【じっくり食べたいハンバーガー】第21回「バーベキューキムラ」

春過ぎて、初夏はバーベキューをするには絶好のシーズンなんですが、どうも今年は全国的に早い梅雨入りのようで……なんて、しょげている場合じゃありません。そんなときこそおいしい食べ物を! ということで、今回は埼玉・所沢の「バーベキューキムラ」を紹介しながら、私たちの知らないバーベキューの世界について触れてみようと思います。

バーベキューキムラは西武新宿線・航空公園駅を降りて、所沢航空記念公園の中を真っ直ぐ抜け切ったすぐのところにあるお店です。バーベキュー場ではありません。肉料理専門のレストランです。オープンは2013年6月。店主の木村さんは都内のバーガー店「base 初台店」に約3年勤めていました。

店内は、手製の椅子・机とともにアンティーク家具などが並ぶ、ちょっとオシャレなカフェの雰囲気。壁には年代物のステンドグラスがはまっている

木村さんがバーベキューに目覚めたのは16歳の夏のこと。仲間内でやったバーベキューで天性のホスピタリティが覚醒します。道具一式を揃え、食材を買い集め、その焼く順番などを段取りして、焼き上がった肉や野菜をどんどん振舞って行くという、鍋で言えば「奉行」、焼肉なら「番長」の役どころに天職を見つけた木村さんは、以降バーベキュー活動にますます励んでいきました。

サンドイッチは9品。「ステーキ&マッシュポテトサンド」1,380円は、USビーフのサーロインステーキに粒マスタード入りのマッシュポテト、甘めのBBQソースを合わせた一品

ところがある日、そうした河原やキャンプでやる“焼肉”ではない「本物のバーベキュー」がアメリカにあることを知り、木村さんは単身テキサスへ。1週間で20軒近くのスモークハウスを訪ねて回り、すっかり“real barbecue”の虜になりました。テキサスの“real barbecue”とは一体何か……という話は記事の後半でまたします(笑)。

ここらで、バーベキューキムラのハンバーガーについて見てみましょう。バーガーメニューは11品あります。パティは炭火で焼いたUSビーフ100g。バンズは地元のパン店「オギノヤ」作。まずは「チーズバーガー」からいってみましょう。

「チーズバーガー」1,030円。中身はトマト、レタス、生オニオンとピクルス。そこへケチャップ、マスタード、ヒール(下バンズ)に卵なしのタルタルソース

パティはチョップ肉でなく、粗く挽いた挽肉です。その適度な噛みごたえと、口に残る炭火焼きのコゲの香り。どちらも非常に程“よく”て、でも、味わいの中心に常にそれらが感じられて、このパティを挟んでいる時点でハンバーガーとして75点は手堅いです。あとは、そこに何をトッピングするか。もしくはしないか……そこが店側と客側、双方のセンスの見せどころですが、私は次に「燻製ベーコンチーズバーガー」をいってみました。自家製ベーコンのバーガーです。

「燻製ベーコンチーズバーガー」1,200円

埼玉県のブランド豚「香り豚」使用のベーコンです。塩漬け&乾燥後、高温で4~5時間スモークしています。燻製に使うチップは香りおだやかなサクラ。このベーコンが実にまた“ほどよく”て、豚の旨味がビーフの上にスッとのって来る感じの馴染みのよさ。決してハデではありませんが、ハンバーガーのベーコンとして非常に「いい仕事」をしています。カチッと締まったベーコン表面のコゲのほろ苦さもまた好し。

もうひと押し、新発売の「ダブルダブルバーガー」をいってみます。この日は特別に、木村さんがいつもやっている「出張BBQ」のスタイルで調理してもらいました。

出張BBQは、店主木村さんが関東一円、客の希望する場所に赴き、場所取り・設営から片付けまですべて一手に引き受ける、料理提供最大3時間コースのサービス。1人4,000円(ドリンク代別)で10名以上から受付

