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〈広島のソウルフード・ローカル飯〉
1992年まで食肉市場が広島市西区福島町にあったことから、その近辺の地域のお好み焼き店では、約50年前から豚バラ肉のかわりにしょぶり肉(そぶり肉)が使われるようになった。今ではしょぶり肉が非常に手に入りづらくなっており、ほかの地域で扱っている店も少ないため、広島の名物グルメのひとつながら、広島市内在住でも食べたことのない人が意外と多い。今回は、しょぶり肉のお好み焼きが自慢の人気店に潜入し、その魅力をお届け。
教えてくれたのは
ひと味違うお好み焼きを求め、広島市西区天満町へ
今回紹介する店舗「武酉」があるのは、福島町の隣、天満町。
この近隣は、広島の超ローカルグルメ代表格の「ホルモン天ぷら」や豚の胃を揚げた珍味「せんじがら」、ホルモン汁の「でんがく」など、知る人ぞ知る広島の肉グルメがいろいろと楽しめる地域だ。暖簾をくぐり目に入ったのは「牛肉のお好み焼」と描かれた看板。お好み焼き=豚バラ肉がスタンダードな広島のお好み焼きの中で、ほかとはひと味違う一枚に出合えることを予感させる。
店主の橋本さんは、もとは流川で焼鳥店を営んでいたという。約17年前に現在の場所へ移転し、煙が出ないように配慮しようと考えたことから、お好み焼き中心のスタイルに変更した。「この地でお好み焼きを提供するなら、やっぱりしょぶり肉は外せんよねぇ」。その言葉通りこちらの店では、「肉玉」と言えばしょぶり肉を使ったお好み焼きを指すのだ。
味の要はやっぱりしょぶり肉
しょぶり肉とは、牛のあばら骨についた肉のこと。骨と骨の間にある細長い肉で、牛1頭からわずか2〜3kgほどしか取れない貴重な部位だ。柔らかな脂身と歯応えのある赤身が折り重なっており、骨から出る旨味と甘味がたっぷり。焼肉店では「中落ちカルビ」として提供されている、人気の希少部位だ。
自家製の生麺は注文毎の作りたて
「武酉」のお好み焼きのもう一つの特徴が自家製の麺。一晩寝かせることでコシを出した生地を使用している。乾燥しないように注文が入ってから切って茹でるため、提供までにやや時間はかかるが、ほかでは出合えない味わい深さと食感になると言う。
濃厚な旨味が溢れる! しょぶり肉のお好み焼き
押し焼きにして肉の脂の甘味を浸透させる
まずは、山芋入りの生地を薄く伸ばし、その上にキャベツをどっさりと。厚みのあるしょぶり肉は別で焼き、後からキャベツと麺の間に潜ませる。しっかり押し焼きするのもポイントで、そうすることでしょぶり肉の旨味とキャベツの甘味を全体に浸透させているそうだ。仕上げに青のりとガーリックパウダーをたっぷり振りかけるのも、ヤミツキになる味の秘訣だ。
いざ実食! カットするとしょぶり肉がゴロッと
噛むほどに感じる、心地よい麺のパリパリ感とざく切りキャベツの甘味。そして、それら強者の中にしっかりと存在感を光らせているしょぶり肉。そのほどよくジューシーで、口の中に広がる濃厚なコクがたまらない。それぞれの食材の個性が際立っているのに、絶妙なバランスでお互いを引き立てあっている印象だ。ちなみに、麺は基本パリパリに仕上げるが、「その日の気分で楽しんで欲しい」とパリパリにしないこともできる。
独自ブレンドのとろみのあるソースともよく合う。少し香ばしさを感じるこのソース、中には一体何が……?「それは企業秘密。実際に食べてみて、何が入っているか確かめて欲しい。全部当てるのは難しいかもしれんけどね(笑)」と楽しそうに笑う橋本さん。