「さくらさくら」に「穏 生酛純米 しぼりたて中汲み生」
4品目は「さくらさくら」に「穏 生酛純米 しぼりたて中汲み生」。さくらさくらと名付けられた一品は、酒かすで作ったスープだ。穏 生酛純米の蔵元である仁井田本家の酒かすと玉ねぎをじっくり煮込み、鯛と白しめじを加えている。1711年に創業した仁井田本家のシンボルでもある桜と、季節の桜鯛を合わせるという発想からの料理だという。
「コース6品のうち、必ず1品はスープを入れるようにしています。食べるスープというイメージですが、これでぐっと満足感が出るんです」とシェフ。酒かすのスープなので、酒の風合いが強くなりすぎないように、この一本を選んでいるそうだ。
小松宏子さん
優しい味わいと、搾りたての中汲みが桜のスープに優しく寄り添うようです。
「微睡み」と「奥播磨 純米 夢錦 生」
5品目は「微睡み」と「奥播磨 純米 夢錦 生」。微睡みとは、なんと、ダチョウの肉のローストだ。なぜ、ダチョウを?と聞くと「基本、赤身の肉を探していたのですが、箸で食べるスタイルなので、ナイフ・フォークのほうがおいしい牛豚は向かないと思い、そんなときに、ダチョウを思い出しました。試してみたところ、旨みが強く脂身の少ない肉がコースの流れの中でも非常にスムーズで、早速採用しました」とシェフ。
余談だがダチョウは、飼料が少なくて済む動物で、SDGsの側面からも推奨できる肉だそう。ローストしてまわりには、ほうじ茶パウダーをふり、芽キャベツのローストを添えている。「御燗するとどこかミルクっぽくなる奥播磨 純米 夢錦は、さっぱりしたダチョウの肉と相性抜群なんです」と柴田さん。
小松宏子さん
ダチョウと聞くと驚くかもしれませんが、まったくくせのない赤身です。季節によっては、鹿やイノシシなどのジビエを使うことも多いそうで、楽しみです。
「スキクイーン」と「天の戸 オーク樽熟成貴醸酒 貴樽」
最後の6品目はチーズだ。ノルウェー産の「スキクイーン」と「天の戸 オーク樽熟成貴醸酒 貴樽」。スキクイーンというのは、もともとノルウェーのチーズだが、どこか、キャラメルのようなほろ苦さと甘味を持った、とても食べやすいセミハードチーズ。くせがなく、誰もが好きな一品だろう。貴醸酒とは、水の代わりに酒で仕込む、デザートワインのような日本酒。スキクイーンのほのかな甘味とぴったりだ。
小松宏子さん
口の中でスキクイーンと、奥深い甘味のあるオーク樽で熟成した貴醸酒が溶け行く感覚は幸せです。
こうして流れを見ていくと、お二人が、食材の旬、そして日本の地のもの、路地ものを大切に使用していることがよくわかる。野菜はできる限り、オーガニック、低農薬を中心に使用している。だからこそ、素材そのものの味が前面に出て、日本酒の繊細な味とぴたりと決まったマリアージュを見せてくれるのだろう。
以上が料理と日本種のペアリングの全貌だ。6品では物足りないのではと思うかもしれないが、とんでもない。一品一品にボリュームがあるので、大満足だ。それを個性豊かな日本酒と合わせていく時間は、まさに至福だ。