【カレーおじさん \(^o^)/の今週のカレーとスパイス#57】「キクヤ」
カレー関係のお店が増えてきたことに伴い、カレー激戦区と呼ばれる街も増えてきました。三軒茶屋エリアも10年程前まではカレーの名店を数えても片手で足りるくらいでしたが、近年はすぐに両手が埋まってしまうくらいに良いお店が増えています。そんな中で今年1月にオープンした「キクヤ」というお店も、カレー専門店ではないのですが非常に面白いお店であり、スパイス料理ファンにとっては注目の新店舗です。
こちらのお店、メインはどうやらお好み焼きの居酒屋。それでいて、様々な料理にスパイスを使用していて、その使い方が実に面白いのです。
まずは「スパイス茶割(黒)」650円で乾杯。カシア(香りの強いシナモン)が利いたほのかに甘みも感じるお茶割り。ヘルシーです。これと一緒に出てきたお通しが興味深いものでした。
パニプリというインドのスナックなのですが、通常は球形でサクサクの生地の中に酸味のあるソースが入るもの。しかしこちらのお通しは、だしが注がれます。食べてみると中にはタコ。たこ焼き、あるいは明石焼きのような味に変化するのです。
「季節の前菜五種盛」1,500円は、メース(ナツメグの種子のまわりの網目状の赤い皮の部分)の香りをまとった芹のおひたし、マスタードシード風味の新大根の浅漬け、フルーツ人参とブラッドオレンジのココナッツの酢の物はキャロットラペのアレンジ、アチャールのような牡蠣のオイル漬、そしてコリアンダー香る金柑とチーズのムースという、それぞれがスパイスを印象的かつ効果的に使用したもの。この時点でこちらのお店がただ者ではないことがわかるでしょう。
続いて「スパイスおでん盛」1,200円を食べてみると、これはおでんつゆがサンバル(南インドの野菜カレー的な料理)のような仕立てになっています。サンバルとだしのうま味の掛け算で他にないおでんとなっていました。
まだまだあります。なんとこちら、「ビリヤニ」1,500円があるんです。お好み焼き居酒屋なのに!
しかもビリヤニも本格的。マトンビリヤニにライタ(インドのヨーグルトサラダ)にココナッツカレーも付いてきます。パラッと軽やかに炊かれたバスマティライスにマトンの重厚感。ライタやカレーをかけて食べるとなかなかの量にもかかわらず、スプーンが止まらず一気に食べてしまうようなおいしさです。
ここまででお腹もだいぶ満たされていたのですが、お好み焼きがメインなのにそれを食べていないことに気づいたのと、これだけ色々おいしいならお好み焼きも普通ではないはずだと、ねぎ焼きを頼もうとしたら「スパイス系がお好きでしたら、いか玉の方がおすすめです」と。ならば「いか玉」1,200円にしないわけにはいきません。そしてこれがまた凄かった!
まず見た目からして黒いんです。これにチーズを削ってかけてくれます。さらに黒いソースが付いてきました。これは何か聞いてみると、何とマヨネーズだというじゃないですか。混乱しながら食べてみれば、お好み焼きにはソースの味が付いており、これに黒いマヨネーズをつけて食べるとマスタードシードの程よい苦味を感じました。これがとても合うのです。こんなお好み焼き初めてですよ。
どの料理にもスパイスを使用しているというわけではないそうですが、メニューを見る限り過半数はなにがしかのスパイスを使用した創作料理に見えました。他の料理も気になるものばかり。個人的にはビールは飲まないのですが、クラフトビールにもこだわっているということでビール好きでスパイス好きな方にはたまらないでしょう。もちろんどちらか一つ好きでも十分に楽しめますし、どちらも興味がないという方でもおいしいものや面白い料理が好きなら問題なしです。
種明かしをすれば、お好み焼きのお店で修行したというマスターと、カレー好きなら誰もが知る超名店で働いていた方がタッグを組み、様々な料理を生み出しているという形。だからこその面白さなのです。
既にカレー界隈の方々、同店がまん防期間に行っていたモーニング営業やランチ営業(現在はモーニング営業はしておりません)に足を運んでいる人がちらほら見受けられますが、こちらのお店の真骨頂は夜にあります。一度行ったことがあるという方も是非また夜に行ってその飛び抜けた個性を再確認してほしいです。
激戦区三軒茶屋においても他に類を見ないお店であり、東京を探しても、いや、全国、世界を探してもこのスタイルは他に無いでしょう。まだ開店して3ヶ月あまりでこのレベルの高さと個性の際立ちよう。通いたいお店がまた増えてしまいました。