低温でじっくり揚げた名物天ぷらと季節の魚介を味わう

「当店の名物です」と中川さんと語るサツマイモの天ぷら(左)、右はタチウオ

「油の温度を数度上下するだけで、仕上がりは全く違ってきます」と天ぷらの極意を語る中川さん。その細かい温度設定を駆使した一品がサツマイモの天ぷらだ。「170℃でじっくり1時間かけて揚げます」というから驚きだ。

断面が美しい黄金色に変化したサツマイモ
 

山本憲資

サツマイモの天ぷらと言えば薄く輪切りにしたものが多いですが、こちらはとても分厚い! 口にすると、軟らかくねっとりとした舌触りで、凝縮された甘みがあとを引きます!

大葉と共にサックリと揚げたタチウオ

季節の魚介は中川さんご自身が毎日市場に足を運び、選んできたものを提供する。ご実家の寿司店や北新地の割烹で、長年腕を磨いてきただけあって、その目利きには自信がある。

 

山本憲資

この日の季節の魚介はタチウオ。表面はサックリと仕上げ、身はホックホク! 爽やかな大葉の香りが鼻へ抜けていき、淡泊で上品な味わいです。ほかにも時期によって、イワシの梅肉挟みなど、旬の魚を最適なアレンジで提供してくれます。

希少なそば粉を使ったこだわりのそばで締める

そば本来の香りと味が引き出された「もりそば」(880円)。作家物の器も目を引く

最後にそばをたぐって締めとしたい。こちらで使用するそば粉は「奈川在来」という品種。かつて信州で育てられながら少ない収穫量ゆえに「幻のそば粉」と呼ばれた希少な品種だ。「いろいろなそば粉を使ってきましたが、香りや味わいはもちろん、手触りなど、全てにおいて明らかに違っていました」と中川さん。

2階に上がるとすぐに現れる打ち台。毎日その日の分だけを打つ

「大阪で奈川在来を使っているのは恐らく当店だけ」と胸を張る中川さん。それ以外にも水は大阪北部の箕面山中の湧き水、だしには京都のカツオ節専門店から仕入れたサバとメジカの粗削り節に、追いガツオを加えるなど、こだわりは数知れず。

そばの香りと味、そして歯応えが絶妙なバランスで楽しめる
 

山本憲資

まずはそばの香りを楽しみ、次につゆを軽くつけて味をじっくりと堪能します。程よいコシと口の中いっぱいに広がるそばの味わい。絶妙な塩梅に仕上げた、まろやかなつゆがそばをさらに引き立ててくれます。

「初めて来た人はこの店の静けさに驚きますね」と笑う中川さん。確かに階下のお初天神裏参道では、酔客が賑やかに行き交っている。その喧噪の中にあって、静かに料理と向き合えるのはちょっとした大人の優越感だ。大阪駅にも近く、何かとアクセス容易な場所にありながら、隠れ家的な店。まさに「誰にも教えたくない店」を見つけたような気がした。

※価格はすべて税込です。

※本記事は取材日(2022年8月23日)時点の情報をもとに作成しました。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:藤川満
文:藤川満・食べログマガジン編集部