料理で富山の物語を伝える「レヴォ」〜ワイナリーSAYS FARM編〜

イベントに先駆け「レヴォ」の谷口英司シェフとともに富山県へ行き、シェフと生産者の繋がりや絆、生産地から食卓までの軌跡を連載でお届けする。前回の「利賀どぶろく編」に引き続き、最終回は「ワイナリーSAYS FARM」との繋がりをご紹介。

氷見の小さな丘に佇むワイナリー

「最後は氷見に行きましょう。氷見は海と山に囲まれた美しい自然の町。新鮮な魚が獲れる漁港と広大な丘。ワイナリーの丘から見下ろす景色は最高ですよ」

そう話す谷口シェフに連れられて、氷見の里山の小さな丘の上に辿り着いた。

富山湾と市街地を見下ろし、立山連峰を望む小高い丘。この土地一帯が「SAYS FARM」のワイナリーだ。

ひとりの男のSAY-ひとこと-から始まった、唯一無二のファーム

2007年、氷見の漁港で魚卸を営む会社を親会社としてワイナリー「SAYS FARM」が立ち上げられた。

きっかけは、元は魚屋だった「釣屋 魚問屋」の社長の次男坊さんの「氷見のワインを作りたい」というその一言だったという。その夢に賛同した多くの人の想いが集まってできた、世界に一つだけのファーム。それが「SAYS FARM」だ。

葡萄は100%自社原料のみを使い、有機栽培で育てられている。高い標高と吹き上がって来る海風、氷見の自然が生み出す、この土地でしか造れない、この土地でしか味わえない特別なワインだ。

ファームには、ワイナリーや畑だけでなく、カフェや宿泊施設、ショップも併設されており、美しい大自然の中でゆったりと寛げる温かい空間が広がっている。

カフェではワインの他にも、農園の新鮮なお野菜やハーブ、フルーツなどを使った絶品料理も愉しめる。

何も知らないからこそ、何かを形作れる

ワイン醸造家の田向 俊さんと谷口シェフは、ワイナリーがオープンした当時からの長い付き合いだそう。もともと田向さんは、セイズファームの母体である氷見の老舗魚屋で働いており、氷見ワインを作る計画が出た際に突然、ワインの醸造家として任命されたという。

「最初は驚きましたよ。魚屋からワインの生産者へ転職なんて、普通考えられませんよね(笑)。でも彼の夢に対する熱意と本気が伝わってきて、やるしかないと思って必死に勉強しました」

「私は長野県で修行をしたのですが、やはりワインは土地の気候に左右されるので、富山の氷見独自の栽培方法を見つけなければいけませんでした。失敗と苦労の連続でしたね。でも自然が相手なのでトライアンドエラーでやっていくしかない。そのスタイルは今も継続中です」と田向さんはいう。

立ち上げ当初からワイナリーの歴史や苦労も知っている谷口シェフ。「最初僕がここにきた10年前は、30年間耕作放棄地として放って置かれていた何もない殺伐とした畑でした」

「それから沢山の試行錯誤を重ね、苦難を乗り越え、今やこんなに素晴らしいワイン農園が目の前に広がっている。何も知らないところからスタートしたとは到底思えないですよね」

その感慨深い表情からは、ワインを単に仕入れる“シェフ”ではなく、ワインの生産者に寄り添う“パートナー”としての熱い思いが感じられる。

何もないゼロのところから、新しい価値を生み出し、夢を実現させていく。谷口シェフもレヴォの立ち上げ時にその辛さや葛藤を経験したからこそ、この両者には共感・共有できるものがあるのだろう。

料理とワインの化学反応

セイズファームでは、レヴォ専用の樽とラベルなどを用意し、レヴォの料理に合わせた世界で一つの「レヴォワイン」を作っている。

「樽を一旦丸ごと一つ買うから、レヴォ専用のワインを一緒に作ってくれませんか?」と、谷口シェフがお願いしたことからこの計画は始まったという。

「最初、谷口シェフがワイナリーに来られた時はびっくりしました。卸業者の方が来るのが普通でシェフが直接農園に来るのは珍しいので」

「一方、元々は卸業者を通じて県外のお客様に出荷することが多かったので、地元富山のレストランで、私たちのワインをお出しできるというのは新鮮で、とても嬉しいことでした」

「また、谷口さんとは物理的にも精神的にも距離が近いので、レヴォでどういう風にワインが飲まれているか、お客様の声や表情までわかるのが私たちのやりがいにも繋がっています」という田向さん。

