お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第18回は、銀座・丸の内エリアで買える世界6カ国のチョコレートブランドを紹介します。

 

〈日本・スペイン・フランス〉を紹介した前編に続く後編は、〈アメリカ・ベルギー・イタリア〉の3カ国を巡ります!

【猫井登のスイーツ探訪18・後編】〜銀座・丸の内で世界6カ国のチョコレートショップ巡り〜(アメリカ・ベルギー・イタリア編)

 

猫井先生

前編では日本→スペイン→フランスと見てきましたので、次はアメリカのブランドに行きましょうか。

【4軒め】「カカオ マーケット バイ マリベル 東急プラザ銀座HINKA RINKA」

 

猫井先生

こちらは、マリベル・リーバーマン(Maribel Lieberman)さんが、2000年にアメリカ・ニューヨークに開いたお店ですね。彼女はホンジュラス共和国の出身で、17歳のときにファッション・デザイナーになるべく渡米。やがて世界中から集まる食べ物に興味を持つようになるのですが、あるチョコレートを食べたとき、それが実家にも生えていたカカオから作られていることを知り、カカオからこんなおいしいものができるのかと驚いたそうです。ホンジュラスの農村部ではカカオは当たり前に生えているものの、カカオを珍重したマヤ文化はもはや忘れられ、カカオがチョコレートの原材料であることはほとんど認識されていないんですね。

 

食べログマガジン編集部

カカオが原生しているのに、もったいない話ですね。

 

猫井先生

それで、彼女はホンジュラスに戻ってカカオの勉強をし、フランスに渡りチョコレートについて学び、お店をオープンしたというわけです。彼女の店は、ニューヨーク・タイムズから「アメリカのチョコレート界のトップ」と絶賛され、今やメグ・ライアンなどのスターが訪れ、アップル社の元CEOスティーブ・ジョブズも生前通っていたとされます。

 

食べログマガジン編集部

まさにアメリカン・ドリームを掴んだわけですね!

 

猫井先生

経営的にはそういうことになりますが、チョコレートの世界で彼女は「Farm to Bar〔ファーム トゥ バー)」の先駆者としても知られているんですよ。

 

食べログマガジン編集部

Farm to Bar? 初めて聞きますが、「Bean to Bar(ビーン トゥ バー)」とは何が違うんですか?

can
出典:canさん
 

猫井先生

「Bean to Bar」というのは、カカオ豆の焙煎から仕上げまでを自分で手掛けることをいうわけですが、「Farm to Bar」というのは、さらに一歩遡ってカカオ豆を栽培する農園=farmにまで目を向けようとするものです。

 

食べログマガジン編集部

農園選びにもこだわるということですか?

 

猫井先生

まあ、一般的にFarm to Barというと、ショコラティエが更なる差別化を図るため、よりオリジナリティのある商品を作ろうと自らカカオ原産国の農園に足を運び、豆の品種や収穫・生産について研究することを指します。もちろんマリベルさんにもそういう意図はあると思いますが、彼女がそれを実践する主な理由は、チョコレートがこんなにも世界中で人気のスイーツなのに、貧困層であるカカオ農家の大半は、身近にあるカカオ豆がその原料になっていることすら知らないということに疑問を持ったからだといわれています。

 

食べログマガジン編集部

自国の貧しい農家を助けたいと?

 

猫井先生

そうです。ホンジュラスでは、ほとんどのカカオ農家は知識不足の上、貧しくて教育も不十分なため、カカオの実を正当な価格で売る交渉もできない。商品であるチョコレートは高価で売られるのに、原料のカカオ豆は安く買い叩かれるという流通構造はアンフェアだと感じたのでしょうね。彼女はニューヨークの店の経営が軌道に乗った2004年には、カカオ農家を啓蒙するため、カカオ生産国にいる研究者や農業財団と積極的にコンタクトを取りはじめ、長期にわたり地道な支援活動を行っています。

 

食べログマガジン編集部

スイーツというと華やかな面ばかりに目がいきますが、昨今のフェアトレードチョコレートの背景が少し理解できた気がします。そんなマリベルさんのチョコレートの中で先生のおすすめは?

「グラスアソート」1,782円(税込)
 

猫井先生

こちらでは様々なタイプのチョコレートが作られているので、まずは色々なチョコレートを詰め合わせた「グラスアソート」からトライしてみてはいかがでしょうか。

 

食べログマガジン編集部

グラス入りなら食べた後もインテリアとして使えて便利ですね! 色々な形がありますが、どんな味が楽しめるんですか?

 

猫井先生

チョコレートの中にアーモンドやマカデミアナッツなどが入ったナッツタイプや、伊予柑や甘夏をチョコレートでコーティングしたフルーツタイプ、ショートブレッドをミントやレモンのチョコレートでコーティングしたスナックタイプなどが含まれています。この中からお好きな味を見つけてみるのも楽しいと思いますよ!

【5軒め】「デルレイ 銀座店」

 

猫井先生

さて、1949年にベルギー・アントワープで創業した老舗のチョコレートブランド「デルレイ」にやってきました。1983年にベルナール・プルート氏がオーナーパティシエになりデルレイは大きく飛躍し、1993年にはチョコレート・ラウンジをオープンして好評を博しました。同年、厳しい審査をクリアした一流の職人のみ入会が許されるルレ・デセールの会員にもなります。2004年には日本にもお店をオープンさせました。

 

食べログマガジン編集部

シャンデリアがあったり、お店の内装もゴージャスですね!

 

猫井先生

それでは、ここで問題です。フランスのボンボンショコラとベルギーのボンボンショコラの大きな違いは何でしょうか?

