〈ニュースなランチ〉

毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、編集部員や食いしん坊ライターによるランチ連載。話題の新店から老舗まで、おすすめのデイリーランチをご紹介!

奥浅草にある絶品だしで食べるうどん専門店

うどんには日本3大うどんがあるという。香川県の讃岐うどんと秋田県の稲庭うどん。残りの1つは諸説あるが、富山の氷見うどんを挙げる説もある。2022年3月、奥浅草に氷見うどんが楽しめるうどん専門店「兆(きざし)」がオープンした。東京ではあまり知られていない氷見うどんを名店仕込みの極上のだしで楽しめる店だ。

浅草五丁目交差点のすぐ近くにある

観光客で賑わう雷門や浅草寺を過ぎた北側に“奥浅草”または“観音裏”と呼ばれるエリアが広がる。かつては花街として栄え、界隈には老舗料亭や食通好みの名店が点在し、知る人ぞ知るグルメスポットだ。

入って右側にテーブル席が5つ、左側の小上がりの座敷には掘りごたつ式の座卓が4つある

奥浅草の一角に佇む「兆」は粋な白のれんが目印。元はインバウンド向けの飲食店だったという店内は純和風の造り。入口近くには小さな庭があり、和室には茶釜が飾られるなど料亭のような風情がある。

自慢は日本料理の名店直伝の極上だし

店名の「兆」は店主の名前から

店主の山崎兆さんの実家は、富山の著名な日本料理店「山崎」。日本全国からグルマンたちがわざわざ訪れる北陸屈指の名店として知られている。

「あるとき、コースの〆にうどんを出したことがあったんです。これが本当においしかった。こんなにおいしいうどんができるなら、うどん専門店をやってみようかと。『山崎』のクオリティを自分ができる範囲で表現するなら、うどんがいいのではと思ったんです」(山崎さん)

淡く澄み切っただしはにごりが全くない

「兆」のスペシャリテは「山崎」直伝の“だし”だ。店主自らが厳選した利尻昆布と本枯カツオ節、干しシイタケなどからベースとなる一番だしをひく。このだしに秘伝の2種類のだしを合わせ、合わせたものに昆布とカツオを加え、さらにだしをひいていく。

「うまみがくどすぎたり、素材のえぐみが出たりしないように、最後の一滴まで飲み干せるスッキリしただしに調整しています」(山崎さん)

3つのだしそれぞれに12時間も時間をかけて、だしをひくのだそう。手間暇かけてひくだしは、まさに日本料理の白眉。澄み切った黄金色の中に、昆布の甘みやカツオのコクなどそれぞれの旨みが調和しながらギュッと詰まっている。

だしのみで食べる! まるで懐石料理の一品のようなうどん

「兆」自慢の出汁をとことん味わえるのが「兆 うどん」だ。つゆはしょうゆやみりんなどで一切調味されず、だしのみを使用。究極のだしを味わうメニューだ。

「兆 うどん」 1,800円(税込)

味もスペシャルながら、供され方も懐石料理を思わせる趣向。最初に現れるのは、備前焼の器に盛られた薬味。器の上に飾られた和紙には「山崎」の大将、山崎浩治氏直筆で俳句の季語が書かれている。この和紙はマスクケースにもなり、ちょっとした遊び心を感じさせてくれる。

備前焼の舟形の器に盛られた薬味が一品の料理のようだ

薬味は季語にちなんだ旬の素材。この日は白髪ネギ、うるい、辛味大根。このほか、浅草の老舗「やげん堀」の七味も添えられる。

トッピングされているのは自家製のかまぼこ

輪島塗の器に入って、氷見うどんの登場だ。

氷見うどんは「手延べ」という製法で作られる。小麦粉に水と塩を加えて練り上げた生地を、熟成と延ばし作業を繰り返して細く延ばしていく製法だ。氷見うどんでは生地を作る際に手で練ったり、足で踏んだりという手打ちの要素も加わるため、のど越しの良さと餅のような弾力性を併せ持つうどんが生まれる。また、手延べ工程で油を使わないので、小麦本来の味わいを楽しめることも特徴だ。

最初のひと口はだしとうどんをシンプルに楽しみたい

氷見うどんには細いものと太いものがあるそうだが、「兆」では細い方を使用。細く、ツルリとしたのど越しのうどんは、滋味深く上品なだしによく似合っている。

だしのみというつゆは甘みも塩味もすべてだし素材由来。しょうゆなどで調味したうどんつゆとは異なるため、最初は少し戸惑うかもしれない。けれど、淡い味わいながら、どんどん広がる奥深い旨さに、気がつくとすっかりハマってしまう。

白ご飯はおにぎりスタイルで供される

うどんを食べ終わったら、残りのだしと白ご飯でだし茶漬けを楽しみたい。だしの旨さは冷めても衰えることがない。優しいけれど、旨みが最後までしっかり感じられ、他ではお目にかかれない味わいだ。