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お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第14回は、路地裏&超老舗店の宝庫という一面を持つ東京・銀座のスイーツを紹介。
【猫井登のスイーツ探訪14・前編】〜スイーツ散策をしながら真の銀ブラを満喫〜

食べログマガジン編集部
歌舞伎座前で集合って縁起が良さそうですね!

猫井先生
今日は、東銀座からスタートして、銀座四丁目から八丁目あたりをブラブラ歩いてみましょう。

食べログマガジン編集部
つまり、銀ブラですね!

猫井先生
う〜ん。銀ブラの話はあとでじっくりするとして、まずは1軒目に向かいましょう。

食べログマガジン編集部
??

猫井先生
銀座には名店や老舗が多いんですが、知らないと気づかない場所にある店も多いので、今日はそういった隠れた名店、老舗をご紹介していきたいと思います。まずは、今年で創業97年の歴史を誇る老舗和菓子店です。
【1軒め】1枚の生地で包む上品などら焼きが人気の知る人ぞ知る老舗「木挽町よしや」

食べログマガジン編集部
こんな細い路地にお店が! たしかに、知らないと来られませんね。こちらの名物はどんなお菓子なんですか?

猫井先生
一般的には「どら焼き」が有名ですね。2枚の生地で餡を挟むのではなく、1枚の生地を折り曲げて餡を包むスタイルで、しっとりとした生地に、北海道十勝産の小豆を使った甘さ控えめの餡が上品な味わいを出しています。

食べログマガジン編集部
一般的などら焼きより軽い食べ口で、おやつにぴったりですね。

猫井先生
オリジナルオーダーで、どら焼きの皮に焼印を入れることも可能で、結婚式や企業のイベントでもよく用いられるようですよ。創作菓子も有名で、果物を模して、練り切りで作られる「果物籠」はテレビでもよく取り上げられていますね。


食べログマガジン編集部
わぁ〜、かわいいですね!
【2軒め】100年以上前から銀座で愛され続けるあんみつ発祥の店「若松」

猫井先生
銀座には“路地裏スイーツ”が結構あるんですよ。銀座四丁目の交差点を五丁目方面に曲がり、「銀座コア」の先の細い路地に入っていくと、あんみつ発祥の店として知られる「若松」があります。

食べログマガジン編集部
これまた、ビルとビルの谷間って感じですね。あんみつの発祥っていつ頃なんですか?

猫井先生
若松さんは、1894年の創業で、なんと125年間この場所で営業されているそうですよ。名物の「あんみつ」は、みつ豆にこしあん、黒蜜を合わせたもので、昭和5年(1930年)に誕生したものですね。当時は、まだ甘いものがご馳走だった時代で、みつ豆を食べていた常連のお客様からの「もっと甘いものを」というリクエストを受けた2代目が、みつ豆に自家製の「こしあん」をのせ、さらに「黒蜜」をかけたところ、大ヒットして「あんみつ」として定着したといわれています。

食べログマガジン編集部
昔から日本人はスイーツが好きだったんですね!

猫井先生
せっかくですから「元祖あんみつ」をいただきましょうか。あんこの上にのっているのは、若松さんのシンボルの松の羊かんです。


食べログマガジン編集部
餡は結構さらっとした感じなんですね。黒蜜はとても濃厚な味わいがします。

猫井先生
小豆は十勝産、赤えんどう豆は富良野産、寒天は伊豆三宅島産。そして、黒蜜には奄美大島の黒砂糖を使われているようですよ。

食べログマガジン編集部
各地の名産品のオールスター戦ですね!

猫井先生
実はこの通路には、もう1軒、老舗があるんですよ!
【3軒め】400年以上の歴史を誇る京都生まれの超老舗「萬年堂 本店」

猫井先生
「萬年堂」は、もともと京都のお店で、なんと1617年創業、400年以上の歴史をお持ちです。遷都に伴い、1872年に東京に移られました。

食べログマガジン編集部
遷都のため移転って……ものすごい歴史を感じます。おすすめはどんなお菓子ですか?

猫井先生
なんといっても「御目出糖(おめでとう)」でしょうね。100年以上の歴史を有するお菓子ですが、その原型は元禄年間(1688年〜1704年)にまで遡るといわれます。


食べログマガジン編集部
見た目はカステラみたいな感じですね。


猫井先生
小豆のこしあんに餅粉などを加えてそぼろ状にした生地に蜜漬の小豆を添えて蒸しあげたお菓子ですね。もっちりとした食感の上品な甘さのお菓子です。本来は「高麗餅」というお菓子ですが、見た目が赤飯のようにも見えるので、このようなネーミングになったようです。もう1種、同じ製法で白あんに抹茶を加えて作られるものは、そのまま「高麗餅」と呼ばれていますが、こちらもおすすめですよ。

食べログマガジン編集部
路地から広い通りに出ると“THE 銀座”という感じがしますね。秋は散歩するのにぴったりな季節ですね。

猫井先生
さあ、それでは正真正銘「真の銀ブラ」に行きましょうか(笑)。

食べログマガジン編集部
え、今までのは銀ブラじゃないんですか?

猫井先生
「銀ブラ」というと「銀座をぶらぶら歩くこと」が一般的な理解ですが、異説もありまして、これによれば、真の「銀ブラ」とは「銀座通りを歩いてブラジルコーヒーを飲みに行くこと」だとされています。その語源となったのがこちらのカフェです!
【4軒め】“銀ブラ”の語源となった由緒ある老舗喫茶店「カフェーパウリスタ」

食べログマガジン編集部
へぇ〜! 銀ブラの「ブラ」はブラジルコーヒーのブラだったんですね。

猫井先生
こちらのお店は1911年(明治44年)開業、108年の歴史を誇る“カフェー”です。創業者の水野龍氏は、ブラジルのサンパウロ州政庁より、日本におけるブラジルコーヒーの普及事業を委託され、年間1,000俵の珈琲豆の無償供与と東洋の一手宣伝販売権を与えられた人物でした。大正時代、こちらのお店は文化活動の拠点となり、菊池寛、芥川龍之介なども訪れたそうですよ。


食べログマガジン編集部
カフェーってレトロな響きで素敵ですね。こちらでの猫井先生のおすすめはどんなスイーツですか?


猫井先生
コーヒーは、伝統の味わいでやや苦みのある「パウリスタオールド」か、農薬・化学肥料不使用でコクと酸味、甘みのバランスがとれた「森のコーヒー」でしょう。ケーキは、「ザッハトルテ」が人気ですね。本場の「ホテルザッハー」流に生地の間にもジャムを挟むタイプです。アプリコットジャムの代わりに、こちらではラズベリージャムが使われていますが、完成度が高く、コーヒーによく合いますよ。

食べログマガジン編集部
これこそ真の銀ブラという満足感が、ケーキをよりおいしく感じさせますね!

猫井先生
最後に、このお店に来たらレジの横にある「銀ブラ証明書」を貰うことを忘れないようにしましょう(笑)。
次回、後編に続く
後編では、銀座の手土産の魅力をお届けします。お楽しみに!
写真・文:猫井登