食べログ3.5以下のうまい店
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
そこで、グルメなあの人にお願いして、まだまだ知られていない“とっておき”の「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、おいしいものを知り尽くしたフードパブリシストの高橋綾子さんが贔屓にしているという、神奈川・馬車道の鉄板焼き「宮地亭」をレポート。食べログの点数は3.22ながら、その人気の秘密は?
※点数は2022年2月時点のものです。
教えてくれる人
高橋 綾子
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
地元民に愛され今年35周年を迎える「宮地亭」
宮地龍彦さんと奥さまの和子さんが横浜・反町に「宮地亭」をオープンしたのは今から35年前、1987年のことだった。料理店経営への転職を決めた宮地さんがまず行ったのが東京の店を食べ歩くこと。食べて食べて食べまくって、「まったく料理経験のない自分ができるとしたらこれしかない」と選んだのが“鉄板焼き”だ。
当時、横浜の鉄板焼き店はお客が自分で焼くスタイルが主流で、食事をするというよりは楽しむという傾向が強かった。しかし、同じような店を作っても意味がないと考えた宮地さんは、夫婦で鉄板焼きの有名店をひたすら食べ歩き、自分たちのスタイル、自分たちだけの料理を模索したのである。そうして編み出したのが、お好み焼きをメインにすべての料理を宮地さんが作って提供する“レストランスタイルの鉄板焼き店”だ。
こだわりは“オンリーワン”
目指す道が決まれば次はメニュー作りだ。他店と同じ料理だとそちらの方が気になってしまうからと、自分にしか作れない“オンリーワンな料理”にこだわった。看板メニューとなる広島風お好み焼きと関西風お好み焼きは実力店の門を叩いて修業させてもらい、試作を重ねた末、ソースがおいしく山盛りキャベツを蒸し焼きにした宮地さんオリジナルのものが完成した。さらに、宮地さんの持って生まれた舌のセンスは、食べ歩きで研究し尽くした様々な料理や味わいという武器を手にして見事に開花し、「目利きのお刺身盛り合わせ」や「お酢だけで食べる餃子」など“オンリーワンな料理”がどんどん仕上がり、開店準備が整った。
さて、めでたくオープンはしたものの宣伝にかける資金の余裕はなく、なかなか認知されずに客は1組だけという日もあったと言う。しかし他にはない料理に、来店した客は「あの店、おいしい」と、2度3度と訪れ、常連となっていった。気づけば満席の日々が続くようになり、予約の電話は営業中でも鳴りっぱなしで、2回転、多い時は3回転と大忙しだ。
移転後はさらに予約困難度がヒートアップ!
2018年9月、縁あって現在の場所に移転することになった。元々、地元や勤務先が馬車道近辺の客が多かったので「近くなってうれしい」と移転オープン日から大繁盛。すでに地元民にとって「宮地亭」はなくてはならない存在となっていたのである。
この店が人気なのは料理だけではない。素晴らしいチームワークによる、“お客さまが何をして欲しいかを考える”という接客にある。寡黙だけど時折見せる笑顔が素敵な龍彦さん、親しみのある接客と完璧な采配でホールを仕切る妻の和子さん、ホールと厨房をつなぐソムリエで娘の里奈さん、龍彦さんの右腕であり継承者となる息子の俊幸さん。家族4人がそれぞれの役割をこなし、アルバイトのスタッフを含め、足りないところは阿吽の呼吸でお互いにカバーし合う。
酒や料理がなくなる頃には声がかかり、料理をシェアしそうだと思うとスッと取り分け用のカトラリーや皿が運ばれてくる。生ビールは冷え冷えのジョッキに注がれ、泡の注ぎ方もパーフェクト。全員がキビキビと無駄なく動き、雰囲気はアットホームで初来店でもその居心地の良さに驚くだろう。