2022年度の受賞店
続いて、2022年の受賞店の発表です。北海道「余市SAGRA」、山形県「出羽屋」、新潟県「里山十帖」、石川県「L’Atelier de NOTO」、東京都調布市「DON BRAVO」、神奈川県鎌倉市「北じま」、静岡県「温石」、広島県「AKAI」、長崎県「villa del nido」という9店が受賞。そして「The Destination Restaurant of the year 2022」は和歌山県の「Villa Aida」が選ばれました。
「出羽屋」の佐藤治樹氏は「私達の店がある山形県西川町は人口が5,000人を切っているような町で、少子高齢化が進み、そこで料理をやっていくという不安はある。そんな中で生産者の方や、関わる方がうれしくなる機会をいただいた」と喜びの声を語りました。
また、先日より石川県・能登地方には地震が相次いでいることもあり「L’Atelier de NOTO」の池端隼也氏は「世間では地震の話ばかり聞かれるんですが、当店はまかないのグラス1つ割れただけ。余震は続いてますが元気にやってますんで、キャンセルせずに来てほしい」と現地の状況を報告。「(新型コロナウイルスの流行下で)地域のレストランは、皆さん同じような苦労をされてるんだろうなと思って、歯を食いしばって頑張ってきた。こういった賞をもらえるようになってうれしい」と、苦境に立たされた地方の飲食界についても言及しました。
また、和食店や寿司店など魚をメインに取り扱うお店の方々は、気候変動により漁獲高が減っていること、取れる魚にも変化が起きているということを口にされることも多く、環境問題と「食」が今深刻な状況にあるということをあらためて実感させられます。
今後の展望などトークセッションも
レセプションを締めくくるのは、この「Destination Restaurants」のセレクションを担当した審査員、辻調理師専門学校 校長・辻調グループ代表の辻芳樹氏、レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長・本田直之氏、株式会社アクセス・オール・エリア代表取締役・浜田岳文氏という3名によるパネルセッション。
「なぜ、いまDestination Restaurantsなのか 〜食文化ルネッサンスとこれからのガストロノミーツーリズムのあり方」というタイトルで、この「Destination Restaurants」創設の意図や選考までの裏話、今後の展望についてまで、歯に衣着せぬトークが繰り広げられました。
「ミシュランガイド」や「ゴ・エ・ミヨ」のような世界的なグルメランキングがすでにある中、なぜ新たな評価制度を作ることになったのか。
「いろんなレストランガイドやランキングがあり、それぞれに意味があるけど傾向もある。それぞれのリストによりピックアップされスターになるお店が違うので、毛色が違っていてもいい。でも今回で言うと、地方のお店に焦点を当てたものが今までにはないと思ったので企画に賛同した」(浜田氏)
「新しいアワードをやろうとした時に、これまでと同じことをしても意味がない。これからは日本の地域や、もっと未来を考えながら注目していきたい。海外の人が来た時も地方のいいところを見てもらいたいし、もちろん日本人にも見てもらいたい。そういうのを話しているなかでこの企画は生まれてきた」(本田氏)
と、このアワードについて語っていきます。
OAD(Opinionated About Dining)が発表する「OAD世界のトップレストランのレビュアーランキング」で5年連続1位となっている浜田氏、世界中を食べ歩く美食家として知られる本田氏、そして言わずと知れた辻調グループを率い、首脳会議の夕食会をはじめ日本を代表する食のプロジェクトに数多く関わる辻氏。3人の会話は「日本ではガストロノミーツーリズムという概念がまだまだ定着していないのはなぜか?」という本質的な話にも。
「ガストロノミーをどう定義するか。ガストロノミーというのは概念だから、食というものの背後にある文化や歴史、ストーリー含めてのもの。目の前にある食が『おいしい・おいしくない』というものの一歩先にある」(浜田氏)
「日本ではフードツーリズムというと村おこしや町おこしなど、商品開発観点、マーケティングの側面があった。それが料理人を中心に地方が活性されなかった最も大きな理由だと思っている。でも地方は今食文化のルネサンスを迎えていてこの10年におけるそれらの転換期をどう思っている?」(辻氏)
「地方で頑張るシェフが出てきて、地方の食材に目が向けられるようになったことにより、生産者の方ももっといいものを作ろう、もっと勉強しようと変わってきた。その相乗効果で徐々に変わってきて、このアワードができるまでになったのだと思う」(本田氏)
日本における環境問題の話や、コロナ禍が収まってからのガストロノミーツーリズムの展望と課題など……短時間ながらも非常に情報密度の濃いトークセッションを経て、表彰式は幕を閉じたのでした。
撮影・文/川口有紀