一品一品、タイミングを計って揚げる天ぷら
先代が天ぷら懐石の店だったことを受け継いで、西岡さんのコースでも天ぷらをメインに据えている。ただし以前とはスタイルを変えて、お客さんの目の前で一品ずつ揚げたてを提供する。
食材も生産者のもとを訪ねて取引をはじめた品や、信頼できる八百屋から仕入れる野菜など厳選したものばかり。コースでは季節の天ぷらを6~7品用意している。琵琶湖産の稚鮎なら、直前まで生きていたものをお客さんの食事時間に合わせて〆て使う。
「天ぷらだけを何品も味わう専門店ではないので、食感の軽さだけでなく、衣もおいしい天ぷらを目指しました」と、衣の材料や配合、油も開店に際してさまざまに試したそう。
福岡県産100%の小麦粉を使った衣にはほのかな甘みが感じられる。ふわっとやわらかな口当たりで、すっと消えるような軽い口どけだ。
そんななか天ぷらの最後の品として出されるのが、先代が考案したというお豆腐の天ぷら。絹ごし豆腐を水切りせず使っているので、豆腐そのままのようななめらかな食感。濃いめに仕上げた出汁とねぎ、からしが添えられる。
料理のラストには温かい一品、つづいてご飯と漬物などご飯のお供が供される。締めくくりはお菓子とお薄。西岡さんは10年ほど茶道を習い、現在も店の定休日にはお稽古に通っているという。さらに最近は中国茶も学びはじめ、食中の飲み物として岩茶を用意している。
若い主人ならではの感性で伝統をつないでいく
西岡さんは大学時代に経営や建築、デザイン、インタビューなど幅広いジャンルを学んだ。その多角的で瑞々しい感性を斬新さよりもむしろ、日本料理という伝統の継承に注ぎこんでいる。「私だからこそできる方法で、日本の文化や職人、生産者と若い人たちをつなげたい」。そう語る主人の店と料理は、若いお客さんには新しい経験となり、日本料理店に通い慣れた人にも新たな息吹を感じさせるだろう。