既存の価値観から脱皮できる、妖しく耽美な“好事家の書斎”

いかにも銀座といった雰囲気の、数寄屋通りとみゆき通りが交わる角地。褐色がかったビルの地下二階に、ブックライブラリースタイルのカフェ&バー「十誡(じっかい)」はあります。

 

お店の扉を開くと、銀座の地下とは思えない、幻想文学の世界に迷い込んだように妖しく耽美な空間が。“好事家の書斎”をコンセプトにした店内は、上質なものに目がないというコレクター気質のオーナーが持ち込んだ本やアート作品で溢れています。

足を踏み入れただけで心地よく酔ってしまいそうな、濃密な雰囲気のインテリア。中央の柱は、パリの地下にある納骨堂「カタコンブ・ド・パリ」をモチーフに、アート作家に作ってもらったもの。

「十誡」に並ぶ本は、アンダーグラウンドカルチャーの香りを感じさせるアート関連の書籍や、中身・装丁ともにひとクセもふたクセもある希少本など、普段の生活では出会うことのないものばかり。ページを開くと、今まで知ることのなかった世界が広がり、既存の価値観から脱皮するような不思議な解放感があります。

 

「電子化が進み、紙の本との出会いが少なくなっている昨今だからこそ、紙の本の良さ、そして、来る人にとって未知の本との出会いを提供できる場所を、カルチャーの発信地・銀座で行っていきたい」と語る、店長の土方陽菜さん。

 

2015年のオープン当初、1,000冊ほどだった蔵書は、今では3,000冊近くまで増殖。「オーナーがどんどん私物の本を持ち込んでしまうので……」と楽しげに笑っていました。

名作文学やアートの世界をグラスに閉じ込めた、麗しの文豪カクテル

「十誡」の魅力のひとつが、月替わりで提供される “文豪カクテル”。

 

文学や芸術の世界観をグラスに閉じ込めた洗練されたカクテルは、お店に来たら必ず頼みたい一杯です。

「SHERLOCK シャーロックホームズの冒険」(税抜2,400円)

2019年6月現在は、シャーロック・ホームズをテーマに、スモークしたウイスキーとチョコレートをセットにした文豪カクテル「SHERLOCK シャーロックホームズの冒険」が登場。

 

オークチップでスモークされた生チョコとウイスキーのマリアージュは、革命的! 目を見張るおいしさで、ホームズのように頭が冴えわたりそうです。

 

ウイスキーの銘柄を当てられたら、チョコレートかスモークウイスキーのハーフショットのサービスがつくという、思わずニヤリとさせられる遊び心もたまりません。

文豪カクテルだけでなく、ウイスキーも逸品ぞろい。なかには、世界で数百本しかないような珍しい銘柄もあるそうです。それを目的にやってくるお酒好きのお客さんも多いのだとか。

 

「文豪カクテルでお酒に親しんだ後は、ウイスキーにも手を伸ばしてみてほしいですね」(土方さん)

お酒は苦手……という人も安心! ランチタイムは可憐なモクテルを

“お酒は苦手……”という人でも、バーの雰囲気を味わえるように、「十誡」ではランチタイム限定でモクテルメニューも用意してあります。

 

モクテルとは、“真似た”という意味の「mock(モック)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた、ノンアルコールカクテルの新しい呼び方。

 

誰もが知る宮澤賢治の名作『銀河鉄道の夜』からインスパイアされた文豪モクテル「星めぐり」は、その美しさがSNSで話題を呼びました。

モクテル「星めぐり」(税抜1,600円)

トニックウォーターに、自家製ラベンダーシロップ入りの甘酸っぱい寒天を沈めたモクテルは、撮影小物として一緒に提供されるブラックライトを当てると、宇宙に輝く恒星のごとくキラキラと発光します。

 

また、小腹が空いたという人のために、フードやデザートメニューも!

平日12:00~15:00のリトルアフタヌーン限定メニュー、「雨ニモ負ケズ マクロビプレート」(税抜1,800円)

「雨ニモ負ケズ マクロビプレート」は、菜食主義者だった宮澤賢治の遺作「雨ニモマケズ」の“一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ……”という一文からイメージを膨らませ、玄米おにぎり2個と合わせ出汁のお吸い物、お漬物とみそという体が喜ぶメニューになりました。デザートとして、琥珀糖が輝く鉱物ブルーベリームースもついています。

平日のリトルアフタヌーン&カフェタイム限定メニュー、文豪デザート「青い天蚕絨(びろうど)~銀河クリームソーダ~」(税抜1,900円)

 

「青い天蚕絨(びろうど)~銀河クリームソーダ~」は、同じく宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』をイメージした、さわやかスイーツ。美しいグラデーションのソーダに金箔を散らしたアイスクリームを浮かべました。ジョバンニとカンパネルラに見立てたフレッシュチェリーを添えて。

五感すべてに訴えかけ、感性を揺さぶってくる「十誡」。まずは、心ひかれる一冊を書庫から選んでみてください。アンティークのソファに身を預け、美しいカクテルで喉をうるおしながらページをめくるうちに、日常生活のなかで知らず知らずのうちに曇っていた視野を晴らしてくれます。

取材・文:六原ちず

撮影:大谷次郎