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〈サク呑み酒場〉
今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。
イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!
烏森神社エリアにある「素通り厳禁の店」
東京・新橋駅そばの烏森神社周辺には、魅力あふれる小さな飲食店がまるで吸い寄せられるかのように集まっている。古くから続く店もあれば、ニューフェイスの店も。そんな新旧の店が一カ所に集まり、“いま”という時代の街の顔を作り上げている。そんな中に「素通り厳禁」とも言うべき、一軒の店がある。その店の名は「STAND BY Mi」。
店頭のA型看板には「たちのみ スタンドバイミー 着席もアリ!!!」と書かれ、その下には「止まれ」「一方通行」の道路標識のイラストが描かれている。一方通行の矢印は瀟洒な雰囲気の店内を指しており、「一方通行なら仕方ない!」。呑兵衛は自然と頬をゆるめながら、思わずその道路標識に従ってしまう。何とも呑兵衛の心理を分かっている、心憎い看板だ。
圧巻の立ち呑みカウンター&グループ客向けテーブル席
店舗は奥に細長く、手前に6人掛けのテーブル席。その先にオープンキッチンの立ち呑みカウンターがある。このカウンターが実に圧巻で、長さがなんと7m強もあるのだ。天板はフラットなつくりで、厨房との間にさえぎるものは何もなく、臨場感もたっぷり。奥行きも50cmあってゆったりしている。
カウンターの奥には6人掛けテーブル席2卓と、2人掛けテーブル席1卓があり、椅子席は計20席。一方、立ち呑みカウンターは13人収容で、店頭にも2人対応の立ち呑みカウンターがある。1人でサクッと立ち呑みするもよし、数人で腰を落ち着けて楽しむもよしと、何かと使い勝手がいい。席の予約も行なっており、立ち呑みなのに予約がOKなのも同店流。
トップシェフレシピの料理と厳選ワインが目玉
さて、同店が絶対に食べてほしい料理に据えるのが、トップシェフレシピのメニュー。これは、注目を集める気鋭のトップシェフが、同店のために特別に開発した料理のこと。客単価2~3万円の高級店の味をカジュアルに楽しんでもらいたいと、この料理を導入している。料理と相性のよいワインも充実し、白やスパークリングの1,780円のハーフボトルから、29,800円の「ドンペリ」まで豊富に揃えている。
グラスワインも赤、白3種ずつあるので、その日の気分や料理に合わせて最適な1杯を楽しめる。ワイン以外には、ビール、サワー、チューハイ、ハイボール、ノンアルコールも揃え、さらにオリジナルの〈名物ドリンク〉も提供。例えば、店名「STAND BY Mi」を略した商品名の「SBMビール」は自家製酵素シロップを加えたビールで、酵素シロップは三温糖とその時々の果実を合わせて発酵させて作っている。
1人向けサイズの料理がうれしい
同店の料理で特徴的なのが、1人でも、2~3人でも利用しやすいように、料理のカテゴリーでサイズを大きく2つに分けていること。〈ミニサラダ〉〈一口おつまみ〉〈トップシェフレシピのメイン〉のカテゴリーは、1人で食べるのにちょうどいいサイズ。一方、〈SBM特製〉〈おつまみ“冷”〉〈おつまみ“温”〉 は1皿が2~3人向けのボリュームとなっている。
〈ミニサラダ〉の「トマトトマトトマト」は透明の洒落た容器に、赤、緑、黄、オレンジ、赤茶のカラフルなミニトマトを詰め、エクストラバージンオリーブオイル、塩、黒胡椒で味つけした、まるで宝石箱のような“輝き”を放つサラダ。また、〈一口おつまみ〉の「レバームース」は、鶏レバーをムースのようにやわらかく仕立て、南部煎餅に盛ってイチゴジャムソースをかけた、ピンチョス感覚の一品だ。
