食べログ3.5以下のうまい店

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!

食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていない“とっておき”の「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、おいしいものを知り尽くしたフードパブリシストの高橋綾子さんが太鼓判を押す「TOSAGE」です。食べログの点数は3.16ながら、その実力は?

※点数は2022年8月時点のものです。

教えてくれる人

高橋 綾子
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。

元麻布の住宅街にひっそりと佇む秘密めいた店「TOSAGE」

うっかりすると通り過ぎてしまうひっそり感

元麻布まで来ると六本木の喧騒が嘘のように静まり、高級マンションや豪邸が建ち並ぶ住宅地の中に「TOSAGE」はあります。重厚な扉に記された店名と周りより少し明るい灯火がなければ通り過ぎてしまうほどの隠れ家です。

テーブルに置かれているメニュー

秘密の店に入るような趣は席につく前からワクワクするというもの。食べること、飲むことが好きな人のために店を作ったと言うだけあり、メニューには魅力的な料理が並んでいます。中でも注目してしまうのがパスタ。パスタで〆るという発想もおもしろいですが、その数なんと10種類! 20gというミニサイズとはいえ、全種類制覇すると200gです。パスタのボリュームは通常80g〜100g、コースだと30〜40gなので3〜5種類選ぶのが平均だそう。そう、ここではパスタに何を選ぶか、そんな会話からスタートします。

エキサイティングな劇場型カウンターでライブを堪能

シェフの登坂 涼さん

シェフは爽やかな雰囲気が魅力の登坂 涼さん。小学生の頃からの「知り合いがワイワイできる店を作りたい」という夢を一途に追ってきた真面目人間です。物心ついた時には包丁を使って料理をしていた登坂さんは、20歳から12年間、西麻布「オッジダルマット」で下積みから修業。料理長を3年務めた後、「TOSAGE」をオープン。料理人になることに一度もブレがなかった登坂さんは神様に選ばれた料理の申し子なのかもしれません。

グレーを基調にしたファッショナブルな内装

空間も登坂さんのアイデアが満載です。劇場型のカウンターから眺めると厨房はアイランド型の火口を挟んで奥に登坂さん、手前には8年間一緒に働き初めてできた後輩でもあるスーシェフ、安藤勇一朗さんがいます。二人ともがカウンターに向かって調理しており、ゲストは常に調理風景を観ていられます。圧巻はパスタの調理が始まってから。千手観音のように小さなフライパンをいくつも駆使してソースとパスタを和えていきます。登坂さんがフライパンをクルリと180度回転させると、その持ち手を安藤さんがキャッチして盛り付けるという息のぴったり合ったコンビネーション技が見られるのもこの厨房ならでは。

一斉スタートではないので数種類のパスタも前菜も肉も同時進行!

登坂さんは一つの皿の上に必要な要素だけをのせています。だからソースを別の器で添えるというスタイルはありません。メニューを作る時はまずメインの食材に向き合い、どんな調理法が合っているのかを考え、食材の組み合わせなどを構築し、必要な味、香り、食感を揃えて完成させます。もし、このとうもろこしは茹でただけがいちばんおいしいと思ったら、茹でたてのとうもろこしを丸ごと提供するし、飾るためだけの余計な食材や調味料はのせないという潔さが登坂さんの皿の魅力なのです。