料理をさらに引き立てるペアリング

お茶やジュースをアレンジしたノンアルコールのペアリング。最初の1杯はノンアルコールのスパークリングワイン。

同店では、コースに合わせて アルコールまたはノンアルコールのペアリングが楽しめる。それぞれ7~8杯で8,800円と6,600円となっており、ワインはシャンパンから始まり、フランスのクラシックワインを中心に料理に合わせて赤、白などを織り交ぜていく。

お酒が飲めない人向けのノンアルコールのペアリングは日本茶や中国茶、ジュースなどだが、もちろんそれだけではない。例えば、ジャスミンティーといっても、紫蘇や梅などのエキスやジュースなどを加えてアレンジ。児玉シェフの独創的な料理に合わせたオリジナルのノンアルコールドリンクを展開していく。

ワインもノンアルコールも気になるという人は、両方を4杯ずつ味わえるミックス(7,700円)もあるので、そちらを試してみると良いだろう。

仕上げは2種のデザート

まるでアート作品のようなデザート。鮮やかな色味も児玉シェフの料理の特徴となっている。

コースの最後を飾るのはデザート2種。1つ目はミルクのアイスに煮詰めた昆布茶をかけ、松の新芽のピクルスをトッピング。仕上げに児玉シェフ自らが北海道に赴き集めてきた松で作ったオイルをひと回し。やさしいミルクと昆布茶のうまみが絶妙なバランスを見せ、松の香りがふわりと香る一品だ。

デザートにも驚きの食材が登場

手づくりのイチジクジャムを外はサクサク、中はしっとりのパウンドケーキにのせて。

コーヒー、紅茶に合わせ、お茶菓子としてパウンドケーキも提供された。サクッと焼かれたパウンドケーキにバターやイチジクのジャムを添えて食べると、満足感でお腹も気持ちもいっぱいになれる。

花粉荷そのものに甘みはないが、バターの甘みと塩気にコリッとした食感がアクセントを加えている。

なお、バターの上にのっている黄色い小さな粒は、花粉荷(ビーポーレン)というミツバチが花の蜜で固めた花粉だ。ミツバチの足に付いている黄色い団子というとイメージできるだろう。コリッとした食感が楽しさを演出してくれる。

食材の変化が生み出す新たなおいしさ

帰国後、イベントでオーナーの奥野さんと出会い、児玉シェフの料理に感銘を受けた奥野さんが創業の地を託すことに。

同店で提供するほぼすべての料理に、店内でつくっている発酵食品やピクルス、オイルが使われている。それが、それぞれの料理に驚きの香りや食感、味わいを引き出しているのだが、そもそも「発酵」を学びたいと思ったのはフランス滞在中だという。

児玉シェフは日本でスーシェフを経験したのち、フランスの星付きレストランで研鑽を積んでいる。この時にフランスで注目を集めていたのがデンマークの料理で、特にその発酵技術だったそうだ。デンマークは寒い国のため、冬の間は様々に工夫を凝らして貯蔵された野菜を使った食生活となる。北海道出身で、漬物や野菜の貯蔵といった技術にもともと興味があったシェフは、デンマークに赴いてモダンノルディックを学び、そこで使われる発酵や貯蔵のおもしろさに触れ、今のスタイルを確立していった。

店内に飾られているピクルスや発酵食品。牛肉を使った魚醤ならぬ牛醤もあるが、こちらは完成までに数ヶ月はかかるという。

取材時はオープン前にもかかわらず、店内でつくっている発酵食品やピクルスは15種類以上。植物の香りや味を移したオイルも多数そろえている。その中には、先述したようにシェフが自ら山に入り、自分の目で見て摘んできた素材もある。

それらがどのように料理に使われ、アクセントとなるのか。発酵食品やピクルス、オイルは日に日に味が調い変わっていくものなので、旬の食材とともに「その時にしかない」料理が展開される。児玉シェフの研ぎ澄まされた感覚によって生み出される味は、客にとっては予測不能であり、新たな食との出会いになりそうだ。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡崎たかこ(UP SPICE)
撮影:松村宇洋(UP SPICE)