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富山「L’évo」× 浅草「Nabeno-Ism」コラボイベント開催!
名店のシェフがコラボするイベント『食べログ Special Dining』。今回の主役は、富山県産の食材に食器、調度品、富山の魅力を前面に活かしてブランドを築いてきた富山の名店「L’évo」と、21年間ロブション・グループに勤務し、エグゼクティブ・シェフとして活躍してきた渡辺氏率いる「Nabeno-Ism」。今話題の2人のシェフのコラボイベントが、2017年10月24日(火)~10月25日(水)の2日間限定で開催される。
料理で富山の物語を伝える「レヴォ」〜L’évo鶏編〜
イベントに先駆け「L’evo(レヴォ)」の谷口英司シェフとともに富山県へ行き、シェフと生産者の繋がりや絆、生産地から食卓までの軌跡を連載でお届けする。今回は、レヴォ専用に養鶏された名物の「L’évo鶏」の美味しさの秘密に迫る。
手付かずの自然に溢れる恵み
生い茂る緑、澄み切った空気、虫の鳴く声……ほとんど整備がされていない道無き道を車で走らせること約15分、現役の水車が目の前に飛び込んで来た。
「あ、お母さんや!」
谷口シェフは車から降りて笑顔で手を振る。富山の山奥でレヴォ名物の「L’évo鶏」を育てている生産者のご家族だ。
まるで帰ってきた家族を温かく迎え入れるように、続々と生産者の皆さんが集まってくる。「裏の庭にクズの花やミョウガができてきたよ」と娘さん。わざわざ育てているものではなく、山の自然のパワーで作られた正真正銘の“自然農園”だ。
「あ!できてる!」
「L’évo鶏のことでこちらに来るにつれて、裏庭に潜むこの秘密の花園を発見したんです。“ここにできている食材が欲しい”と言ったら、“勝手に育ったものだし好き放題採って行っていいよ”と言ってくれて(笑)。それ以降、ここで貰ったものもお店の料理で使ったりしています」
そう無邪気に笑いながら話す谷口シェフ。何気ない会話の中にも、忘れられた地元の食材を生かす姿勢がうかがえる。
ないものを形にする、対話と情熱から生まれたL’évo鶏
L’évo鶏の生産者である橋下さんは、両親の代からコメと卵を作っており養鶏はやっていなかったという。そんなある日、谷口シェフがこのハウスに来た時に、ふと出来心から卵を産むための一羽の鶏を捕まえて、お店まで持って帰って来たそうだ。
いざ、食べてみると「お、美味しい!」。その驚きと感動が、L’évo鶏を作るきっかけだったという。
「最初、谷口シェフから“レヴォ専用のL’évo鶏を作りませんか?”というオファーを頂いた時は正直、半信半疑でした。私たちに養鶏の経験は無く、挑戦してみても成功するかわからない」
「でも、この山奥まで足繁く通い、熱心に私たち生産者に耳を傾けてくれる谷口シェフと関わっていくうちに、“やってみたい!”という想いが強くなっていきました。それでも不安の方が大きかったですが、僅かな可能性に希望を感じ、チャレンジすることになりました」
2016年にスタートしたL’évo鶏プロジェクト。しかし、最初は失敗と試行錯誤の連続だったという。ヒナ鶏を育てる環境、エサ、品種、味……全てが手探り状態。お店に安定供給できるまで1年半の年月を要したという。
そんな厳しい状況の中でも、諦めずに生産者の方ととことん向き合い、対話し、形のないものを創造していく。アイデアや夢を実現する力は、両者の絆から生まれる賜物に他ならない。
生産者と食べる人を繋ぐ伝道者
「谷口シェフって、ただの“料理人”じゃない気がします。生産の現場と食べる人を繋ぐ架け橋のような役割をしている“伝道者”みたいな存在。私たちの想いをテーブルまで運んでくれるのはもちろん、L’évo鶏を召し上がってくださったお客様のフィードバックもくださる。そのニーズがあるからこそ更にいいものに改良していけるんです」と橋下さんは言う。
富山の食材と生産者に対するリスペクトを持ち続ける谷口シェフ。彼が独自で作り上げた、“ハウスからレストランまでを繋ぐサイクル”こそが、螺旋階段のように食材と料理を進化させる秘訣なのかもしれない。
持続可能な形とは?地域の未来を見据えた料理人
「私が富山県で料理人を始めた5年前の頃は、自分のお店だけで使いやすい西洋野菜などをオーダーして作ってもらっていました。でもある日ふと気づいたんです」
