〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

バーの内階段の先に現れる秘密基地

Staff Onlyへ行くには、LOBBYの内階段を上る

「秘密基地」――大人になって、そう呼べる空間を持つことを年々魅力的に感じる。そんな人にとってうってつけのワインバーが池尻大橋にある。場所は人気バー「LOBBY」の2階。内階段を上っていくという動線もまた秘密基地にふさわしい。店名を「Staff Only(スタッフオンリー)」というから、クローズドな魅力も高まる。

内観

店内は、マスタードのカーテンやコッパーがアクセントになったテーブルなど温かみのある色合いがポイントになったハイセンスな空間。カウンター脇にDJブースがあったり、ソファ席は一段低くなっていたりと、変化のある内装もそそられる。

ソファ席

天井が低いわけではないが、入口近くは床が高くなっている分、どこか屋根裏部屋の感覚があり、それが秘密基地のような効果をもたらしているのだ。

カウンター席

Staff Onlyを運営しているのは、スペースデザインなどをしているデザイン会社「& Supply」。渋谷「Hone」や1階「LOBBY」も手掛けている会社だ。”Staff Only”という名前は元々、事務所として利用していた経緯があるため。ワインバーのオープンに際して内装をリニューアルして、2024年7月にオープンした。

左からシェフの藤代将平さん、サービスの小川紗百合さん、運営会社「& Supply」CEOの井澤卓さん

シェフの藤代将平さんはパリで5年間修業し、レストラン、ビストロ、ブラッスリーなどの店舗を経験してきた。「フランスの食文化がすごく好きなので、日本の食材の良さを活かしながら、フレンチの技法やソースにはこだわっています」と藤代さん。サービスの小川紗百合さんは「Hone」で2年間サービスを務めた後にStaff Onlyへ。ワインのセレクトも担当し、気分に合わせて素直に楽しめるワインを選んでくれる。

鯵と海藻の前菜✕ミネラリー白ワイン

鯵 マッシュルームと海藻のピクルス(1,600円)

軽く食べられる魚の前菜としておすすめなのが「鯵 マッシュルームと海藻のピクルス」。軽くあぶった鯵に、ピクルスしたワカメと昆布、マッシュルームをあわせた一皿。「海藻をピクルスにするのは日本ではめずらしいですが、食べなじみがある食材に酸味がきいているので、どこか懐かしい味だと思います」と藤代さん。ピクルスというと洋風だが、酢の物のようなさっぱり感とねばり気があって、たしかに日本人にもなじみやすい味だった。

パルティーダ・クレウス SKモスカテル2022(グラス1,500円、ボトル11,000円)

鯵の前菜におすすめなのは、スペインのモスカートを使った白ワイン。「シェフの料理は酸味がキーになっているので、バランスのいい酸がある白ワインがぴったりです。こちらは潮風の影響を受けて塩味がある白ワインで、トロピカルな香りもあるので、魚料理に合います」と小川さん。華やかな香りとミネラル感が鯵の前菜にさらりとしたコクを与えてくれていた。

仔牛のトンナート✕ライトな赤ワイン

仔牛 万願寺唐辛子 トンナート(2,260円)

肉前菜として店の人気メニューなのが「仔牛 万願寺唐辛子 トンナート」。スライスした仔牛にツナソースを添えたイタリアの郷土料理「ヴィッテロトンナート」をアレンジした一品で、くさみのない生の仔牛をカルパッチョのようにいただく。ツナのクリーミーなソースがからみ、万願寺唐辛子の香りがアクセントになった楽しい一皿だ。

クリストファー・バート ロート・フォム・グリューヌ 2022(グラス1,200円、ボトル8,300円)

仔牛のトンナートにおすすめなのは、ドイツのピノ・ノワールなどを使った赤ワイン。「ライトな赤ワインなので、ノンストレスに合わせていただけます。石灰系のミネラル感がきれいにあって、冷やし気味に飲んでもらうとなめらかな肉質をコーティングしてくれるように楽しめます」と小川さん。少し厚みのある仔牛をカジュアルにおいしくさせてくれるマリアージュだった。

マグレ鴨赤ワインソース✕フレッシュ果実味赤ワイン

マグレ鴨 赤ワイン(3,400円)

メインのおすすめはマグレ鴨の赤ワインソース。「マグレ鴨はフォアグラにするために育てた鴨で、肉からもフォアグラの香りがします。日本の鴨を使うレストランも増えていますが、クラシックな赤ワインソースとともにビストロ王道の味を大切にしています」と藤代さん。付け合わせには静岡・北山農園や福島・鈴木農場の季節の野菜が添えられている。

レミ・デュフェイトル レ・プレミス2021(グラス1,400円、ボトル10,200円)

マグレ鴨にペアリングしてもらったのは、フランス・ボージョレ地方のガメイ。「果実味がギュッと詰まっていて、フランボワーズなどベリー系の風味やスパイス感もあるワインです。きめ細かいタンニンもあってエレガントなので、鴨の味を引き立ててくれます」と小川さん。フレッシュなガメイが風味の強いマグレ鴨を軽やかにしてくれていた。

小川さんの「私が恋した自然派ワイン」

ラミディア ミシェラ2021(グラス1,300円、ボトル9,300円)


小川さんが恋したワインは、ワイン造りの姿勢に引かれた一本。

「イタリア・アブルッツォ州の生産者で、親友同士の男性二人でワインを造っています。来日した際にお店にも来てくれて、お互い本業があるにもかかわらず、好きが高じて一緒にワインを造っています。実際にお会いして、好奇心が先行してワイン造りをしている、ハッピーでキュートな人柄なのが伝わってきました。ワイン造りもそれが表れていて、ドリンカブルにカジュアルに飲めるワインが造られています。

こちらのワインは8種類くらいのブドウが入っていて、”混ぜもの”という名前がついています。フランボワーズや赤ベリー系の風味があるチャーミングな味で、冷やして飲んでもおいしいですね。ワインの楽しさを体現した一本なので、ぜひ一度試してみてください」

頭を使わず楽しめるワインをラインアップ

Staff Onlyではヨーロッパを中心に日本ワインなども用意されている。「当店ではテイスティンググラスのような小ぶりのワイングラスでカジュアルにワインを提供しています。頭を使って考えて飲むワインというよりは楽しく飲めるワインを揃えています。こういう空間なので、ワイワイとアットホームに気を張らずに飲んでください」と小川さん。ラインアップは、グラスワイン6〜7種類(1,000〜1,500円)、ボトルワイン80種類(7,700〜11,000円)。

ハイセンスだがアットホームな居心地の良さ

藤代さんの料理は王道のフレンチを志向していつつも、抜け感があり、洒脱
壁にペイントのある通路をとおってLOBBYへ。その店内からStaff Onlyに向かおう

Staff Onlyはその空間も魅力的だが、藤代さんの洒脱な料理や小川さんの気さくなワイン選びも居心地のよさをくれる。アットホームでありながら、自分たちの好きなように楽しめる雰囲気があり、まさに大人の秘密基地。Staff Onlyの自分だけの使い方を探してみよう。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