安定の中トロと2枚重ねのシメサバ

中トロのみ、年間を通して固定で登場。

寿司ネタは、店側がぜひとも食べて欲しいものを“おまかせ”にして組み込んでいるが、唯一、一年を通して固定なのが中トロの寿司。それだけ、絶対に食べてほしいということだ。

マグロは生の本マグロを、信頼を置いている、こだわりのマグロ仲卸から仕入れている。そして、すべての寿司にひと手間加えているのに対し、マグロとウニはそのまま提供している。逆に言えば、マグロはそれだけストレートに持ち味を楽しんでもらいたい寿司ネタなのだ。

イワシ同様、光り物のシメサバには“当たりねぎ”をのせる。

続くシメサバは、薄く切りつけたものを2枚重ねにした。酢じめもサバの脂ののり具合を見ながら変え、薄いと1日、しっかりしていれば2日といった感じで調節している。だから光り物のネタだが、ほんのり甘い。

2枚重ねにして握るのはシャリをネタで“覆う”ため。これは口に入れた際の一体感を考えてのもので、同店の寿司すべてに共通する握り方である。

煮穴子、トロタクの手巻でフィニッシュ

そして、にぎりの最後は煮穴子の寿司。同店では香りの強いメソッコ(若魚)を好んで使用している。江戸前寿司で重宝される寿司ネタだ。提供前にしっかり蒸して身をふっくらさせ、シャリを覆うように2枚重ねにして握る。シャリとネタが口の中でほろりと崩れ、煮つめの甘みが口の中にじんわり広がり、満足感もひとしおだ。

気づけばおまかせの寿司も、いよいよラスト。トリを飾るはトロタクの手巻寿司。三角錐ではなく筒状に巻かれており、口を大きくあけずにすむので上品に食べやすい。

トロタク巻は直接、客に手渡す。

トロは本マグロの中トロの筋ばったところをかいたもの。タクアンと組み合わせることで、食感と味にアクセントを出している。さらに、パリッとした海苔との相性が抜群で、後味よく食事を締めくくることができる。

若手寿司職人の登竜門的位置づけの店

伊藤大貴さん(左)と児玉久志さん(右)。

同店はこれからの「築地青空三代目」グループを担っていく、若手寿司職人の登竜門的位置づけの店。ここで寿司仕事の奥深さを学び、研鑽を積んだ寿司職人は、やがて店を巣立って系列店へと移っていく。するとそれと入れ替わりに、活きのよいフレッシュな若い寿司職人が、また新しく入ってきて、つけ場に立つ仕組みだ。

まるで出世魚のように寿司職人が成長していく過程を見守れるのも、この店ならではの楽しみの一つ。そんな、客と寿司職人との心地よい距離感が、この店にはある。

※価格はすべて税込

※本記事は取材日(2022年2月14日)時点の情報をもとに作成しています。
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取材・文:印束義則(grooo)
撮影:玉川博之