〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドの増加や食材の高騰で、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

カウンター席のみの中華料理店

東急東横線の学芸大学駅から徒歩2分。東口商店街の裏手にあるのが「farm studio#203」だ。2019年5月23日にオープンしたこの店は、2階に位置するカウンター席が8席のみの店のため一見カフェのように見えるが、実は本格的な中華料理を提供する店だった。

カフェのような店内で食べる、中華料理。

店主の濵田利彦さんは、「銀座アスター」で中華の修業をした後、リゾートホテルでマネジメントを学び、40代でこの店を開店させた料理人としてはちょっと変わった経歴の持ち主。鍋をふりながら接客も行う濵田さんの味と人柄にほれ込んで、足しげく通う常連さんも最近では多い。

食材が約40種類入った「detox salada」は栄養も満点

ここの看板メニューのひとつが「detox salada」。40種類ほどの具材を使ったビタミンカラーの彩りが美しいサラダは、ドレッシングを最小限に抑えたヘルシーなサラダなのだ。

 

「これだけの食材が入っているから、ドレッシングが少量でも十分においしいのです」と濵田さんは言うが、そこには隠れた手間がかけられている。

「野菜をたっぷり食べてほしい」という濵田さんのこだわりが、このサラダには込められている。

野菜はプチトマトやフリルレタスなどの定番だけでなく、セロリや大葉やみょうがなどの香味野菜が味の幅を広げている。そこにフレッシュなキウイフルーツで酸味と甘みを加え、フライドオニオンやナッツで食感に変化を与えている。さらに、味の厚みを演出しているのが豆。数種のスパイスで煮込んで味と香りを含ませた豆が、さまざまな野菜の味を重ねて、まとめている。仕上げにかける風味づけのオイルは、香り豊かな葱のオイルと、さわやかな刺激も忍ばせた山椒のオイルから選ぶ。

 

目には見えない手間がかかっているからこそ、ドレッシングという余分な味がいらないのだろう。噛みしめるごとに様々な香りが広がる、栄養満点なヘルシーサラダだ。

ソムリエの資格も持っている濵田さん。どのワインを頼んだらいいのか迷ったら相談してみよう。

夜遅く、食事をしに来るお客さんからは「どんな時間に食べても罪悪感がうまれない。反対に明日もがんばろう!と元気になれるサラダ」と評判が良い。

1個からオーダー可能な「餃子」

中華料理店に行ったのなら、食べておきたいのが餃子だろう。同店の餃子は、阿波匠豚と白菜、そしてキャベツを練って作っている。餡はスパイスを数種類混ぜてしっかり味を付けているので、食べるときにタレを付ける必要はない。むしろ、たっぷりとつまった肉汁をしっかり味わおう。箸で割ってスープを逃してはもったいない。ガブリと一口でいくのがオススメだ。

阿波匠豚の肉汁がたっぷりつまった餃子。

オーダーから外したくない「餃子」だが、おひとり様で1人前を頼むとそれだけでお腹がいっぱいになるため、つい避けてしまう人も多いはず。しかしこの店では1個から注文ができる。だから1人でも「餃子」が食べられるのだ。

「farm studio#203」といえば「阿波牛の四川麻婆豆腐」

この店を代表するもう一品が「阿波牛の四川麻婆豆腐」だ。「麻婆豆腐はほとんどの人が食べたことのある中華の定番です。だからこれを食べてもらえれば、うちの特色がわかると思います」と濵田さん。青山椒と花椒をブレンドして味を調えている麻婆は、「辛い」というより口の中がピリっとほどよくしびれ、大胆ながらも繊細な刺激がこの店らしさを表している。

山椒の刺激がちょっと苦手という人は、「山椒を少なめで」というと調整してくれる。

豆腐は近所の豆腐屋さんのものを使用。しかも「もめん」と「絹ごし」を入れて、食感の違いを出している。それをさいの目切りより大きめにカット。豆腐が存在感をアピールしているのが特長だ。そして仕上げに山椒のオイルと、山椒の粉をたっぷりかけてテーブルへ。

 

さらに、冬になるとこの麻婆豆腐に「白子」が入ったワンランク上のメニューが登場する。白子はボラとたらの2種類を使用。たらの白子の歯ごたえと、トロッととけるボラの白子がコクになって味に深みが出るうえ、山椒の刺激を白子がいい具合に緩和してくれる。また、粗目に挽いた阿波牛もしっかり存在を主張。贅沢な一皿になっている。

麻婆豆腐には「SAPERAVI」の赤ワインが相性ピッタリ。

アルコールを飲んでも飲まなくてもシメは「TKG」

この店でシメといえば、卵がけご飯「TKG」。しかもここの「TKG」は白いホカホカご飯に、卵をかけて食べるスタイルではない。一般的な「TKG」を想像していると、思わず二度見をしてしまいそうだ。平たい皿で出てくるご飯は、鶏の濃厚なスープをたっぷり吸っていて白くない。その上にトローリ卵黄がのっている。

ご飯にコラーゲンたっぷりのスープがしみ込んでいる「TKG」。

この黄身を崩して一気にまぜて食べるのもよし、少しずつ黄身を崩してご飯とあわせながら楽しむのもよし。食べ方は自由。ご飯に味がしっかりしみ込んでいるので、しょう油などの調味料は必要ないが、残り少なくなったご飯に、味の変化を加えたいと思ったらぜひ濵田さんに相談を。おすすめの調味料を教えてくれる。

深夜、「おなかがすいた」と思ったら駆け込む店

コンクリート打ちっぱなしの店内に、黒のカウンター。しかも2階なので、車など街の喧騒があまり聞こえない。だから時間を忘れてゆっくり過ごせる。

 

「夜、何か食べたいと思ったらぜひ来てください。餃子1個とビールだけでも大歓迎。知り合いの家に寄る感じで来てくれたらうれしいです」と濵田さん。中華料理をガッツリ楽しみたいときはもちろん、飲み足りない夜にちょっと立ち寄ってワインを飲みながら濵田さんと話して帰るのもいいだろう。

おいしい中華と、濵田さんの笑顔! これに惹かれて常連さんが増えている。

深夜2時まで、食事のオーダーもできる。残業で疲れた帰り道、家でコンビニご飯ではあまりに味気ない。「おいしいものを食べて、明日も元気にがんばりたい!」と思ったら、ぜひ「farm studio#203」を思い出してほしい。

 

【本日のお会計】(1人)
■食事
・detox salada 1,100円
・餃子(180円×3個) 540円
・阿波牛の四川麻婆豆腐 白子 2,000円
・TKG 900円
合計 4,540円

※価格はすべて税抜

 

取材・文:谷口素子(grooo)

撮影:松村宇洋