感じられると思います」と高須さん。プールサールは、色は淡いが旨みのあるワイン。ステーキの旨みを引き立てながら、紅茶のニュアンスで引き締めてくれるマリアージュとなっていた。

高須さんの「私が恋した自然派ワイン」

高須さんが恋した自然派ワインは、ユリス・コランのレ・ピエリエールNV(ボトル29,000円)

高須さんが自然派ワインの中でも愛しているのがシャンパーニュ。初めて自然派ワインのシャンパーニュと出会った時は、大手メゾンとの違いに驚いたそう。

「一時期、高級なだけでない究極のワインを探したいと気負っていた時期があったのですが、それを解放してくれたのが自然派ワインでした。自然派ワインは他と明確に違う個性やエネルギーがあります。中でも底知れぬエネルギーを感じたのがこの一本です。

レ・ピエリエールはブラン・ド・ブラン(白ブドウだけで造るシャンパーニュ)で、よりエレガント。味わうと旨みの塊でありつつ、余韻や奥行きが感じられる素晴らしいワインです」

シャンパーニュの品ぞろえに注目

ヴァンナチュールアーでは、約100種類のボトルワイン(5,800〜20,000円)と8〜10種類のグラスワイン(850〜1,500円)の自然派ワインがそろえられている。初めて自然派ワインを飲む人でもスッと入っていけるように、あまりにクセの強いワインはおかないようにしている。特筆すべきは、自然派のシャンパーニュの品ぞろえ。20種類のボトルが用意され、乾杯だけでなく食中、食後と楽しむのもよいだろう。

大人を満たす、とっておきのくつろぎ時間に

ヴァンナチュールアーの外観

自然派ワインはピュアで深みのあるセレクト、料理はニンニクを切るところからというヴァンナチュールアーのワインと料理は五感を研ぎ澄ませてくれる魅力がある。経験豊富で包容力のあるスタッフとの会話も、日常に戻る時にエネルギーをもらえる。ちょっと疲れを感じた時に訪れたい、ワインバーの良心ともいえる店だ。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡本のぞみ
撮影:木村雅章