〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!

インバウンドや食材の高騰で、外食の価格は年々上がっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで、「おいしいものを食べたいとき」に使えるハイコスパなお店とは?

グルメたちをざわつかせている
噂の“ザ・フレンチ”「mille」

東京・東日本橋にオープンしたフレンチビストロが「アミューズブーシュが可愛い!」「カジュアルなのに本格的なフランス料理」「イケメンシェフ!」と話題になっている。フランス料理とあまり馴染みがない街に誕生したとあって“おいしいアンテナ”を張りめぐらせる人々をざわつかせているが、果たして噂は本当なのか?

センスある店構えに扉を開けずにはいられない

東日本橋駅から3分も歩くと見つけることができる

周りにない雰囲気の佇まいに、通りがかる人たちが足を止める。家に向かう道すがらであろうスーツ姿の男性や買い物袋を持った女性、あるいはどこか良い店を探している様子のグループが中を覗いては安心するのか、ゆっくりと扉を開けて入ってくる。

カウンター8席、4人掛けのテーブル1つ。ゆったりとして居心地が良い空間

入ってみると全12席とは思えぬほど広々と感じる。「ワインがおいしくなる気がするので、絶対に肘掛け椅子にしたかった」と話すのはオーナーシェフの千葉稔生さん。

 

低めで奥行きのあるカウンター、高い天井、木の温もりとコンクリートやメラミン樹脂といった人工的な素材をミックスした空間は、たとえ初めて訪れたとしても馴染みの店のようにくつろげる。

フランス料理の基本を守りながら食材の声を聞き、とっておきの皿に仕上げていく

そんな洒落た空間でひとり腕をふるう千葉シェフは、料理好きの母の誕生日に兄が奮発して連れて行ってくれたフランス料理店の味に感動し、調理師専門学校に入学。卒業後に入った店から、フランス料理の修業が始まった。

 

29歳で渡仏、そこで千葉シェフは自身の店を持つ同年代の料理人とのモチベーションの違いに打ちのめされた。「完全に遅れをとったと思いました」と奮起し、帰国後は独立を目指して一心不乱に腕を磨いていった。

カウンター、自然派ワイン、そして“ザ・フレンチ”な料理!

自分の店のイメージはフランスから帰国後、料理長として店を任されたときに完成した。

 

それはカウンターで話をしながら料理を作り、ワインは自然派のみ、修業先である芝公園「クレッセント」のようなクラシックでクオリティの高いフランス料理を提供し、ひとりでもふらりと立ち寄れるカジュアルな店だ。

 

そして2019年4月、念願が叶い、「mille」をオープンさせたのである。

本日のアミューズブーシュより

評判のアミューズブーシュは、右上から時計回りに「ブリオッシュフォアグラ」500円、「トリュフと卵サラダのエクレア」600円、「玉ネギとベーコンのファーブルトン」250円、「タスマニアサーモンのサブレ」400円、「聖護院カブのババロワ」350円など、常時5〜6種類を用意しており、ひとり2〜3品を選ぶと良い。

 

どれも見た目はケーキのように可愛いが、味は塩気がありシャンパンやスパークリングに合う“大人の味”だ。

「活〆サワラの炙りとあやめ雪と金柑のマリネ」2,200円(写真はハーフサイズ 1,100円)

「活〆サワラの炙りとあやめ雪と金柑のマリネ」は、金柑の甘さとコラトゥーラ(イタリアの魚醤)のコクが味の鍵を握るひと皿。コラトゥーラは数滴サワラにのせているだけというが、塩には出せない旨みが加わり独特な風味を醸し出す。

 

炙った香り、コク、甘み、酸味、食感……、様々な味覚のレイヤーを巧みに操り、主役のサワラを見事なまでに昇華させている。

「ズワイガニのクルスティヤン ちりめんキャベツとカニみそのソース」2,800円(写真はハーフサイズ 1,400円)

思わず歓声をあげてしまったのは冬の美味、ズワイガニを余すところなく使った見目麗しい前菜。白身魚のムースに塩茹でしたズワイガニの身をほぐして混ぜ、ラップに包んで蒸したものをパートブリック(薄いクレープ状の皮)で巻き、カラリと焼きあげている。

 

中はふわふわでカニの風味をたっぷり感じさせ、外側のパリッとした食感との異なるエッセンスが楽しめる、春巻きのフレンチ版だ!

まさにズワイガニの新しい扉が開かれたといえる料理!

正直に言って、これだけでも十分おいしいのに、ズワイガニの殻やワタリガニとともに野菜を炒め、白ワインと水で煮出し、生クリームとカニみそで仕上げる贅沢な味わいのソースが、至高の味へと導いている。

「仏産ビュルゴー家の鴨のロースト」4,500円(写真はハーフサイズ 2,250円)、「レ・コステ ロッソ」グラス1,250円

こちらは、「仏産ビュルゴー家の鴨のロースト」。ビュルゴー家の鴨は、飼料から飼育方法まで独自の厳しい基準をクリアした農家が生産する鴨のみを、100年以上続く伝統技法で処理している。フランス・ロワール地方のシャラン鴨の中でも、他では真似のできない別格の味といわれている。

 

セオリー通りに皮目をカリッと、きめ細かな身はしっとりと焼き、芳醇な脂のコクと香りとともに口の中がおいしさであふれる。ソースは鴨ガラと赤ワイン、そして八角とハチミツを少々。スパイシーでスイート、この抜群の鴨にぴったりだ。

食材の声を聞き“ベストな瞬間”を逃さない

千葉シェフの料理には、これ以上でもこれ以下でもない、完璧な組み合わせと思わせる不思議な力がある。それは緻密な計算のもとに作られたものではなく、自分がおいしいと思うものや記憶に残った味を、自分なりの解釈でアレンジしてできた料理なのだ。

 

ごちゃごちゃしていない東日本橋の町並みが気に入って即決した、六叉路の角地。あらゆる方角から人が集まるこのレストランは、外食に困っている地元民、そしておいしいものを求める人々に愛され続けていくだろう。

 

【本日のお会計】
■食事
・ブリオッシュフォアグラ 500円
・トリュフと卵サラダのエクレア 600円
・聖護院カブのババロワ 350円
・玉ネギとベーコンのファーブルトン 250円
・タスマニアサーモンのサブレ 400円
・活〆サワラの炙りとあやめ雪と金柑のマリネ(ハーフ) 1,100円
・ズワイガニのクルスティヤン ちりめんキャベツとカニみそのソース(ハーフ) 1,400円
・仏産ビュルゴー家の鴨のロースト(ハーフ) 2,250円
■ドリンク
・レ・コステ ロッソ(グラス) 1,250円
合計 8,100円

 

※価格はすべて税抜

 

 

撮影:外山温子
文:高橋綾子