重なり合う魅惑の味。愉悦なるそばとの邂逅

渾身の「松茸そば」。器も特注で、甲賀さんの地元・八王子の陶芸作家によるものだ。底には「甲」の文字が

「松茸そば」。その一杯はさながら、未知なる感動との出合いと言えよう。提供されるやいなや、器からあふれ出る松茸の芳香に思わず顔がほころぶ。そしてひと口……これは、想像のはるか上をゆく美味なる調和だ。

圧倒するような松茸の香りが生きつつ、そばのしなやかなのどごしと上品な香り、そして甘やかで奥深いつゆの味が三位一体に。それぞれが主張しすぎずに味の魅力を引き立て合う、芳醇な三重奏が楽しめる。
 

山本さん

そばはのどごしと風味とのバランスがとても良く、つゆもダシの旨みが口いっぱいにふわりと広がります。丁寧な仕事ぶりが味からも伝わってきて、いつも飲み干してしまうおいしさなんですよね。そして繰り返しになりますが、松茸との相性も抜群!

プリッと、しっとりした鶏モモ肉もジューシーで美味。芽ネギの爽やかなアクセントもたまらない。さらにお好みでスダチを搾れば、みずみずしい清涼感が全体の表情を変えてくれる。そして時間が経つにつれて松茸につゆが染み込み、これまた絶品。山本さんが絶賛する「いつも飲み干してしまうおいしさ」も、確かに納得だ。

夜は「蕎麦前コース」で予約がおすすめ

冷たいそばを温かいつゆで味わう、せいろタイプの「松茸そば」

せいろの「松茸そば」も素晴らしい。麺はよりコシに張りがあり、口内でそばの旨みや香ばしさが広がる。つゆにつけて味わえば、そこに豊かなボディ感が加わり、そばとしての醍醐味がじんわりと。そして松茸が全体を優雅な香りに包み、至福のひとときを演出。改めて、自然の恵みに感謝したくなる。

 

山本さん

松茸は薄切りにして食べるのが個人的には一番好きで「おそばの甲賀」の松茸はまさにそのスタイル。つゆが染みてまたさらにおいしく、スダチとの相性も最高。

なお、最後で恐縮だが「松茸そば」は旬の時季が短いため毎年8月末〜9月末ごろまでの提供となる。今年味わうならぜひお早めに。

また、もちろん「松茸そば」以外も同店は絶品ぞろいだ。昼は並ぶこともあり予約不可だが夜は可能。特に「3種盛り」「カラスミ一口蕎麦」「天吸い」「お刺身」による「蕎麦前コース」(3,300円)を指定のうえ予約し、そばで締めるのがおすすめだ。西麻布でそばを楽しむなら、真っ先に訪れたい一軒である。

※価格はすべて税込。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

取材・文:中山秀明
撮影:大西尚明