BBQコンロをテラスに置いて、炭火でじ~っくり、の~んびり焼いていきます。アメリカ人が週末に庭先でやるようなスタイルですね。パティはサイズ大きめのUSビーフ150gが2枚。パラパラと上から塩コショウを振って、オニオンもグリルド。チーズをのせるタイミングでフタをして、最後はまな板の上で積み重ね、ケチャップとマスタードを絞れば完成です。トマト、レタスは入りません。

「ダブルダブルバーガー」1,500円。米国の人気ユーチューバー「BBQ Pit Boys」のメンバーの間で人気の食べ方を再現した新メニュー

バンズはこれまでの2種のバーガーのものとは違う、表面ツヤなしのゴマなし。一見ゴワッとした感じですが、案外口どけがよく、パティの赤身の食べやすさもあって、スルスルと口に入る“のどごし”のよさ。味付けもきつくなく、作為的でない、すごくナチュラルなバーガーです。

さて、3つのバーガーを見てきましたが、しかし、この店の本領はやっぱり「バーベキュー」なんですよ。最後にご紹介する一品は、今までとはおいしさの“桁”が違います。先に言っちゃいましょう……これを食べずしてバーベキューキムラを語ることなかれ!

テキサスの“real barbecue”とは何か……という話の続きからします。以前「プルドポーク」の記事で詳しく紹介したアメリカ南部の伝統的な肉料理、それが“barbecue”です。大きな塊のままの肉にじっくり火を入れてやわらか~く焼き上げる、このワイルドな料理に木村さんはすっかり魅せられて、古道具屋から壊れたBBQコンロを貰い受けて修理し、使い方を独学で研究。みるみるうちに腕を上げて、今では相当な使い手に成長しました。その木村さんが作る“real barbecue”のお手並みを、ちょっと見てみましょう。

肉の表面に塩とコショウだけ擦り込むのが「テキサススタイル」と木村さん。

メキシコ産牛のショートリブ(骨付きカルビ)をスモークします。4~5kgほどある塊の表面にコーシャーソルト(自然塩)と粗挽きのブラックペッパーを擦り込み、BBQコンロ(「BBQピット」とも言います)の中へ。そして低温で長時間(low and slow)、じっくり熱を加えます。ショートリブは12時間。国産のヒッコリー(クルミ科の木)の薪を燃やして、上がった煙で燻すと、赤かった肉が真っ黒なカタマリに。ところがこれが、中はやわらか。

スモークした肉はフォークなどで崩すのが本来だが、木村さんは豪快に「手」で (笑)

道具を使わずに手でバラバラにほぐして、その裂いた肉を一掴み、ボン!と無造作にバンズにのせて甘いBBQソースをかければ、BBQショートリブのサンドイッチの出来上がりです。かぶりつくと、まずは「ムギューッ!」とクッションのような肉の弾力。そして、ワンテンポ置いて……まぁ~おいしいこと!

日曜・祝日限定販売&数量限定の「TexasB.B.Qバーガー」単品1,650円。プルドポーク、マッシュポテト、コールスロー、チリビーンズのセットで2,800円

長時間スモークして何倍にも濃縮・凝縮された肉の旨味がグイグイ押し寄せて来る感じで、その旨味の“圧”がキョーレツ! あれよあれよという間に巻き込まれていく感じのスピード感です。スモークフレーバーがプンプンと漂う中、手も口もドロドロに汚れてもガツガツいってしまう、ノンストップアクションなおいしさ! パンに肉をただのせただけのものが、どうしてこんなにおいしいのか……。

細かく裂いたビーフということで、これは「シュレッドビーフ(shredded beef)」のサンドイッチですね。正しくはバーガーではありませんが、店では「TexasB.B.Qバーガー」という名前で売っています。店主木村さんのバーベキューに懸ける思いが詰まった逸品。ぜひ食べて欲しいのですが、手間がかかることもあって、現在「日曜・祝日限定」の販売です。どうぞお間違えなきよう。

最後にもう一度言います……これを食べずしてバーベキューキムラを語ることなかれ!

※価格はすべて税込

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※本記事は取材日(2021年5月20日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文・撮影:松原好秀