奥野シェフ創業の店が「ACiD brianza」としてスタート

店内は「VIA Brianza 麻布十番店」から装いを新たにし、カウンター席も設置。

麻布十番駅から徒歩3分。路地を入った落ち着いた通りにある店舗は、イタリアンの人気オーナーシェフ奥野義幸さんの創業の地として長年、食通たちに愛されてきた「 VIA Brianza 麻布十番店」だった店だ。

その歴史ある店が、2022年6月に、「ACiD brianza(アシッド ブリアンツァ)」として新たな一歩を踏み出した。

新店を任されるのは、北海道・札幌の一軒家レストラン「Le Jardin Potager TERANISHI(ジャルダン ポタジエ テラニシ)」などでスーシェフを経験後、フランスやデンマークの星付きレストランでも活躍した児玉智也シェフ。
児玉シェフの繊細かつ大胆なアイデアが溢れる料理が堪能できるとして、今後も注目必至の店だ。

メニューはおまかせ1コースのみ

最初にアミューズとして揚げたスナックなどが出るため、前菜はさっぱりとした一品でスタート。

同店はランチ、ディナーともにコース1種類のみ。ディナー(16,500円)はアミューズ2種に、前菜にあたる料理が8種、メイン1種、デザート2種に食後のコーヒーまたは紅茶がつき14皿が振舞われる。

その時々の仕入れによりメニューは変わっていくため、同じ料理ではないことも多いというが、この日紹介された前菜のひとつは、火を通した牡蠣と青大豆、生のアーモンド、リンゴなどを和え、上に豆乳のムースを重ねた一品だった。
揚げたキヌアのカリカリとした食感が楽しく、セロリとパセリのジュースのさわやかな香りと淡い酸味が、暑い季節にさっぱりとした風味を演出している。

フランス料理とモダンノルディックが融合

焼きたての大根もちと温かなハモの一品。ソースの軽やかな酸味がこれからの季節にぴったり。

児玉シェフの料理は、フランス料理とモダンノルディックをベースとしている。そこに、和の食材や、貯蔵・発酵といったテクニックとアイデアを加えた児玉シェフ独自の世界が広がる。

盛り付けも色鮮やかでまるでアートの世界。そのためか、ひと目見ただけでは食材や味わいの想像がつかず、食べてみて初めてその一体感を楽しむことができる。

例えば、前菜のひとつには、ハモと大根もちが使われている。ソースには発酵させたトマトジュースとスイカのジュースを合わせたものに艶やかな深緑色のディルのオイルがかかり、酸味と甘みと香りが程よい三重奏を奏でる。

ハモも大根もちもフランス料理のイメージは薄いが、添えられたプラムのピクルスとオリジナルのソースとともにいただくことで、洋の一皿に仕上がっているのだ。

料理をまとめる、発酵したジュースなどのソースたち

北海道の郷土料理いももちがフランス料理へと変わる。

児玉シェフが得意とし、研究を続ける発酵のテクニックは至る所で料理に一筋の刺激を与えている。

3つ目の前菜にも発酵させた野菜ジュースが使われ、やさしい酸味が料理をまろやかにまとめている。中心にあるのは、児玉シェフの出身地である北海道の郷土料理いももちだ。
ここでは、いももちのもっちりした食感と周囲に添えたチーズのコクの中に、焦がした昆布のパウダーとオイルがインパクトを差し込む役割をしている。

「新鮮」を上回るうまみを引き出すテクニック

やわらかくうまみの強い北海道産黒豚。シェフの出身地である北海道の食材も多い。

メインは北海道産の黒豚。脂身が甘く、肉の味もしっかりして、食べ応えのある肉なだけに、ここはシンプルなうまみを追求しているが、添えている野菜には、やはり児玉シェフらしさが溢れている。

添えたニンジンはグリルしたもの。しかし、ただのニンジンではない。一度乾燥させたニンジンを鶏のスープで戻しているため、食感は切り干し大根に近く、鶏のうまみがほんのりしみ込んだものになっている。そこに青いサクランボであるグリーンチェリーのピクルスを添え、米麹で香り付けしたオイルをかけた。ここでも、ピクルスのさわやかな風味と麹の香りなど、味覚に加え、香り、食感などが刺激される。