定食王が今日も行く!Vol.59
代官山を見守り続けて51年!実家にいるような安心感の「末ぜん」
創業51年を迎える
代官山のライスパラダイス
自分が上京して間もない2000年頃、代官山はにわかに注目を集め、おしゃれな街として変貌を遂げた。その背景としては2000年に代官山アドレスがオープン。そして同年、ドラマ『やまとなでしこ』が大ブームに。ドリカムが2000年の冬を歌った「SNOW DANCE」のPVも代官山が舞台だったのを記憶している。とにかく当時、東京で一番おしゃれな街は代官山だと思っていた。
それから約10年後の2011年、水戸の徳川邸屋敷跡地に、T-SITE、蔦屋書店が建ち街はまた賑わいを取り戻した。自分も少しは代官山をそつなく歩けるほどに大人になり、買い物などで訪れるようになったなかで、当時よく読んでいた雑誌で紹介されていたのが、“代官山の良心”とも呼ばれる「末ぜん」だ。
創業は1967年、寅さんこと渥美清さんや、代官山にお店を持っていた浅野ゆう子さん、アントニオ猪木さん、愛川欽也さんなど、さまざまな著名人が愛した店としても知られている。
普通の民家の一階を改装したようなお店は、中に入るとテーブルと小上がりがあり、懐かしい素朴な昭和の定食屋だ。ランチのメニューは通常7種類。奇をてらわず、とてもシンプルなメニューばかりだ。その素朴な料理にこそ、50年代官山の地で支持を得続けたという味への自信と実力、そして誇りを感じる。
素朴だから通いたくなる
50年変わらない鯖の塩焼き
数種類の定食の中でも創業当初から愛されている「さば塩焼定食」。肉厚で良質な脂がたっぷりのった鯖はふっくらジューシー。
ほどよい塩気と、付け合わせのきんぴらごぼうで白飯一杯、ぺろっと行けてしまう。
店主の堀井さんが築地の魚河岸に足を運んで厳選しているというだけあって、刺身の質も抜群だ。
旨味が詰まったマグロの刺身を始め、確かな味の魚が1,000円程度の定食で食べられるのは大変貴重だ。昔ながらの味と値段を守る、企業努力があってこそ実現できているサービスだと言えよう。これからの冬に向けてもっと脂ののった、美味しい魚がたくさん食べられることだろう。
のりたまに玉子焼きと
実家並みの安心感にほっとする
この店での楽しみは厚焼き玉子焼きと、のりたまご飯だ。お寿司屋さんのように完璧なフォルムと色、柔らかさで仕上げられた玉子焼きは、鯖の塩焼きの付け合わせとして登場する。最後の締めの一口にとっておきたくなる完成度の高い一品だ。
そして、幼少期を思い出して懐かしさに浸ってしまう「のりたま」。魚と小鉢をおかずに茶碗一杯を平らげた後でも、ついこのふりかけのためにお代わりをしてしまう。丸美屋が「のりたま」を発売したのがおよそ60年前。その後1960年代にアニメのシールを付録にしたことで子供達に爆発的な人気となった。「末ぜん」は「のりたま」と共に50年を歩んできたのかもしれない。
昨年、創業50周年の記念に作られた「RICE PARADISE」と書かれた記念Tシャツは、この店を愛する地元の人々やファッション関係者などに話題になり、すぐに完売した。
素朴だから飽きない、またすぐ食べたくなる。おかずを食べ終わっても、のりたまでお代わりしたくなる。そんな「RICE PARADISE」だ。代官山の街の栄枯盛衰を見守りながら、変わらない味を変わらないスタイルで提供し続ける、その姿勢には頭が下がるばかりだ。