「今でもお互いのお店を頻繁に行き来して、情報交換を行なっています。ワインがパワーアップする度に、料理にも良い刺激を貰えるんですよね」と谷口シェフは言う。

“もっと美味しい料理・ワインを作ろう!”という両者の切磋琢磨する思いが、それぞれの味にさらなる磨きをかける、相乗効果の秘訣なのかもしれない。

そして、より良いものを目指す向上心が優雅なマリアージュとなって、レヴォの料理とワインは唯一無二の化学反応を起こしていく。

両者のピースを組み合わせ、一つの作品を作り上げる

「谷口シェフは、頻繁にワイナリーに足を運んで、好奇心旺盛によく観察し、素朴な疑問を投げかけてくれる。その何気ない会話の中から、私たちが見過ごしがちな新しいヒントをもらえたりするんです」

「今回のコラボイベントなどで、東京の方に富山の素材や魅力を発信してくれることには、生産者として言葉に言い表せない感謝の想いでいっぱいです」と言う田向さん。

一方の谷口シェフはこう語る。「僕たち料理人は、毎日がチャレンジですが、ワイナリーさんは1年に1回きりと言う一発勝負かつ、長いスパンでの戦いなんですよね。その限られた回数での意気込みや緊張感、集中力は半端じゃないと思います」

「富山にはこういう前向きで、ひたむきな生産者さん達がたくさんいてくれるからこそ、僕はレヴォで“富山縛り”のフルコースを作れるんだと思います」

彼は、富山を発信するという大きな役割を担っているが、そこに重苦しい責任感や気負いはない。こまめに生産者の元へ足を運び、ビジョンを共有し、お互いを認め合い、高め合う。

このシンプルな繋がりが今、大きな輪となってチームレヴォ、チーム富山を盛り上げる起爆剤となっている。

ペアリングは計算ではなく、二人の関係から

栽培品種はシャルドネ、ソーヴィニョンブラン、カベルネ、メルローなど。氷見の独特なテロワールの清涼感のある味わいとフルーティーなアロマの香り、ミネラル感が特徴的だ。

口の中をリフレッシュさせてくれるキリッとしたシャルドネは、白身魚や貝類の料理とペアリングさせる。

四方 鱧

富山県北部の漁港町、四方で獲れた鱧は、香ばしく焼きふんわり柔らかな食感に。三種のソースで味の変化を愉しめる。セイズファームのワインとの相性は抜群。

射水 大越中ばい貝

富山県西部の射水で獲れた大越中ばい貝は、富山の山菜「よし菜」とおかわかめをあしらい、コリっとした食感がたまらない。貝のソースの香りとともに、海を感じる力強い味わいが印象的だ。

料理がワインを引き立て、ワインが料理を引き立てる。お互いにエネルギーを与え合うことでより一層美味しさが際立つ。その優しい味わいと絶妙なペアリングは、計算で生まれるのではなく、お互いを知り尽くした“二人の関係”から導き出されるものなのかもしれない。

いよいよ開催!富山「L’évo」× 浅草「Nabeno-Ism」コラボイベント

以上、3回に渡って富山「L’évo」の谷口シェフと生産者さんの繋がりをご紹介した。いよいよ10/24〜25の二日間、浅草「Nabeno-Ism」で開催されるコラボイベント。そこでは、今回ご紹介した富山の食材をふんだんに使ったスペシャルなコースが待っている。

第1回 そのレストランのためだけに育てられた鶏がいる。

第2回 地元の人も知らない”どぶろく”を使ってフレンチを。

 

今回のイベントに参加できなかった方も一度、富山のレヴォまで足を運んでみてはいかがだろうか。

◆谷口 英司(L’évoシェフ):和の料理人だった父の背中を見て育ち、高校卒業後は板前を志す。高校卒業後に就職した宝塚の旅館でフレンチに魅了され、神戸で経験を積み、28歳で渡仏。フランスの三ツ星レストラン「ベルナール・ロワゾー・オガニザシオン」で腕を磨き、帰国後は神戸市内のレストランで修行。2010年に「西洋膳所 サヴール」のシェフとして活躍後、2014年に富山の魅力を世界に発信するべく38歳で「 L’évo 」をオープン。

 

富山「L’évo」× 浅草「Nabeno-Ism」コラボイベント開催!

名店のシェフがコラボするイベント『食べログ Special Dining』。今回の主役は、富山県産の食材に食器、調度品、富山の魅力を前面に活かしてブランドを築いてきた富山の名店「L’évo」と、21年間ロブション・グループに勤務し、エグゼクティブ・シェフとして活躍してきた渡辺氏率いる「Nabeno-Ism」。今話題の2人のシェフのコラボイベントが、2017年10月24日(火)~10月25日(水)の2日間限定で開催される。

 

写真:八木 竜馬

取材・執筆:アキレウス