ディナーコースの一例、キノコのデュクセルを巻いた仔羊

ゲストとシェフのちょうど良い距離感で極上のもてなしがある空間

京の台所と呼ばれる錦市場からすぐ。意外と住宅街の落ち着いた雰囲気を残す富小路通に面してある1階がカフェのビル、その2階に2022年3月14日にオープンしたフランス料理店「Luca」。ドアを開けて店に入り廊下を抜けた先の吹き抜け空間には、ランチ時間なら光が差し込みます。実はそれが店名の由来。光をもたらすものという意味を持つ「Luca」という名前には、ゲストとお店が互いに光をもたらしあう空間になればというシェフの思いがあります。

隣の席が気にならない、ゆったりとした空間

装飾も小さなものだけのシンプルな空間は、ゲストが座って絵になるフロア。木の温もりを感じさせ、いわゆるグランメゾンのようなテーブルクロスをあえて敷いていないのは、気軽さを表現するためのもてなしの一つで、程よさがあります。

ライトを照らして料理を仕上げるシェフ

オーナーシェフの桑原卓哉さんは、ホテルオークラ京都の「ピトレスク」、フランスの二つ星レストランで1年間料理留学。そして、京都の老舗料亭に併設された「ランベリー京都」でシェフに就任し手腕を磨かれたという華々しい経歴の持ち主ですが、もともとのキャリアスタートは京都の街なかにある「レ・シャンドール」。正統派のフランス料理を得意とする、サービスも行き届いたフレンチの名店での修業は、シェフにとって大切な時間だったとか。クラシカルフレンチからイノベーティブなフランス料理までの知識があるからこそ、バターを利かせた一皿もあり、その反面ノンバターのオイル仕立てなど、コースの流れと素材に合わせた料理を仕立てる、いわば「ちょうど良いコース料理」が味わえます。そういう意味でもこのお店、高級フランス料理店のように気後れすることはまったくなく、それでいて一流フレンチシェフによるコースが楽しめるレストランという、フレンチ初心者もOKの“いい塩梅”のおいしい店!

計算されたコースは最後までシェフ一人で仕上げる

ディナーからアミューズの一例(2人分)

料理はシェフ一人で、サービスはマダムの知世さん。素晴らしいコンビネーションで、ゲストを気遣いながら、ちょうど良い感覚でコース料理が提供されます。メニューは、昼夜ともシェフのお任せ季節のコースのみ。ディナーならアミューズ・前菜3品・魚料理・肉料理・デザート2品・小菓子の計9品で、1万3,400円(2022年7月~)。ランチは、アミューズ・季節の一皿・前菜・魚料理・肉料理・デザート・小菓子の計7品で7,200円(8月~・7月中6,000円)です。召し上がっ方々のSNSなどの評価は「コスパ良すぎ」のワードが目を引きます。

ある日のディナーコースを紹介すると…。
フライした赤米の上に盛り付けされたアミューズは、エディブルフラワーを添えた美しい一品の青のりを加えたライスチップオンパテ、シュー生地にチーズとアンチョビを練り込んで焼いたグジェール、日本の食材のムカゴとチョリソーとブラックオリーブのケークサレ。最初の一皿にふさわしくアーティスティックな仕立てで、ワインが進みます。この時点で「料理とワインのマリアージュをしたい」ならばマダムにすぐ相談を。

センスが問われる盛り付けもマニフィック

ゲストのことを考えながら、一皿ずつ丁寧に仕上げていくシェフ。最後の仕上げは、入り口近くのにある厨房のカウンターで行われます。その手際の良さは名店を経験したキャリアを物語り、横で見ていると見惚れてしまうほどです。

時間との戦いを感じる瞬間

最初はオープンキッチンにしたかったというシェフ。ですが慌ただしい動きのある厨房は見せずに、でも、ゲストのフロアをちゃんと見ることができるようにと、厨房とフロアを仕切る壁に少しだけすき間をあける工夫をしたとか。できるだけゲストの食事時間を邪魔しないようにという、もてなしがここにもあります。

