2. 地元食材のオリジナル寿司に注目「群馬いちもん金沢まいもん スマーク伊勢崎店」
「なぜこの発想がなかったのか!」と回転寿司の可能性を感じさせてくれる店が昨年10月群馬にオープンした。店の名前は「群馬いちもん金沢まいもん」。そう、「金沢まいもん寿司」が仕掛ける新業態の回転寿司店だ。
「群馬を握る まぐろ問屋いちもん」はマグロ問屋が経営する回転寿司店として20年以上、群馬の回転寿司を牽引してきた人気店であり、3年前に「金沢まいもん寿司」グループの傘下に入った。一方「金沢まいもん寿司」は日本の主要都市のみならず海外進出も果たし、今業界で最も勢いがある企業の一つになっている。
通常は元のブランド名のまま営業するか、親会社のブランドに変更するかのどちらかだが、なんと二つのブランド名を持った店舗で来るとは思いもよらなかった。店名に込められた思いを考えれば、真の意味での融合を目指していることがよくわかる。そしてこの融合は企業間にとどまらず商品にまで展開したことで、新たなご当地寿司が誕生することになった。
「そうか、回転寿司が行うべきご当地寿司のあり方とはこうだったのか」と気づかされた寿司を紹介したい。
「群馬では知らない人がいない」とまで言われ、創業120年を超える老舗味噌漬け店「たむらや」とコラボした一品。
地元密着型の回転寿司店では地産地消に根ざして地元食材を使ったオリジナルの寿司の創作に取り組んでいることが多いが、これほど目から鱗が落ちたことはない。地元で有名な老舗の食材を使った寿司ならば、地元の方はもちろん、観光客にも大きなアピールになるし、何より文化の融合によるシナジーが期待できる。
こちらの寿司は真鯛と酢飯の間に「たむらや」一番人気の「みそ漬け大根」が挟み込んであり、大根のパリッとした心地よい歯応えと濃厚な味噌の旨味が素晴らしくマッチしている。近年、最も感心した寿司の一つである。
創業60年ほどになる「下仁田納豆」は、昔ながらの手作りにこだわる高級納豆店として全国にも知れ渡っている。七輪による備長炭で暖をとり発酵させた納豆はふっくらとしており、一度食べたら忘れられないと評判である。
こちらは高級納豆「黒大粒豆納豆」を使用しており、ふっくらホクホクの食感と栗きんとんのような滑らかな味わいがたまらない。この納豆のポテンシャルを保つためにフリーズドライの醤油をトッピングしているところが工夫の表れ。ブラックダイヤと呼ぶにふさわしい黒豆納豆のインパクトが心に残る寿司だ。
日本有数の肉用牛一貫経営牧場(子牛の誕生から出荷までを手がける)として60年の歴史を持つ「鳥山畜産食品」の赤城牛は、赤身の旨みを極めた肉として知られている。中でも希少部位のミスジは旨味成分でアミノ酸を多く含み、やわらかくきめ細かな肉質が特徴であり、これを淡雪塩という米粉を使った塩で仕上げている。とても口溶けが良く、肉の上に雪が降ったような視覚効果も与えてくれる。
「群馬の赤城牛か……この味わいとともに覚えておこう」という気持ちになる人は多いのではないか。
全国のうずらの20%を飼育している「高崎クエイル」は、餌からこだわり抜いた鶏卵を上回る栄養価のたまごを生産している。この卵黄を醤油漬けにしているのがこの寿司のポイント。自家製ネギトロの中巻寿司とのカップリングで、とろけるような卵黄の濃厚な味わいがさらに引き出されている。
ご存じ、北陸が誇る史上最強の貝の一角「バイ貝」を、450年以上の歴史を持つ群馬が誇る老舗中の老舗「糀屋」の塩糀でいただくという、この店のコンセプトを体現した一皿。まいもん寿司で使用している「能登塩」を原料とし、「糀屋」の技術力でオリジナルの塩糀を開発したというのだから、これ以上のコラボ寿司はないだろう。
その塩糀にバイ貝を漬け込むとこれがなんともまぁ良い香りで、旨味が凝縮された糀にクラクラとするくらいだ。それに負けないバイ貝の味わいもなんとも鮮烈。まさに北陸と群馬が融合した新ご当地コラボ寿司である。
コラボ寿司を実現するにあたり、各企業に出向き寿司や食材への思いをぶつけ、ご理解いただき、協力してもらえることになったと聞いた。
これまでご当地寿司とはその土地の名物食材を使った寿司だとばかり思っていたが、名物企業の商品もまたご当地寿司になり得ることをこの店は示してくれた。それはありそうでなかった発想であり、大手チェーンに圧倒されて疲弊している地域密着型回転寿司店の未来を創造するものであると思っている。「金沢まいもん寿司」が本気で群馬に根差そうと考えに考え抜いたからこそ誕生した寿司であり、その尽力に心から敬意を表したい。
群馬のいち「もん」、金沢のまい「もん」。「もん」つながりの両寿司店の文化融合により生まれたこの寿司たちが、業界に不動の価値観をもたらすまでにそう時間はかからないはずだ。