ローストビーフの概念を覆させられる
1人客はここからトップシェフレシピの料理に移る人も多いが、2~3人客の場合、胃袋が増える分だけ、さらにいろんな料理を楽しめる。店側が「オススメ」と推すのが、〈SBM特製〉の「ローストビーフ」で、これはぜひとも食べておきたい。
運ばれてきた料理を見て、びっくり。ローストビーフの一面にグラナパダーノが削りかけられ、その見ばえはふんわり積もった雪景色のよう。何とも素敵なビジュアルだ。ローストビーフはしっとりした味わいで、生ハムのように薄くスライス。チーズとともに三位一体のおいしさを楽しめる。
トップシェフがこの店だけの料理を開発
〈トップシェフレシピのメイン〉は、3人のシェフが考えた肉料理が登場。中目黒「CRAFTALE」の大土橋シェフは、鶏肉を題材に「フレンチチキン南蛮」を考案した。これは宮崎の郷土料理であるチキン南蛮を、ベニエというフレンチの揚げものに仕立てたもの。鶏モモ肉に衣をつけ、表面はサクサク、中はふっくら仕上げ、南蛮酢とタルタルソースをかける。タルタルソースの独自の舌触りも特徴だ。
続いて、豚肉を用いた「BBQスペアリブ」は、青山「The Burn」の米澤シェフが考案した料理だ。骨付き豚肉を数種のスパイスでマリネして蒸し上げ、甘辛いバーベキューソースに漬けて味つけ。注文ごとに温め、さらにマリネで用いたのと同じ数種のスパイスをふりかけて印象を強める。肉は骨からほろりと外れるほどやわらかく、かぶりつかずに上品に楽しめ、それでいて味はワイルド。ワインとの相性も抜群だ。
高級店考案の料理をカジュアルに楽しむ
鶏、豚とくれば、最後は牛肉。広尾「TREIS」の河島シェフ(元「ボニュ」シェフ)が考えた「牛ほろほろ肉」は、「これが牛肉料理?」と驚かされる意外性が好評。濃厚なソースと抹茶で覆う見ばえも独特で、一口かじるとまるでわらび餅のような不思議な食感を味わえる。
牛肉はホホ肉をブランデーとフォンドボーで長時間煮込んでやわらかくする。注文ごとに表面を香ばしく焼き、甘酸っぱいソースをかけて抹茶をふる。「TREIS」は、メニューが25,000円のコースのみの会員制レストランで、一見客が足を運ぶにはハードルの高い店。その他の2店もそうだが、こうした店の魅力を手軽に体験できるのが、これらの料理なのである。
ここまで食べてまだお腹に余裕のある人は、男性なら締めの「貝だし醤油ラーメン」「あご出汁醤油ラーメン」、女性は「カタラーナ」「ガトーショコラ」と別腹のデザートに移る人が多いそうだ。このように、カジュアルだけど本格的。本格的だけどカジュアル。椅子席もあって、利用動機に合わせて使い分けがきく、何とも懐の深い立ち呑み酒場である。
ちっちゃな“愛”に包まれる店
心地よい気持ちで店を出て、名残惜し気にふと振り返ると、「STAND BY Mi」と書かれた看板が目に飛び込んでくる。「STAND BY ME」には「私のそばにいて」「私を支えて」といった意味があるが、よく見ると最後の1文字が「E」ではなく、ちっちゃな「i」になっている。
「いったい、どういう意味なんだろう?」などと考えながら、楽しかった時間を思い起こすと、満足感いっぱいで、ちっちゃな“愛”に包まれている自分に気づく。「また来て、小さな“i”の意味を聞かなきゃ!」。自然とそんな気分にさせられる「素通り厳禁」の店。それが「STAND BY Mi」だ。
■食事
・トマトトマトトマト 250円
・レバームース 250円
・ローストビーフ 780円
・フレンチチキン南蛮 480円
・BBQスペアリブ 680円
・牛ほろほろ肉 780円
■ドリンク
・SBMビール 580円
・エラスリス ピノ・ノワール 530円
合計 4,330円
※価格はすべて税抜