お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第25回は、東急世田谷線沿線のスイーツスポットを紹介します。山下駅・上町駅間のお店を巡った前編に続く後編では、人気店が密集する松陰神社前駅のお店をチェック!

【猫井登のスイーツ探訪25・後編】~東急世田谷線沿線のスイーツショップ巡り(松陰神社前駅)~

 

猫井先生

さて、後編は松陰神社前駅に下車しまして、駅周辺のお店を集中的に紹介したいと思います。早速、駅の踏切を渡ったところに目的地が見えますよ!

【4軒め】「ニコラス精養堂

 

猫井先生

こちらは、明治45年(1912年)創業、なんと108年の歴史を誇るお店です。元々は青山で牛乳店、ミルクホールを創業されましたが、1923年の関東大震災で大きな被害を受けられ、こちらに移転されました。1930年には陸軍御用達となり、饅頭やシベリアといったお菓子も納められたんですよ。

写真左奥から時計回りに「ブルーベリーパン」300円、「シベリア」180円、「ロールケーキ」110円
 

食べログマガジン編集部

明治、関東大震災、陸軍……。時代を生き抜いて来られたお店なんですね! そういえば「シベリア」ってなんとなくレトロなお菓子っていうイメージがあるのですが、いつ頃からあるんですか?

 

猫井先生

「シベリア」というのは、カステラ生地に羊羹を挟んだお菓子ですね。正確に言うと、カステラ生地の上に液状の羊羹を流して固めるんですが。明治時代後半から大正時代にかけて生まれたお菓子だといわれますが、発祥に関して詳しいことは分かっていません。こちらのニコラス精養堂が発祥のお店のひとつとして挙げられることもありますね。

 

食べログマガジン編集部

シベリアの発祥も諸説あるんですね。

写真左奥から時計回りに「松陰あんぱん」100円、「白玉あんぱん」160円、「松蔭饅頭」120円
 

猫井先生

時代背景としては、1904年〜1905年に日露戦争があったわけですが、戦争の原因がロシアがシベリア鉄道に繋がる東清鉄道を伸ばして東洋に進出してきたことにあったといわれています。このお菓子の名前も、シベリア出兵に由来するという説、カステラ生地をシベリアの氷原に羊羹を氷原を貫くシベリア鉄道の線路に見立てたという説などがありますね。

 

食べログマガジン編集部

由来を聞くとシベリアが陸軍に納められたという理由もなんとなく納得できますね。シベリアのほかにもロールケーキやパンなど色んな商品がありますが、どれもリーズナブルですね! ウサギののったパンも可愛いです。

 

猫井先生

そちらは季節限定の「白玉あんぱん」ですね。定番商品としては、黄身あんの「松陰饅頭」とか「松陰あんぱん」が有名ですよ。

※価格はすべて税込

 

猫井先生

さぁ、次のお店はここから近いですよ。なんと、徒歩10秒程度で着いちゃいます!

【5軒め】デ カルネロ カステ 東京店 

 

食べログマガジン編集部

本当に近いですね! そしてシンプルでおしゃれな外観。

 

猫井先生

こちらは三重県に本店があるカステラ専門店です。女優の宮沢りえさんとV6の森田剛さんの結婚式の引き出物としてこちらのカステラが使われた際は注文が殺到し、通販サイトが一時閉鎖になりましたね。

 

食べログマガジン編集部

へー! 一体どんなカステラなんですか?

 

猫井先生

キューブ形のカステラで、ひとつひとつに可愛い焼き印が押されています。食感も従来のカステラとはちょっと違って、口のなかでホロホロとほどけるような食感で、しっかりとした甘さです。

mice1103
出典:mice1103さん
 

食べログマガジン編集部

これは確かにギフトにもぴったりなビジュアルのカステラですね! そういえば店名も気になったのですが、「デ カルネロ カステ」ってどういう意味なんですか?

