瀟洒な数寄屋空間に蘇った日本料理店
高級絹織物の産地として知られる西陣の町で、1963年から50年余り暖簾を掲げてきた天ぷら懐石料理店「天若」。約5年の間、一旦止まっていた店の歴史は、先代の孫である西岡瞭さんによって再び動きはじめた。
店があるのは千本通に面した4階建てのビル。祖父の代には3フロア使用していたという、そのうちの1階部分を改装し、メインのカウンター席と個室を新たにしつらえた。
メインの客席は、先代から譲り受けたヒノキのカウンターを引き立たせる、深いうぐいす色の土壁。網代天井やなぐりの扉、カウンターに合わせてオーダーした椅子など、数寄屋建築の粋を取り入れながらモダンで快適な空間をつくり上げている。
調理場に立つ祖父の姿に憧れ、幼い頃から店を継ぐ夢を持っていたという西岡さん。東京の大学を卒業した後、祖父のもとで3年間働き、さらに名料亭「高台寺和久傳」などで修業を積んだ。
季節のうつろいを知らせる八寸がコースの顔
料理はおまかせのコース1本。季節感を色濃く映し出す八寸からはじまり、吸い物、お造り、天ぷら、酢のもの、小鍋や炊きものなど温かい料理へとつづく。
内容はほぼ月替わりだが、八寸と天ぷらは時期に合わせてさらに柔軟に変化するという。五月の八寸には、秋田県産のじゅんさい、あまごの南蛮漬け、新小芋の衣かつぎ、ミニおくらと鯛の子のゼリーなどが盛り込まれた。菖蒲を模った器のなかには丁字麩と赤こんにゃく、きゅうりの酢味噌和え。
「旬の食材を使って季節感を出すことは現代ならどこの土地でもできると思うんです。それだけではなく、京料理の文化、京都らしさ伝えるために八寸は大切な一品だと考えています」と西岡さん。料理に加え、暦に沿った器やあしらいで季節感を演出した八寸によって、コースのスタートを鮮やかに飾る。