大規模な再開発にともない、しばらくこの地を離れていた大人たちから再びの注目を集める街・渋谷。だけど、いざ来てみたら食事処に迷ってしまうというケースもしばしば。そんな、“シブヤお久しぶり組”の迷える大人たちのため、「食べログ グルメ著名人」で渋谷区初のCEO(Chief Eat Officer)を務める小宮山雄飛さんに渋谷の新&定番グルメスポットを両方教えてもらっちゃおう! というこの連載。

[定番]編13回目となる今回は、行列のできる担々麺の名店「うさぎ」をご案内します。

【大人の渋谷メシ・定番編】第13回「うさぎ」

道玄坂を上り切った先、こぢんまりとしたお店ながら、昼も夜も常に人でいっぱいな人気のラーメン店が「うさぎ」。

移り変わりの激しいこの地で14年続いているのは、地域の人に愛されている証。「入ったことはないけど、お店の前の行列は気になっていた」なんて人も多いのでは。(ちなみに、一緒に行った僕のマネージャーも、何度も入ろうとして、その都度行列で断念していた一人です)

カウンターや壁は良い意味で年季が入っていて、どこかシックな雰囲気ながら落ち着く空間。

券売機にはメニューが沢山で、初めて行く人はどれを頼んでいいか迷いそうですが、まずは基本となる「らぁめん」のいずれかをぜひ食べていただきたい!

「特製らぁめん」1,200円

めちゃめちゃ澄んだスープで、パッと見で「これはおいしそう!」とテンションの上がる一杯。 茶褐色のスープの上に透明の油がうっすらと張っていて、このバランスが見るからに絶妙なんです。

丸鶏をベースに魚介、昆布、香味野菜などでだしを取っているというスープは、じんわりと味わい深いのにとてもすっきりとした後味。かえし(醤油ダレ)は島根の蔵元から直送の生醤油など、4種類の醤油をブレンドして作った特製のもので、醤油のとんがった感じが全くなく、実にまろやか。

そして細めながら小麦の風味がしっかりするストレート麺が、このスープに見事に合うのです! 器から麺をすくうと、スープの表面の油が麺をうっすらコーティングして、油・スープ・麺のおいしさが一体となって口に入ってきます。

チャーシューは2種類。鶏肉はコンフィでしっとりと仕上げていて、あっさりとした身のおいしさにスープのコクが加わって、実に美味。

豚の肩ロースは、低温調理による温度と時間のかけ方が見事なのでしょう。うっすらピンク色で絶妙な軟らかさ。これはもはや一品料理という感じ。

どのトッピングも見事な出来栄えなので「具材だけ食べたい!」という人には、らぁめんの具のみのおつまみセットもあります。(緊急事態宣言が明けたら)らぁめんの具で一杯、なんていう最高の麺呑みも可能です。

「おつまみ盛り合わせ」480円

具材だけお皿に盛っても、実にきれいでしっかり一皿料理として成立しています。

煮卵は絶妙な半熟具合で、黄身の真ん中に「かえし」でちょっと味を加えるなど、細かい味付けもうれしい。洗練されつつも全体としてはオーソドックスな醤油味のらぁめんに対して、より革新的なもうひとつの名物が担々麺。

辛さは3段階から選べますが、唐辛子と様々な香辛料をブレンドした自家製辣油を使って、それぞれ単に唐辛子の量を増すのではなく、辣(辛さ)と麻(痺れ)と胡麻ダレのバランスを考えて作り分けているそう。

「汁なし担々麺 2辛」980円

今回は汁なし担々麺の2辛を注文。表面にはネギがどさっとのり、パッと見は担々麺というよりはネギの和え麺といった感じですが……。

底から麺をすくうと、おお、真っ赤! おいしそうなひき肉とともに、特製辣油と各種スパイス、胡麻ダレが絡んだ、真っ赤な麺が登場します。

一品一品の具の並び方もどこか上品だった「らぁめん」とは別物。こちらはとにかくよく混ぜましょう! 混ぜるほどに、麺とタレ、辛味の一体感が増しておいしくなります。

にしても、2辛にしては相当真っ赤だけど、辛さは大丈夫だろうか?? と心配になって窓の方を眺めると……。

「大丈夫だよー!」

と、うさぎ君が言ってくれているようです。(ちなみにこのキャラクター、店主直筆のイラストなんだとか)

豪快に麺を持ち上げて食べてみれば、辛さよりも濃厚なタレの旨味と、担々麺用の太めの麺のおいしさが口に広がります。食べてすぐに「辛〜!」という感じではなく、まずはおいしく、その後に挽きたての花椒ならではの心地よい辛味と痺れが来る感じで、これは後を引くおいしさです。

シンプルにおいしい「らぁめん」と、スパイスの多層的なおいしさが魅力の「担々麺」。どちらを選ぶか、実に悩みどころですが、悩むのはその2種類だけではありません。サイドのご飯もの各種がまた、どれも惹かれるものばかりなんです。

「トリュフチャーシュー飯」450円

そんなサイドのご飯メニューの中でも、一際魅力的なのが「トリュフチャーシュー飯」。

黒トリュフとシャンピニオンをじっくりと炒めてペーストにした「トリュフペースト」と、醤油ベースの「トリュフソース」の2種類を、低温調理でしっとり仕上げたローストポークにかけた贅沢な一品。

あっさりとしたローストポークの旨味とトリュフの香りが相まって、実に上品な一杯。らぁめんのスープとの相性もばっちりです。さらにコロナ禍の状況を受けて、テイクアウト用に新たに開発して好評なのが「うさぎ担々“パクチー”カレー」。

「うさぎ担々“パクチー”カレー」1,100円

担々麺用のそぼろ肉に穂先メンマ、ヤーツァイ(青菜の芽の漬物)、40種類ものスパイスを独自のブレンドで合わせた特製キーマカレー。

四川の極上花椒など、インド料理店では通常使われないスパイスもふんだんに使用している、まさにラーメン屋さんにしか作れないキーマカレー。「コロナでお店を開けられない時期に、日々何かできないかと考えて作りました」 というご主人の研究熱心ぶりがうかがえる一品です。

店主の山田さん

実は、今では名物となっている担々麺も14年前の開店時のメニューにはなかったとか。チャーシューも元々の作り方を変えて低温調理法を導入するなど、ご主人の日々のブラッシュアップがあったからこそ、移り変わりの激しい渋谷で常に人気店として、長くお店が続いているのでしょう。

ベーシックな「らぁめん」から、流行最先端のスパイスカレーのような「担々パクチーカレー」まで、変幻自在なおいしさを楽しめる渋谷の名店です。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて、一部地域で飲食店に営業自粛・時間短縮要請がでています。各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。

※本記事は取材日(2021年5月7日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:小宮山雄飛

撮影:GENIUS AT WORK