〈おいしい歴史を訪ねて〉

歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。

第19回 朝ドラの舞台、十勝・帯広でスープカレーと甘いもん

現在好評放映中のNHK連続テレビ小説『なつぞら』。その舞台のひとつである十勝を訪れた。

十勝は北海道の支庁のひとつ。ご存じ「十勝平野」が大きく風呂敷のように街全体を包み込んでいる。その十勝の中心部が帯広だ。十勝・帯広は、大農業がすごい勢いで発展しており、壮大な畑が並ぶ。なんでも年収3億円の農園もあるとか。北海道ホテルの支配人が迎えのバスの中でそう教えてくれた。まるでアメリカの穀倉地帯のようであり、山々を見ると大自然が広がり世界でも指折りの眺望を楽しめる。

 

幸せスポットとして「幸福駅」も名高い。1987年廃線になった広尾線に、愛国駅と幸福駅があった。NHK「新日本紀行」で1973年に紹介され、愛と幸福のキーワードがカップルに大人気になった。

 

やはりNHKの番組は地方ではすごい影響力がある。今は、どこにいっても『なつぞら』一色。スピッツの主題歌があちこちでかかっており、耳からメロディが消えなくなる(笑)。

 

今回、帯広に来たのは僕の人生の師匠(メンター)で、北海道ガーデン街道・六花の森にある安西水丸作品館のオープニングに参加するためである。作品館はクロアチアの廃材を使い、欧州のなんとも落ち着いた雰囲気を自然で味わえた。キュレーターのセンスは最高レベルだ。

素朴に佇む「安西水丸作品館」。
館内の様子。安西らしいやさしい世界観に満ちた作品が展示されている。

帯広を来たのははじめてだが、洋菓子の名店「六花亭」とカレー好きの安西水丸さんが通ったスープカレー店「カレーリーフ」に行くのが楽しみだ。

札幌から帯広へ。旅のお供は駅弁

まずは札幌駅から弁当を買って帯広までむかう。駅弁は、札幌駅の売店で遭遇した、駅弁の弁菜亭の「海鮮えぞ賞味」(1,080円・税込)。なんと駅弁の真ん中に北海道がある。これは北海道愛だ。こうした繊細な仕掛けが旅を印象深いものにするのだな。ご飯は酢飯、その上に蒸したウニ、醤油漬けのいくら、蟹とサーモン、焼きホタテらがてんこ盛り。錦糸卵でコントラストをつけたら、仕上げは北海道の昆布ときた。旅は道連れ、これぞまさしく北海道を食べ尽くす弁当とともに……。

六花亭本店で名物「マルセイバターサンド」を賞味

十勝・帯広は、開拓者が養豚や酪農をはじめた。特に新鮮な乳製品を使った「六花亭」、「柳月」、「クランベリー」といった個性豊かな菓子店が誕生し、今も多くの支持を得ている。

 

特に六花亭は日本中で名をあげており、北海道にしか店舗がないことでも有名だ。そんな六花亭の帯広本店を訪れた。

2階はカフェになっている。ケーキ類は確かに昔ながらの味とデコレートで、2個くらいはすぐ食べてしまえる。

2階には「喫茶室」が。こちらでは作りたてのマルセイバターサンドをいただくことができる。

 

皆が、市販のものと作りたての味わいの差を騒ぐのでいただいてみると、とにかくクリームが新鮮で口の中で溶けていく淡い感じが頭のてっぺんまで伝わった。手前のポスターには、「十勝開拓の祖・依田勉三が率いる晩成社が十勝で最初に作ったバター『マルセイバター』を使用」と書いてあった(あまりのおいしさに写真を撮り忘れてしまった)。これを食すだけでここに来た価値がある。また、ここのヨーグルトはさすがに新鮮で元気の源になる。

カレーが人生だった安西さん行きつけ店「カレーリーフ」へ

安西さんがカレーを好きになったのは、子どもの頃のこんな体験から。当時、体が弱かったので母親と千葉の千倉で養生をしていたころ、海女さんが作ってくれたサザエのカレーにいたく感動し、それからいろいろなカレーを食するようになったそうだ。仲間を集めてカレーの会を開いたりもした。いきなり日本酒を持ち込まれたカレー屋さんも、不思議と歓迎してくれたそうだ。安西さんの好きな新潟の日本酒「〆張鶴」とカレーは絶妙なコンビだった。

 

こちらの「カレーリーフ」は、そんな安西さんのおすすめときた。フランス風やインド風やスリランカ風といろいろなメニューがあったが、安西さん一押しの夏野菜チキンカレースリランカ風(1,250円・税込)を注文する。カレーの具は揚げてありスープとこんがりした感じが微妙にマッチする。

僕はあまりスープカレーは好きではなかった。なぜかというと、どこの店のものもカレーを薄めたただのスープのイメージが強くて。それがここではとてもあっさりとしているのに、いろいろな隠し味のスパイスが、野菜や鶏肉などに混ざり合って濃厚なスープに仕上がり幸せな味がした。それをご飯にかけるとまた違ったおいしさが口の中に広がり満足させてくれる。これは気持ちを入れ替えるしかないな。

写真・文:小平尚典