〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、タベアルキスト・マッキー牧元さんが高校時代からの好物のチキンバスケットが食べられる洋食店をご紹介。

教えてくれた人

マッキー牧元
株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。

麻布十番の街中に溶け込む、スタイリッシュな外観

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

静かな路地にあり、パッと見ただけではどんな店なのかわからない

かつて銀座の街に多くの著名人でにぎわうサロンのような洋食店があった。その店の名は「銀座キャンドル」。ある年齢以上の大人たちにとってはおなじみの銀座の老舗である。
惜しまれつつもいったんはその歴史に幕を閉じたが、2024年新たに麻布十番の地でその味が蘇った。場所は、麻布十番大通りから路地を入った元麻布の閑静なエリア。スタイリッシュなビルの1階にあり、半地下になった店は隠れ家のようにひっそりとしている。

長いカウンターが壮観。暗めのライティングが落ち着くムードを醸し出す。秀逸なセレクトのワインや国産ウイスキー、日本酒、上質ソフトドリンク類もそろっている

扉を入ると、コンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュな空間に長いカウンターが印象的だ。モダンなカウンターフレンチのように、ゆったりと座れる椅子が並び、心地よい照明に照らされている。

奥にあるキャンディマシンは実はドアになっており、その奥に個室が隠されているという遊び心あふれる仕掛けも楽しい。

本物のアメリカのキャンディマシンを薄切りにしてドアにしている
 

マッキーさん

初代の店には高校生の頃から訪れていて愛着があり、銀座内で移転後の店にも訪れていた。閉店されたのは後から聞き、もう二度とあのチキンバスケットは食べられないのかと諦めていた。だが友人より教えられ出向き、昔の変わらぬ味に幸せになった。

洋食というジャンルを牽引する、シェフの思いとは?

店主の岩本忠さん。シンガポールやアメリカなどで店舗デザインや飲食店などを手掛けていたが、帰国して店を開いた

この店の店主・岩本さんは「銀座キャンドル」の3代目に当たる。本店のキッチンで修業したこともあり、オリジナルの味を知る貴重な存在だ。国内のみならず海外でも仕事をしていたが、日本の洋食を知って欲しいという気持ちから帰国してこの店を開いた。

「外国で暮らしていた時、現地の友人に“日本の洋食“を説明してもうまく伝わりませんでした。その時、日本の洋食は他の国にはない料理であり、ほとんど知られていないことに気がついたのです。でもそれはもったいないことです。そこで日本の洋食文化を残し、伝えていきたいという思いが生まれました」と岩本さん。

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今でも大切にとってある古いメニューが時代を物語る

「銀座キャンドル」の創業は定かではないが、1950年にはすでに営業していたという記載がある。アメリカ文化に影響を受けた初代が、アメリカのダイナーをイメージした、時代の最先端を行くレストランであった。やがて川端康成、三島由紀夫といった作家をはじめ、その時代を代表する著名な文化人たちが通うサロンのような存在になっていた。その後、銀座の中で何度か移転を繰り返したが、2014年に閉店を迎えるまで、銀座の老舗の一軒として長く愛された。

セピア色の色紙は「銀座キャンドル」時代のもの。吉永小百合、笠置シヅ子、渥美清など錚々たる名前が並ぶ
 

マッキーさん

昭和の古き良き丁寧な仕事が生きた洋食を、ぜひ食べてみてほしい。