 

食べログマガジン編集部

え……分かりません(笑)。

 

猫井先生

正解は、外側のコーティングチョコレート=クーベルチュールの厚さです。

 

食べログマガジン編集部

へー! どういう違いがあるんですか?

 

猫井先生

製法の違いに由来しています。ベルギーでは、いわゆる型抜きのチョコレートが主流でした。つまり最初に型に溶かしたチョコレートを流し込み、固めて「外殻」を作る。そこに中身を流し込み、最後にまたチョコレートを流して蓋をして作るという製法をとります。最初に容れ物を作るので、流動性のある中身でも入れられるというメリットがある反面、外側がしっかりとしているので、食感としては、歯ごたえのあるボンボンショコラになります。

 

食べログマガジン編集部

たしかに、外側が固いタイプと柔らかいタイプがありますね!

写真:お店から
 

猫井先生

これに対して、フランスでは中身を先に作って固め、それをコーティング用チョコレートにくぐらせるという製法で作るので、余分な外側のチョコレートは流れて外側は薄い膜のようになり、食べたときに外側は口の中で儚く溶けていきます。

 

食べログマガジン編集部

そういえばベルギーとフランスでボンボンショコラ論争があるというのを聞いたことがあります。

 

猫井先生

フランス人から言わせるとベルギーのボンボンショコラは固くてエレガントじゃないとか、反対にベルギー人からはフランスのものは軟弱で食べた気がしないと、論争があったそうですね。今となっては、ベルギーのお店もフランスのお店も両方の製法で作っているので違いはなくなっていますが、面白いですよね。

 

食べログマガジン編集部

論争が終着しているようでひと安心です(笑)。そんなベルギー発デルレイのバレンタインアイテムってあるんですか?

 

猫井先生

こちらのピンクの「ダイヤモンドBOX」は今年のバレンタイン限定アイテムですよ。

「ダイヤモンドBOX」3個入り 1,944円(税込)
 

食べログマガジン編集部

お店の内装と同じようにチョコレートもキラキラしているんですね! この3つのチョコレートの味はそれぞれ違うんですか?

写真左手前から時計回りに、「ブルーダイヤモンドダーク」「レッドダイヤモンドダーク」「ピンクダイヤモンド」
 

猫井先生

「ピンクダイヤモンド」は外がミルクチョコ、中が「キャラメル」のガナッシュ、「レッドダイヤモンドダーク」は外がダークチョコ、中がオリーブオイルのガナッシュ、「ブルーダイヤモンドダーク」は外がダークチョコ、中がバニラとコーヒーのガナッシュとなっています。3種ともこのセット限定のフレーバーとなっています。そして、ちょっと入り組んだところにあるので見過ごしがちなんですが、近くに「デルレイ銀座 パティスリー」があるんですよ!

 

食べログマガジン編集部

お稲荷さんのある小道を入るとデルレイのパティスリーが!

 

猫井先生

イートインはありませんが、生ケーキのほか焼き菓子やマカロンなどが売られています。特にマカロンはベルギーからの空輸品で本場の味が楽しめますよ!

しょこら007
出典:しょこら007さん
 

食べログマガジン編集部

これは穴場ですね!

 

【6軒め】「ヴェンキ 銀座店」

 

猫井先生

最後は、2019年12月にオープンしたばかりの「ヴェンキ 銀座店」です。未だ行列が絶えませんね。こちらのお店は1800年代、イタリア・ピエモンテでシルビアーノ・ヴェンキ氏が弱冠16歳で開いたのが始まりですね。質の高い原材料から作られるチョコレートは地元で評判となり、1878年には会社組織になります。その後、イタリアだけでなく、世界中にお店をオープンし、今や70カ国以上、世界中に100店舗以上を有し、ロンドン、香港、ドバイ、ニューヨーク等の主要都市にブランド店を構え、国際的に評価を得ています。

しょこら007
出典:しょこら007さん
 

食べログマガジン編集部

16歳でお店を持つとはかなりの早咲きですね! そして、お店のショーウィンドウにはチョコレートではなくジェラートが飾られているんですね。

 

猫井先生

こちらでは材料や鮮度にこだわり抜いたジェラートも看板商品となっており、お店のデザインとして使われているようですね。

 

食べログマガジン編集部

そしてお店の中に入るとすごいたくさんの種類のチョコレートがありますね! どれを選べばいいのやら。

へーたし
出典:へーたしさん
 

猫井先生

90種類以上のオリジナルチョコレートがあるといわれていますから、選ぶのが大変ですよね。その中でも、創業当初から受け継がれる伝統のレシピによって作られる「ジャンドゥイオット」は、一度は味わってほしい一品ですね。

「ジャンドゥイオット」1gあたり17.3円(税込)
 

食べログマガジン編集部

どういったチョコレートなんですか?

 

猫井先生

カカオにヘーゼルナッツを混ぜて作ったチョコレートです。元々は、1800年代にナポレオン帝政時代の制約でカカオが不足したため、それを補おうとピエモンテ州の特産品でもあったヘーゼルナッツをチョコレートの中に混ぜてかさ増しをしようとしたのが始まりです。いわば苦肉の策によって生まれたチョコレートでしたが、その味わいは素晴らしく、その後もピエモンテ発祥の名産品として世界中の人々から愛されていますから、何が幸いするか分かりませんね。

 

食べログマガジン編集部

ジャンドゥイオットはマストバイということで、あとはどれにしようかな……。

 

猫井先生

量り売りなので、最初は気になったものを色々試してみると良いですよ!

 

食べログマガジン編集部

今回は国ごとに異なるチョコレートの製法や歴史が知れて勉強になりました。

 

猫井先生

是非バレンタインデーのチョコレート選びに活用してみてください!

 

写真・文:猫井登