“富山の美しい自然で育った旬のもの、忘れられかけた食材を無駄無く使いたい。今、その瞬間にあるものを活かした料理の方が面白い”
「この発想の転換が起きてから、厨房に閉じこもるのではなく、外に出て生産者さんの元へ足を運ぶようになりました」という谷口シェフ。
「地産地消」という言葉を綺麗事や流行として流す気などはさらさらない。眠っていた生産者を甦らせ、利益をもたらし、持続可能なシステムを築いていくこと。より広義的かつ長期的な根深い問題にも目を向け、将来の地域のあるべき姿、富山の未来を見据える、新しいシェフの姿がそこにはある。
ヒントは自然の贈り物の中に
「ハウスの横で育てているイチジクが、そろそろできてきたんですけど、食べてみます?」と言う橋下さんに連れられて外に出てみると、たくさんのイチジクが幸せそうになっている。
皮をむかずにパクリ。一口食べてみると、そのみずみずしさ、優しい甘さが口の中で弾けた。お店で買うイチジクとは劇的に味が違うのだ。
「めっちゃ、美味しいなぁ……」
そう呟いてイチジクの官能的な断面をじっくり見つめる。きっとこのイチジクも、谷口シェフの魔法で、鮮やかな一皿に仕上げられることだろう。
「暇があったら生産者さんの所に行きます。素材とこの土地を知り尽くした生産者さんとの会話の中で、料理への閃きが生まれることが多いですから」
自然や生産者の声に耳を傾け、柔軟に、ルールに従わずに、大胆なことを実験的にやる。県外からも多くの人がレヴォに足を運びたくなる理由。それは、谷口シェフの料理を通じて“自然との繋がりや自由”を感じられるからではないだろうか。
完璧でなくていい。富山らしい、レヴォらしい料理を開発する
今、贅沢な料理はこの世の中に溢れている。しかし、谷口シェフが目指す姿はそこではない。シンプルに富山の素材を活かした素晴らしい料理は、料理人の苦労とテクニックから生まれる。
「もちろん、素材ありきの料理は自然が相手ですから、簡単なことではありません。100%のものを120%にする従来のやり方ではなく、時には50%のところからどうやって100%や200%まで持っていくか。そこには機転や創造力、テクニックが必要となってきます」
「でも最近は、そんなに気負わずに楽しくやることを心がけています。だって富山には、素晴らしい自然と情熱溢れる生産者さんという、強い味方=“チームレヴォ”がいますからね」。そう誇らしげに語る谷口さん。その目は希望とエネルギーに満ち溢れている。
料理“以外”のものも提供するレストラン
神通川沿いにひっそりと佇むリゾートホテル「リバーリトリート雅樂倶」の中に、前衛的地方フレンチ「レヴォ」がある。店内に足を踏み入れると、テーブル、お皿、カトラリー、メニュー表……料理の食材だけでなく、それ以外のものからも富山を感じることができる。
プロローグ
コースの最初に出されるのが4〜5皿からなるプロローグ。とうもろこしスープ、イワシのペーストをサンドした八尾町の最中、雛鳥の肝ムースが入った鮮やかなビーツのメレンゲなど、地場の食材と魅力を詰め込んだ料理だ。どんな小さな一口にも全ての食材が生きていることを感じられる。
L’évo鶏
L’évo鶏を仕上げるまで厨房は戦場と化すが、その中でも落ち着いた谷口シェフの動作から、注意力と集中力が伝わってくる。チームレヴォの一員でもあるスタッフも皆、富山県出身という徹底ぶりだ。
テーブルに運ばれてきた「L’évo鶏」。まるで森の中から出てきたかのような野生的な装いに目も心も奪われる。
名古屋コーチンを掛け合わせ、もも肉を味わうために養鶏された専用の「L’évo鶏」は筋肉質ながらもしっとりとやわらか。生産者の方達の想い、谷口シェフの富山への愛がこの一皿に詰まっている。
次回は、レヴォで味わえる富山のお酒特集
レヴォの名物食材「L’évo鶏」ができるまでの軌跡、谷口シェフと生産者の方々との関わりをご紹介した。次回は、レヴォの料理をより一層引き立てるお酒のワイナリーや、酒蔵をまわる。乞うご期待。
◆谷口 英司(L’évoシェフ):和の料理人だった父の背中を見て育ち、高校卒業後は板前を志す。高校卒業後に就職した宝塚の旅館でフレンチに魅了され、神戸で経験を積み、28歳で渡仏。フランスの三ツ星レストラン「ベルナール・ロワゾー・オガニザシオン」で腕を磨き、帰国後は神戸市内のレストランで修行。2010年に「西洋膳所 サヴール」のシェフとして活躍後、2014年に富山の魅力を世界に発信するべく38歳で「 L’évo 」をオープン。
写真:八木 竜馬
取材・執筆:アキレウス