2021年注目! 「シュトレン」のおいしい3つのお店

今回は、【1】本場ドイツの、かつてザクセン王室御用達であった老舗のシュトレンが購入可能なお店、【2】ドイツ菓子マイスター資格を有する職人のお店、【3】今注目の進化系シュトレンを作るお店の3店を紹介したい。

【1】 老舗のシュトレン「ディーン&デルーカ」

「DEAN & DELUCA」は、世界中のおいしい食べ物を集めた、食する喜びを伝える食のセレクトショップ。元々は高校教師をしていたジョルジオ・デルーカが、自分がおいしいと思うイタリア食材、とりわけ好きだったチーズをニューヨークの人々に紹介しようと開いた店。ここに古くからの友人であるジョエル・ディーンが足しげく通うようになり、二人で立ち上げたのが「ディーン&デルーカ」の始まりと言われている。

食材、総菜、パン、スイーツといった多様な食品を扱う。新宿店ではクリスマスの時期になると「クロイツカム」のシュトレンが登場する。

「クロイツカム シュトレン」4,070円

「クロイツカム」は、1825年にドレスデンで創業したコンディトライ(菓子店とカフェを併設した店)で、かつてはザクセン王室御用達であった老舗。ドレスデンが戦争で空爆を受けたためミュンヘンに本店を移転したものの、その後発祥の地であるドレスデンでも営業を再開させた。

こちらのシュトレンは、創業以来伝統のレシピに従い一つ一つ手作りされている。生地には地中海産のアーモンドやマジパン、レーズンなどが加えられ、発酵後、ドレスデンの伝統にしたがって上部中央にクープが入れられたのち、焼き上げられる。

焼成後の生地には2回溶かしバターが塗られ、グラニュー糖をまぶしたのち、粉砂糖がたっぷりと振られる。ほどよいスパイス感で、しっかりと熟成された生地は味わい深く、レーズンもジューシーだ。本場のシュトレンを是非ご賞味あれ!

【2】マイスターのシュトレン「ムッティス・クーヘン」

「ムッティス・クーヘン」店主の本郷さんは、短大を卒業後、会社勤めを経て、1990年渡独。語学学校でドイツ語を学んだ後、ドイツ・ヘーマー「カフェ・ポーゲル」にて見習い開始。ミュンヘンのホテルのパティスリー、ルクセンブルク「オーバーワイス」などで修業し、1998年には「ドイツ菓子マイスター資格」を取得。帰国後はユーハイムに入社。2012年にこちらのお店をオープン。

お店には、ドイツの本格的な生菓子や焼菓子が数多く並ぶ。特にクリスマスの時期は圧巻で、シュトレン系だけでも「クリストシュトレン」「ヌースシュトレン」「モーンシュトレン」「マジパンシュトレン」「シュトレンクランツ」などが登場し、そのほか、ドイツのクリスマスに欠かせない「レープクーヘン」やクッキー類も数多く登場する。

「クリストシュトレン」(L)3,200円

「クリストシュトレン」は、ラム酒漬けのドライフルーツをふんだんに使用した、バターたっぷりの生地。スパイス感はさほど強くなく、優しい甘さ。目は詰まっているが、程よい柔らかさ。日が経ち熟成が進むにつれ、味わいが増していく。ホットワインと楽しみたい。

「ヌースシュトレン」(カット)320円

「ヌースシュトレン」は、ヘーゼルナッツのフィリングを包み込んで焼き上げられたシュトレン。しっとり目の生地にナッツの旨味がしっかりと楽しめる。コーヒーやミルクティーとの相性もよい。

「モーンシュトレン」(カット)350円

「モーンシュトレン」は、ケシの実のペーストがたっぷりと包み込まれたシュトレン。ケシの実は、日本ではあんパンの表面に散らされている以外、あまり馴染みがないかもしれない。あっさりとした黒ゴマあんの味わいをイメージしていただければよい。プチプチとしたケシの実の食感が楽しい。

「エリーゼレープクーヘン」(小)350円

「レープクーヘン」とは、ドイツ、オーストリアなどで見られる小麦粉に蜂蜜とスパイスを合わせて作った焼き菓子。スパイスとしては、シナモン、ジンジャー、ナツメグ、コリアンダー、クローブなどが使われ、オレンジピール、レモンピール、ナッツ類を加えたものが多く見られる。

