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食べログ独自の年間レストランアワード「The Tabelog Award」の受賞店の魅力とともに、店主の行きつけ店をご紹介。スペイン料理「アカ(aca 1°)」のシェフが通う名店とは?
〈一流の行きつけ〉Vol.3
スペイン料理「アカ」東京
食べログが独自で開催する「The Tabelog Award」。一般ユーザーの意向が結果に反映される年に一度のレストランアワードだ。Gold受賞店は「この国のどこにあったとしても生涯通い続けたいお店」、Silverの受賞店は「一生に一度は味わっておきたい匠の技に出会えるお店」として美食家たちの注目の的となっている。
そんな受賞店の魅力とこだわり、店主が行きつけにしているお店を知ることで、一流店の持つ料理への思いや哲学を感じてほしいという試みから始まった当連載。
第3回は、スペイン料理に新しい風を吹き込む「アカ」。Gold、Silverともに受賞したことがあるオーナーシェフの東鉄雄氏にお話を伺った。
素材にフォーカスした独創的なコース料理で勝負をする
モダンなスペイン料理を堪能できる「アカ」。2013年に京都ではじまり、オープンしてから数年で西日本を中心とした美食家が集まる予約困難店となった。しかし、7年の営業ののち、その実績を打ち捨て勝負に出る。オーナーシェフ東氏は「アカ」のさらなる飛躍を求め、移転を決意したのだ。
「もっと新たなお客さんに食べてほしい。もっと初めて食べる方の反応が知りたい。そうでなければ自分に甘えが出てきてしまう」と、当時を語る東氏の言葉に並々ならぬ向上心を垣間見る。そうして2020年8月、東京・日本橋で「アカ」の第2章が開幕する。
「日本におけるスペイン料理といえば、パエリア、スパニッシュオムレツ、生ハム、アヒージョといったところでしょうか。皆様にはまだ味わったことのないスペインの美食に出会ってほしいと願っています」と語る東氏。
そのため「アカ」ではスペイン料理をコースでのみ提供している。料理のキャッチーさに頼らないのは東氏の自信の表れでもある。古典的なスペイン料理をベースに東氏の独創性が加わり、現代風に生まれ変わったコース料理はひとつひとつに新鮮なインパクトがある。
スペインの大衆食であるボカディージョ(スペイン風サンドイッチ)も東氏の腕にかかれば意外な一皿に昇華される。マリネした小肌の下にあるのはトマトを練り込んだパン。大葉で巻いていただけばさわやかな酸味と程よいうま味が折り重なっていく。
そして、パエリアといえばアサリやムール貝がのったもの。そんな常識を打ち破るのが「アカ」のパエリアだ。ドームカバーを開くと鎮座する毛蟹が客人の心を一瞬にしてわしづかみにする。もちろん味も一級品。活きたまま届く毛蟹のうま味がたっぷり濃縮された一皿だ。
「こまごまとしたコース料理を食べて、結局何を食べたのか……と、ならないよう、食材ひとつひとつにフォーカスしたお料理を食べていただきたいと考えています。お客様にはあの小肌おいしかったな、あの毛蟹のパエリアすごかったなとまた思い返していただければうれしく思います」と東氏。
「1mmでもおいしくなれば」。寸分の努力も惜しまないシェフの姿勢
東氏は25歳から料理の道へ進んだ。「遅いスタートだった」と言う。トップクラスの料理人へとのぼり詰めた現在も東氏は謙虚な姿勢を崩さない。
「素晴らしい料理人はたくさんいらっしゃいます。私は今も日々反省と改善の繰り返しです。その積み重ねがないと前には進んでいきませんから。1mmでもおいしくなれば、1mmでも心地よくお客様に過ごしてもらえたら。そのような気持ちをきちんと形にすることを大切にしています」
季節ごとに旬の食材を贅沢に取り入れ、クリエイティブな魅力にあふれる「アカ」のコース料理(27,500円より)。いつ訪れても驚くべき美食体験が胸に刻みこまれることだろう。