〈「食」で社会貢献〉
2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、よりよい世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じて社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。
おしゃれタウンでキュウリにカボチャ!? 作り手の思いを届ける発信型青果店
おしゃれなアパレルや雑貨のお店が立ち並ぶ代官山・八幡通り。まるでセレクトショップのような佇まいで街の雰囲気に馴染んでいるこちらの「代官山青果店」は、その名の通り八百屋。ただし、野菜や果物を単に消費するために販売するのではなく「生産者にフィーチャーし、ファームごとのこだわりや個性を伝えていきたい」という思いで2020年にオープンした。
店内に並ぶのは、どれも生産者と直接会い、惚れ込んだ野菜や果物たち。全国各地の農家から、旬の時期にこだわって仕入れているほか、神奈川県三浦市にある自社の畑で、自ら生産も行っている。
手間と愛情がこもった旬の野菜の味わいは、みずみずしく旨みたっぷり。しかも、都内のスーパー以下の超良心的プライスにも驚く。「価格を抑えておいしい野菜を食べてもらうことで、農家さんのファンが増えるので。常連さんの中には、お気に入りの農家の入荷日を狙って来店される人もいるんです」と教えてくれたのは、代官山青果店 ディレクターの色川さん。
採算度外視で農家と消費者をつなぐ役目を果たしている理由は、若い世代がもっと農業に触れる機会を増やすため。「代官山という立地やお店の雰囲気もあって、うちはファッションに敏感な若い人が多く足を運んでくれる傾向があります。今まで野菜を食べなかった若い人も、コロナ禍で内食が増えたのを機に、野菜を買って食べて『旨っ!! 』となってくれたら」
旬の野菜をふんだんに使った日替わりのお弁当も用意。野菜本来のおいしさを活かした味わいと600円というリーズナブルさが評判を呼び、ランチ時は近隣のショップスタッフなどが続々と買いに訪れる。店頭に並べて2、3日経過した野菜は調理に回すことで、陳列品の鮮度を保ち、ロスも削減できる。
バイヤーが本気で目利きした旬の果物を使ったスイーツも人気。特におすすめは、コクがありつつ優しい甘さのクリームと、「SHIBUichi BAKERY(渋いちベーカリー)」に特別オーダーした食パンで、専属パティシエとともに作り上げた「くだものサンド」。
コロナ禍を機に、アパレルから青果店へ
気になるのは、街の八百屋らしからぬスタイリッシュな雰囲気。それもそのはず、元々こちらの運営会社は、アパレルブランドを展開していたおしゃれカンパニー。しかしコロナ禍の影響でアパレル業界にも大きな打撃が……。今後の方向性を考える会議で、個人でボランティア活動も行っていた色川さんが、農業に貢献したいと青果店の立ち上げを提案し、異業種で新たなスタートを切ることに。青果の仕入れ・販売だけでなく、畑を借りて農業も一から勉強し、立ち上げから1年で現在は代官山本店のほか、世田谷、三軒茶屋と3店舗を展開している。
「土壌によってできる作物も変わりますし、農業は本当に奥が深い。と言っても、僕らはまだまだ素人なので、経験豊富な70歳の師匠に教えてもらいながら、昔ながらの農法で野菜を育てています。土作りから始める、古くから伝わる農業のスタイルも守っていきたいので」
農業の奥深い魅力にハマッた一方で、問題点も見えてきた。「後継者が不足していて、地方では“耕作放棄地”がたくさん余っているんです。だから、農業に若い人たちを誘い込んでいきたい。そのきっかけ作りを、色々な形で提供できたらいいなと。僕たちの世代は、発信力はあるので、あとはどう人と人をつなげていくか、なんです」
店舗での販売以外にも、アパレルブランドとコラボし、各地のこだわり農家を呼んでマルシェを開催するなど、若年層が農業の魅力に触れ、興味を持てるような仕掛けを提案している。さらにそれらのイベントでは、ホテルで廃棄されるベッドシーツを裁断し、焙煎後のコーヒーかすを使って“コーヒー染め”を施したアパレル商品を販売するなどのリサイクル活動も展開。 「イベントで食べた野菜がおいしかったからとお店のリピーターが増えたり、飲食関連のクライアントや、若い女性たちが農業に興味を持って畑に見学に来たりと、少しずつ広がりは実感できています。お弁当を常設販売させてもらっている渋谷のトランクホテルさんや染め物の工場など、業種を問わず協力しあって、みんなで盛り上げて行けたらいいですよね」
楽しい場での人々のつながりに、農家も巻き込んでいく
多角的なアプローチで素晴らしい取り組みをしているものの、そのスタンスに堅苦しさはない。「僕たちは真面目に農業に取り組んでほしいとか、サステナブルとかは、あまり意識していないんです。例えば、農作業をする時に着るかっこいい服がほしいと思って、5月に『KEIMEN(カイメン)』というブランドをローンチしたんですが、そういうファッションから入るのもアリですし、畑仕事をした後にサウナに行って飲むビールがたまらなくおいしいから、でも全然構わない。何事も楽しいことがないと長続きしませんから。人と出会う場所をたくさん作って、みんなに楽しんでもらう。それだけでいいのかなと思っています」
※価格はすべて税込