レープクーヘンの原型は古代エジプトまで遡ると言われるが、現在のレープクーヘンに通じるものは、13世紀頃にドイツ・バヴァリア地方の修道院で作られていた蜂蜜のお菓子であるとされる。

伝統的な製法で作られたレープクーヘンの底にはオブラートが貼りついているが(写真の白い円盤状のもの)、これは蜂蜜入りの生地が天板にくっつくのを防ぐためにホスチア(聖体パン)の生地(オブラート)を用いた修道院らしい知恵である。レープクーヘンを購入するときは、是非、裏側を確かめて購入したい。

こちらのお店のレープクーヘンも、伝統的な製法にのっとり、底にはオブラートが。生地はクリスマススパイスが使われ、しっとり柔らか。オレンジ、レモンピールがアクセントとなっている。

「リグニッツァーボンベン」450円

「リグニッツァーボンベン」は、レープクーヘンのバリエーションのひとつ。元々ポーランドのリグニッツとその周辺地域で伝統的に作られていたが、1945年の終戦後、ドイツ系住民がその地域から追放されるとその伝統が途絶え、現在はドイツのベルリンなどで見られるお菓子となっている。

こちらも伝統的な製法に従い、レープクーヘン生地にマジパン、イチジク、カレンズ(レーズンの一種)、アーモンドなどを練り込んで焼き上げられている。

「ドミノシュタイン」も、同じくレープクーヘンのバリエーションのひとつで、主にドイツやオーストリアでクリスマスシーズン中に販売される。

「ドミノシュタイン」380円

こちらは、伝統的なレープクーヘン生地にラズベリージュレとマジパンを重ねて、ダークチョコレートでコーティングしたもの。ダークチョコレートの味わいとマジパンの甘味、ラズベリージャムの酸味のハーモニーが素晴らしい。

【3】進化系のシュトレン「TOLO PAN TOKYO」

こちらのお店の田中シェフは、1979年生まれ・神戸市の出身で、元ボクサーという異色の経歴を持つ人物。ボクシングの減量中に観た『魔女の宅急便』で町の人がうれしそうにパンを受け取るシーンが印象に残って、パン職人を目指すきっかけになったという。

神戸のホテルでパン職人としての人生をスタート。東京・青山の「デュヌラルテ」にて、井出シェフ、柴田シェフに師事。同店をプロデュースした浅野氏からは、おいしさの徹底追求、微細な味のバランスなど、徹底したパン作りへの精神を学んだ。

「デュヌラルテ」にて6年間修行しスーシェフを務めた後、独立。2009年11月、池尻大橋に旧友の上野将人氏と現在の「TOLO PAN TOKYO」をオープン。独創的なパンの数々が注目されている。

ちなみに、店名の「トロ」は川の“流れがゆるやかな所”を意味する“瀞”から来ているという。サラリーマンが多いこの場所をゆるやかにしたいというシェフの思いが込められている。

さて、こちらで作られるシュトレンは、きわめて独創的だ。こちらでは「オリジナル シュトレン」と「シュトレン・エピス」という2種類のシュトレンが販売されている。今回注目したのは、後者の「シュトレン・エピス」!

「シュトレン・エピス」3,100円

外見からしてテリーヌのような形状で、ふつうのシュトレンのイメージとはまるで異なる。中心部は、シナモン、アニス、カルダモン、クローブ、ナツメグ、コリアンダーなどのスパイスとキャラメルを混ぜた生地に、キルシュ、ブランデー、蜂蜜に漬けたクランベリー、アーモンドやくるみを加えたもの。これを薄いパン生地で包み、さらにホワイトチョコでコーティングしている。

冷蔵庫などで保管した場合は、しっかりと常温に戻すか、スライスしてレンジなどで少し温めるのがおすすめ。柔らかくしっとりとした食感となり、スパイスの上品な香りとともに、ドライフルーツやワインの香りも立ち上る。

カリッとした外側の生地、羊羹のようにねっとりとしたキャラメルの利いた中心の生地、クランベリーの酸味、ナッツの食感、これにミルキーなホワイトチョコの甘味が合わさる。まさに従来のシュトレンの概念をくつがえす逸品だ。ホットワインやグラッパとともに、じっくりと楽しみたい。

※価格はすべて税込です。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2021年12月11日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・撮影:猫井登

文:猫井登、食べログマガジン編集部