【森脇慶子のココに注目 第34回】「ホルモン焼 婁熊東京」

モノトーンで統一したシックな空間の中、七輪で焼く鮮度バツグンのホルモンをワインと共に楽しむ。そんな大人なホルモンの楽しみ方を提案すべく、東京・恵比寿のはずれに「ホルモン焼 婁熊(ルクマ)東京」が誕生したのは2011年のこと。

※緊急事態宣言発令中は酒類の提供を中止しています

以来、豚肉一筋。今や単なるホルモン焼き店の枠を超え、パテ・ド・カンパーニュやアンドウィエット(腸詰め)、自家製ロースハムに自家製ベーコン等々、ビストロ顔負けの逸品がメニューを飾る。それも、ひとえにご主人・熊井良さんの限りない豚肉愛の賜物だろう。

希少なヨークシャーに梅山豚、キントア豚etc. これまで扱ってみた豚肉は数知れず。おいしいと聞けば、すぐさま取り寄せて試してみるほどの徹底ぶりだ。また、毎朝欠かさず芝浦の食肉センターにまで足を向け、当日の朝まで生きていた“DAY0”と呼ばれる屠畜したばかりの豚肉の内臓のみを仕入れているなど、豚への思い入れの深さたるや半端ではない。

オーナーの熊井良さん

「鳴き声と足跡以外はすべて食べられるという言葉があるほど、豚肉は捨てるところの無い食材。ソーセージやハムなど様々な形に姿を変えてあらゆる部位を使い切れる。そこがまず、魅力ですね。また、あっさりした中にも、味蕾の奥底にまでじんわりと広がっていくような旨味、脂の甘みも豚肉ならではの味わいでしょう」と、熊井さん。そんな熊井さんが、これぞと見込んだ豚が、神奈川「金子畜産」の“天城黒豚”だ。

静岡・伊豆の国市(旧韮山町)の山の中腹に養豚場を持つ「金子畜産」は、創業100年余り。現在は、4代目の金子渉さんが年間約1,800頭もの天城黒豚(品種はバークシャーや梅山豚がメイン)を飼育している。思いのほかデリケートで病気に弱い豚の健康を守るため、徹底した衛生管理のもと、独自に開発した餌を与えて飼育した豚は、すくすくと育ち健康そのもの。内臓の美しさを見れば、それは一目瞭然だ。

しかも、金子畜産では、養豚から屠畜、食肉センターでの内臓処理に抜骨、そして肉の販売までと一連の工程を一貫して行えるのも強みの一つ。通常ははっきりとわからない内臓のルーツも、これなら明白になるわけだ。

そんな極上の内臓をふんだんに用いたコースが、2021年9月から、毎週水曜日限定でお目見え。題して「天城黒豚スペシャルコース」。コースには、天城黒豚の内臓のみならず、天城黒豚で作ったベーコンやサルシッチャといったシャルキュトリーに肩ロース等の精肉、もつ煮込みまでが登場。まさに天城黒豚尽くしの充実した内容だ。

「ホルモン9種盛り」

まず、目を見張るのは、写真上の「ホルモン9種盛り」だ。もちろんこちらも“DAY0”。熊井さん自ら、屠畜したての内臓を厚木の食肉センターまで取りに行っている。ホルモンの内容は、その時々で微妙に変わるが、取材日のラインアップは、ハツ、網レバー、カシラ、テッポウ、ガツアブラ、チレ、シロ(大腸)、ノドガシラ、タン。

味付けにもひと手間かけ、カシラ、ハツ、タン、網レバー、ノドガシラは塩、ガツアブラとテッポウは自家製ニンニク醤油で、シロは味噌タレ、チレはオイスターソースとそれぞれの食感や味わいの特徴に合わせて変える細やかさだ。こうしたひとひねりが、内臓のポテンシャルを更に引き上げている。

プリッと身の張ったレバーは、火が入るほどに甘みが増し、網脂で巻くことで、表面が乾くことなく旨味を内包する。俗に言うレバー臭さは皆無だ。一見、マグロの蛇腹のようなカシラは、頬の骨の内の部分。カシラの中で最も柔らかいと言われている希少部位だ。そして、特筆すべきは、なんといっても大腸の美しさ!

「元気な豚の大腸は、綺麗な純白色をしていて見るからにつやつや。脂もがっつりのっている。状態が悪いものは黒ずんでいたり、妙な斑点があったりするんですよ」と、熊井さん。良質な脂ならではのコクのある甘みも持ち味だろう。

「本日のおすすめ肉」

さて、続いてのお楽しみは「本日のおすすめ肉」。取材日は、ヒレ肉、肩ロースにベーコンとサルシッチャで、こちらも内容は日によって変わる。赤身ならではの旨味の濃い天城黒豚の持ち味をストレートに味わえる精肉は言わずもがな、肩バラで作る自家製ベーコンのおいしさはまた格別。どこか透明感のある脂の旨味と燻香が絶妙に絡み合い醸し出す独特の風味には、思わず頬が緩むはず。

熊井さん曰く「天城黒豚は、飼育日数も長い。通常180日間で出荷するところを、少なくとも240日以上、長いものでは300日間を超える豚もいるほど。ゆっくり大きく育てることで、赤身にサシが入って旨い肉になる」のだとか。

「もつ煮込み」

このほか、コースには「自家製ピクルス」、切り立ての生ハムなどが出る「本日の前菜シャルキュトリー」「厳選トマトと久松農園のサラダ」「ジャンボマッシュルーム焼」に、ゲンコツで取る白湯ベースの「もつ煮込み」「自家製ミルクアイス」が付いて7,700円。

「ミニカレー」

〆は別腹という方は「ミニカレー」550円をぜひ。ランチでも評判のスパイスカレー「ポークビンダルー」で、豚のこめかみ入り。冷麺もある。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて、一部地域で飲食店に営業自粛・時間短縮要請がでています。各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。

※本記事は取材日(2021年8月20日)時点の情報をもとに作成しています。

文:森脇慶子

撮影:外山温子