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近年、日本でもクリスマス菓子のひとつとして定着しつつある「シュトーレン」。しかしながら、本来の発音としては「シュトレン」が正しいとされていたり、まだまだ知らないことばかり。そこで、改めてどのようなお菓子なのかを、連載「スイーツ探訪」でおなじみ、お菓子の歴史研究家・猫井先生に解説していただきます。もちろん、今年注目のシュトレンのお店についてもじっくり教えてもらいます!

教えてくれる人

猫井登
1960年京都生まれ。 早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理科で学び、調理免許取得。ル・コルドン・ブルー代官山校にて、菓子ディプロム取得。フランスエコール・リッツ・エスコフィエ等で製菓を学ぶ。著書に「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス刊)、「おいしさの秘密がわかる スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版刊)がある。

【シュトレン誕生秘話】原型は人気のないパンだった!?

シュトレンとは、バターやドライフルーツ、ナッツをたっぷり加えた生地を発酵させ、焼成した後に溶かしバターを塗り、たっぷりと粉砂糖をかけたものだ。ドイツで、クリスマス前のアドヴェントの時期(11月下旬~クリスマス)に登場するお菓子として知られる。

14世紀頃には作られていたというが、本来アドヴェントは、心身を清めてキリストの誕生を待つ時期で、当時は肉、卵などの摂取が禁じられていたため、シュトレンも燕麦に水と菜種油を加えてこねただけの質素なパンで、人気がなかった。

そんな中、ザクセンの選帝侯(神聖ローマ帝国の君主を選ぶ選挙権を有した特権階級の諸侯)がローマ法王にシュトレン作りにバターを使うことを許可してほしいとの手紙を出し、認められる。「君主の周りだけ」という条件付きだったが、やがて広くバターが使用されるようになり、ザクセン州のシュトレンはおいしいと評判となる。

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ザクセン州の州都「ドレスデン」で毎年開催されるクリスマス市は、ドイツ最古のクリスマス市と言われるが、正式名称は「シュトリーツェル・マルクト」。シュトリーツェルとは、ドレスデンでのシュトレンの呼び名。つまり「シュトレン市」という意味で、1500年頃からシュトレンが売られていたという。

さて、時代は下って18世紀。ザクセンの選帝侯であったアウグスト2世は、1730年に行った軍事演習の際、招待客をもてなすためにドレスデンのパン職人たちに、長さ7m、幅3m、高さ30cm、重さ1.8tにも及ぶ巨大シュトレンを作らせた。馬車で宮殿まで運ばせ、長さ1.6mのナイフで刃を入れ、24,000人に振舞ったと言われる。

ドレスデンでは、このことを記念して毎年「シュトレン祭り」が開催される。3t近い巨大シュトレンをのせた馬車が市中を廻り、クリスマス市の広場で切り分けられる様は圧巻だ。

【シュトレンの規約】厳しいガイドラインに沿って作られる本場ドイツのシュトレン

ドイツでは、さまざまな食品に厳しいガイドラインが設けられている。シュトレンについても然りで、粉100kgに対して、バター30kg、ドライフルーツ60kgを材料としなければならない。「バターシュトレン」は、バター40kg、ドライフルーツ70kgとなっている。

成形前のミキシングの様子 写真:gettyimages

「ドレスナー・シュトレン」(ドレスデンのシュトレン)の規約はさらに厳しく、100kgの粉に対してバター50kg、サルタナ種レーズン65kg、レモン・オレンジピール20kg、スイート種・ビター種アーモンド15kgとなっている。

ドレスデンの保護組合は、組合員のシュトレンの品質を毎年厳しくチェックしており、「味わい」はもちろんのこと「香り」や「見た目」も審査され、20点満点のうち16点以上取らないと「ドレスナー・シュトレン」という名称での販売が認められないという。

【シュトレンの種類】実はバリエーションも豊富

マジパンシュトレン 写真:gettyimages

一口にシュトレンと言ってもさまざまなバリエーションがある。代表的なものとしては、棒状にしたマジパンを入れた「マジパンシュトレン」、ヘーゼルナッツのフィリングを巻き込んだ「ヌースシュトレン」、ケシの実を入れた「モーンシュトレン」などがある。

【シュトレンの形状と由来】代表的な形状は3つ!

シュトレンの形状については特に定めがなく様々なものが見られるが、 多く見られるのは、次の3つ。

  1. やや上部をずらして二つ折りにしたタイプ
  2. 両側をへこませて山型にしたタイプ
  3. 長めの楕円に成形し上部の中央にクープ(切れ目)を入れたタイプ(ドレスデンはこのタイプが多い)

シュトレンとは、本来「棒」「坑道」を意味すると言われるが、その形状については以下のような説がある。

  1. キリストのおくるみ、ゆりかごの形を模したもので、粉砂糖は生誕の日の雪を表しているという説
  2. 東方三博士が、キリストを訪ねたときに持っていた杖を模したものであるという説
  3. 神父がかける袈裟(けさ=シュトーレ)を模したものであるという説