前菜の一例は3つ目の温かい前菜

ディナーの前菜はフルコースらしく3品。冷菜が2品続いて、最後が温前菜です。ある日は、甘味をより引き立てる、あっさりとしたアスパラガスのベニエに、レモン味しっかりのシトロンビネガーでしめた〆さばと雲丹、お豆のフリカッセ。アクセントとなる自家製のドライトマトがちゃんと役目を果たし、この一皿もワインが進みます。

一例は全くバターを使わない、あっさりとした魚料理

楽しい食事時間を演出したい。そんな思いから時にはパフォーマンスも。温かいソースを目の前でかけるなど、シェフの頭の中ではさまざまな想像が描かれます。
ちなみに、食器についても少し。フランス料理でよく使われるボーンチャイナより、陶器の白いお皿やガラスのお皿などがほとんど。正統派とは違う、趣のある器を楽しむこともコースの醍醐味の一つです。

コースの中盤から終盤へ向けて、肉料理の前の和テイストがうれしい

魚料理の一例はアマダイのウロコ焼き。生ワカメや春食材のタケノコ、ワラビなどは、昆布だしベースで真空調理に。ソースは、アマダイのアラを使ったコンソメで、くず粉を使ってトロリとさせています。

肉料理の付け合わせは風味の良いバターを使いソテー

素材は中央卸売市場を中心にさまざま。もちろん目利きのシェフですが、それは時間があれば生産者のところへ見学に行く努力もあってこそ。現場に行って初めて知ることも多く、料理のヒントになることも多々あるそう。

目で見て音を聞いてというタイミングが大切な火入れ

メインの肉料理は、皮目をフライパンで焼いて、そのあとはオーブンでの火入れ。京都だけではなく、フランス、大阪などさまざまな料理人の下で学んできたシェフ。
マダムも「シェフの火入れは絶妙です」と話すほど、料理人としての感覚の良さ、勘の良さを感じさせます。

「さぁどうかな」と切り分けるシェフ

仔羊の肉で、仕込みに時間がかかるバターを使いマッシュルームを弱火で煮詰めたシャンピニオンのデュクセルを巻いたメイン料理。実際に切ってみないと中の火入れ状態がわからないというが完璧。

ソースにタラリとバジルオイルで色鮮やかさを増す

ある日のディナーメイン料理は、仔羊・レタス・原木椎茸・らっきょう・バジル。少しレア気味の仔羊に添えられたのは、シャキシャキ感を残したレタスに、肉厚の原木椎茸、人参に、季節を感じるらっきょうのバターソテー。肉の旨味たっぷりの濃厚ソースに、バジルオイルを加えたのが彩りも良くシェフらしい。

最後のデザートまでシェフが仕上げる
最後は爽やかなデザート

デザートは2種。この日のアヴァン デセールは、マンゴーのムースに軽く焼いたマンゴーの果肉、パッションフルーツを絡めたタピオカに、シャンパンのジュレ。その上にココナッツのソルベをのせて。
そして、コーヒーか紅茶とともに小菓子まででフィニッシュ。

ディナーの全9品という皿数。季節の食材を使いながら、味の変化や盛り付けの美しさ、流れのある構成はすべてシェフがゲストに楽しんでいただくために工夫をして計算をしていること。テーブルに供された瞬間から笑顔で味わえる、ずっと「次は何かな」と期待してしまう時間は、食事の楽しさを教えてくれます。

フランス料理と素材とゲストに誠実な桑原流の一皿

フランス料理20年以上の経験を持つ桑原シェフ

シェフと話をすると「料理を作るのが好き」ということがよくわかります。フランス料理を20年以上続け、日常になりながらも決して繰り返すだけではない桑原さんらしい料理の数々。穏やかで物腰柔らかながらも、フランス料理への強い思いがあるシェフのお人柄が感じられる一皿を味わったら、帰り際にはきっと次回の予約をしたくなるはずです。

※価格はすべて税込

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撮影:森 昭人
文:鳥井 淑子