 

猫井先生

スペイン語で「羊のカスティーリャ」という意味ですね。羊のような、ふわふわのカステラというイメージだそうですよ。

 

食べログマガジン編集部

そういえばカスティーリャって前にも先生から聞いたような……。

 

猫井先生

ケーキ作りに使われている、いわゆる「スポンジ生地」が発明されたのが、カスティーリャ王国、のちのスペインです。それが隣国ポルトガルに伝わり、南蛮船で日本に伝わりました。当時「カスティーリャ・ボーロ」と呼ばれていたのが、日本で「カステラ」と「ぼうろ」というお菓子になりました。

 

食べログマガジン編集部

そうでした! この連載の11回目で四谷のカステラ屋さんを巡った際に教えてもらった情報でした! だからこちらの店名もスペイン語なんですね。

 

猫井先生

大正解! ただ、カステラの材料には関しては日本産、とりわけ三重県産を厳選されていて、小麦粉は三重県産の「あやひかり」、ハチミツは三重県四日市市・川村養蜂場の「百花のはちみつ」、卵は鈴鹿山麓の新鮮たまご、ザラメはハチミツとの相性を考えて鹿児島県産のザラメを使っているそうですよ。

写真手前左から時計回りに「プレーン」240円、「チョコ」280円、「レモン」300円、「抹茶あんこ」280円(すべて税抜)
 

食べログマガジン編集部

厳選材料で、安心して食べられますね。フレーバーは何種類かあるんですか?

 

猫井先生

今だと「プレーン」のほか、「レモン」「チョコレート」「抹茶とあんこ」がありますね。あとは、「カステララスク」「切り落とし」といったものもありますよ。

 

猫井先生

そして本日最後は、こちらのお店からなんと徒歩3秒程度の距離にあるご近所さんで締めましょう!

【6軒め】メルシーベイク

 

食べログマガジン編集部

本日の最短記録更新ですね! ほぼお隣さんの距離に専門家お墨付きのお店があるなんて、近所に住んでいる方が羨ましいです。こちらはどんなお店なんですか?

 

猫井先生

焼き菓子系が人気のお店ですね。平日でも午後の早い時間に売り切れになることが多く、予約や取り置きは原則なしなので、早めの時間に行くのがおすすめです。

 

食べログマガジン編集部

かなりの人気店なんですね! シェフはどんな方なのでしょうか?

 

猫井先生

こちらの田代翔太シェフは、最初は料理人を目指して高校の調理科に進学されますが、製菓の授業がきっかけでお菓子づくりの道へ。卒業後は、現在の「ANAインターコンチネンタルホテル東京」で修業され渡仏。フランス・リヨンの「セバスチャン・ブイエ」で修業されます。帰国後はお知り合いのレストランなどを手伝いながら、お店作りやお店の運営について学ばれ、2014年7月にこちらのお店をオープンされました。

 

食べログマガジン編集部

なるほど、それで店名もフランス語なんですね! 先生のおすすめはどの焼き菓子ですか?

「黒糖とクルミのタルト」464円
 

猫井先生

今日販売されている中だと「黒糖とクルミのタルト」が特におすすめです。甘さはやや控えめで、タルト生地がしっかりと焼き込まれていて、香ばしいクルミとよく合います。

 

食べログマガジン編集部

木の実を使ったスイーツは、秋冬は特においしく感じますよね。チョコレート系のおすすめも知りたいです!

「ガトーショコラ」453円
 

猫井先生

濃厚な味わいがお好みならば「ガトーショコラ」がいいですね。チョコレートのほろ苦さや酸味もあり、口溶けよく粉っぽさが感じられないのでリピーターも多く、このお店の人気商品です。焼き菓子以外にも定番の「レアチーズケーキ」やタルト系もおいしいですよ。

※価格はすべて税込

 

食べログマガジン編集部

今回は前編のスウェーデン菓子から始まって、台湾のあんまんや由来話が面白いシベリア、そして最後は王道のフランス菓子と、盛りだくさんで楽しめました!

 

猫井先生

テイクアウトできる商品も多いので、何店かハシゴして家で食べ比べを楽しむのもまた一興ですよ。

※時節柄、メニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2020年9月22日)時点の情報をもとに作成しています。

撮影・文:猫井登