【映画のあの味が食べたい】

『グランド・ブダペスト・ホテル』のコーテザン・オ・ショコラ

(C)2015 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

コメディといえば単なるエンタテイメントであってアーティスティックな作品として評価の対象ではないと思われたりしていたのですが、最近はかなり事情が違います。その“コメディの地位向上”に貢献している若い世代の監督の代表がウェス・アンダーソンです。お仲間は、ソフィア・コッポラとかスパイク・ジョーンズとか。そうちょっとオシャレな匂いがする一派ですね。

 

実際にウェスも、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』でラコステのポロ・ワンピとかフェンディのファーだとかを絶妙な半ダサ加減で使ったりして、ファッション業界から一目置かれる存在になりました。インドで撮った『ダージリン急行』(07年)では、ルイ・ヴィトンがラゲージを提供していたりもします。

 

そのウェスのオフビートなオシャレコメディの中で、最大のヒットとなった作品がこの『グランド・ブダペスト・ホテル』です。

 

冒頭、とある作家の墓碑の前で「グランド・ブダペスト・ホテル」という本を広げます。

 

1985年、作家は書斎で語ります。

それは、1968年代に作家が滞在した、閑散とした「グランド・ブダペスト・ホテル」のオーナー、ゼロ・ムスタファ氏から彼がホテルを手に入れることになった昔話です。そして、本に書かれたこの“昔話”が映画の本筋になります。

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1932年、ゼロ・ムスタファは、「グランド・ブダペスト・ホテル」のロビー・ボーイとして働いていました。不法移民だった彼を肉親のように可愛がってくれたのが、当時の名物コンシェルジュ、ムッシュー・グスタヴ(レイフ・ファインズ)でした。ある日、グスタヴが懇意にしていた富豪の老女マダムD(ティルダ・スウィントン)が、自宅で死亡。弁護士(ジェフ・ゴールドブラム)による遺言により名画「少年とリンゴ」をグスタヴに譲ると書いてあったことに長男のドミトリー(エイドリアン・ブロディ)親族は猛反発。やがて、グスタヴはマダムD殺害の容疑で逮捕されてしまいます。ゼロは、彼をなんとか脱獄させようと画策しますが……。

 

架空のヨーロッパの国を舞台にしたコミカルなファンタジー、クライム・ドラマ。ホテルの外装、インテリアを始め、キャラクターの衣装などいつもながらウェスのヴィジュアルは完璧です! キャストは他にも若き日の作家を演じたジュード・ロウを始め、マチュー・アマルリック、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、レア・セドゥなど豪華な顔ぶれです。

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さて、このようなクラシックで優雅な世界で展開される物語のキーを握るのが、洋菓子店メンドルの「コーテザン・オ・ショコラ」。

 

実は、ゼロと恋人になる若い娘アガサ(シアーシャ・ローナン)は、メンドルで働くお菓子職人で、このシュークリームを三段重ねにしてファンシーな色のチョコレートクリームで繫いだ可愛らしいスイーツの名手なのです。

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大中小の三つの大きさのシュー皮を焼き、それぞれにチョコレートクリームや色づけしたクリームを詰めます。それを重ねて、さらにキレイな色のクリームで繫ぎ合わせ、上からアイシングで飾りをつけたら出来上がり。

 

メンドルのブルーのリボンをかけたピンクのパッケージの可愛さで存在感も抜群です。

 

このお菓子は、ゼロとアガサの密会時だけでなくさまざまなシーンで登場するのですが、殺人容疑で収監されているグスタヴに、ゼロが差し入れするのもこのお菓子です。コワモテの収監者たちが、ひとつのお菓子を切り分けて、みんなで美味しそうに分け合って食べる姿は可愛らしいですね! さらにこのお菓子は“大活躍”するのですが、それは映画を観てのお楽しみ!

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ところで、東欧の架空の国の架空のホテルの物語であるように、この「コーテザン・オ・ショコラ」も架空のお菓子。元ネタは、フランスの「ルリジューズ」(修道女の意味)というシュークリームを2段重ねにしてチョコレートクリームをかけた伝統的なお菓子です。しかしながら、「修道女」を「コーテザン=高級娼婦」に変えるとは、ウェスらしいウイットですね。

出典:ぽぽぐちさん

 

日本でもこの伝統的なフランス菓子は密かな人気がありますが、世田谷の「パティスリー ルリジューズ」は、その名前の通り、ルリジューズが名物の洋菓子店です。赤を基調とした、まるでパリの街角にあるようなシックで可愛らしい店舗の中には、御伽の国のような色とりどりのスイーツが並びますが、なかでもファンシーなルリジューズは目を引きます。

 

季節ごとにフレーバーを変えて、年間15種類ほどのフレーバーが登場することでも人気。シーズンが変わるたびに通って、全部食べ尽くしてみたい、という欲求に駆られます。

出典:ぽぽぐちさん

 

作家役のジュード・ロウは、このシュータワーを縦にナイフで切って上手に食べていましたが、美しい食べ方も研究が必要そう。

 

「紅茶に浸したマドレーヌ」で過去の記憶を呼び覚ましたのは、フランスの作家マルセル・プルーストですが、ルリジューズを食べる度に、この「グランド・ブダペスト・ホテル」のファニーでノスタルジックな悲喜劇を思い出しそうです。

 

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 【作品紹介】

美しい山々を背に優雅に佇む、ヨーロッパ最高峰と謳われたグランド・ブダペスト・ホテル。その宿泊客のお目当ては“伝説のコンシェルジュ”グスタヴ・Hだ。彼の究極のおもてなしは高齢マダムの夜のお相手までこなす徹底したプロの仕事ぶり。ある日、彼の長年のお得意様、マダムDが殺される事件が発生し、遺言で高価な絵画がグスタヴに贈られたことから容疑者として追われることに。愛弟子のベルボーイ・ゼロの協力のもとコンシェルジュの秘密結社のネットワークを駆使してヨーロッパ大陸を逃避行しながら真犯人を捜すグスタヴ。殺人事件の真相は解明できるのか!?

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