〈和菓子と巡る、京都さんぽ〉
四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。
あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。
其の十一 独創的な意匠が目を引く、気鋭の和菓子店「茶菓 えん寿」
昭和ノスタルジーに浸る、大映通り商店街さんぽ。
1200年の歴史を育んできた伝統の街、京都。
その京都は伝統を守るだけでなく、新しいものを積極的に取り入れていく街でもあります。
その証として、京都には“日本初”として誕生したものが数多くあります。
小学校、事業用水力発電、映画上映(諸説あり)などなど。
そして路面電車もその一つです。
1895年2月1日に京都市内を路面電車が走り出して以来、瞬く間に広がり京都市民の足として欠かすことができない交通手段となりました。
しかし、時代の流れに逆らうことはできず、1978年に全線廃止となり、市バスへと引き継がれました。
現在では、京福電気鉄道(通称:嵐電)の一部が路面を走り、路面電車が活躍していた昔の風景を今に残してくれています。
太秦広隆寺(うずまさこうりゅうじ)前をガタンゴトンと音を立てて走り抜けていく一両編成の電車(繁忙期や通勤時間帯は二両編成となります)。
広隆寺
この風景が最も絵になるのではないでしょうか。
嵐電・太秦広隆寺駅から帷子ノ辻(かたびらのつじ)駅までの一帯は、昭和のノスタルジックな雰囲気が色濃く残るエリアです。
東映京都撮影所、松竹京都撮影所、大映京都撮影所(1986年閉鎖)があり、映画の街として栄えてきました。
特に昭和の日本映画の黄金時代を支えてきた大映京都撮影所は、この地域に多大な影響を与え、閉鎖した今もその名が大映通り商店街として残っています。
その昔は、撮影の合間に映画スターが衣装のままで通りを歩いていたというエピソードも。
大映通り商店街の中間あたりには、映画関係者とも縁のある三吉稲荷(さんきちいなり)神社があります。
三吉稲荷神社
境内には、日本映画の父と謳われる映画監督・牧野省三の碑が建てられており、境内を囲むように建てられている玉垣には、往年の大スターの大河内伝次郎、伴淳三郎たちの名が刻まれています。
牧野省三の碑
甘いもので、ひとやすみ。
その商店街に2017年8月、和菓子店「茶菓 えん寿」が開店しました。
茶菓 えん寿
北海道出身のご主人が老舗和菓子店で和菓子職人として18年間修行した後にオープンしたお店です。
誰でも気軽に利用していただける、飾らない親しみやすい外観。
白を基調とした店内。
手前はショップとなっていて和菓子とともに、お店のご主人が厳選した全国の日本茶が40種類ほど並んでいます。
そして、奥はカフェスペースとしてカウンターとテーブル席が設けられています。
店内
契約農家から取り寄せた多くの茶葉を和菓子と一緒に楽しむことができます。
「まだまだ、多くの方がお金をかけて日本茶を飲む習慣がありません。和菓子をよりおいしく味わっていただくためにも、日本茶の本当のおいしさを多くの方に知っていただきたいと思っています」と熱く語るご主人。
お店の雰囲気と同様に気さくな雰囲気の方で、和菓子のこと、お茶のことを丁寧にわかりやすく説明してくださいます。
開店して一年あまり。「まだまだ、お店の知名度が低いのでお店を離れて、手作り市などに出店して一人でも多くの方に知っていただく活動をしています」とご主人。
その甲斐もあって、少しずつ、お店を訪れるお客さんが増えてきました。
ご主人が想いを込めて作る、月替わりに店頭に並ぶ四季折々の上生菓子は、とても独創的な題材、意匠のものが多いのが特徴です。
ただ独創的なだけでなく、老舗和菓子店で修行した知識、教養がしっかりとあるからこそのお菓子です。
「お菓子を作ると自然に修行時代に作っていた意匠のお菓子に近づいてしまいます。お店をオープンさせたからには、オリジナリティー溢れるお菓子を作らなくてはと日々意識しています」
毎月、どのようなお菓子が創り出されるのかが楽しみなお店です。
足跡
菓銘「足跡」
京の冬。
やはり、雪が降り積もった京都の風景は風情があり格別です。
しんしんと夜中に降った雪が積もり、早朝には銀世界へと誘われます。
雪に残された足跡を表現した薯蕷製のお菓子です。
足跡の位置が端にあることから静寂な冬の京都を感じることができます。
赤鬼
菓銘「赤鬼」
節分に欠かすことができない鬼。
鬼は「隠(おに)」に由来します。
目に見えない邪気を意味したものです。
それが室町時代に現在のような鬼のイメージとなり語り継がれてきました。
きんとんで鬼を表現したお菓子です。
みなさん、それぞれに鬼の顔を想像してみてはいかがでしょうか。
きぬかけ
菓銘「きぬかけ」
山笑う京都。
うららかな春の光を浴びながら花逍遥(はなしょうよう)。
龍安寺から仁和寺に抜ける道、きぬかけの路(みち)にはソメイヨシノや山桜、サトザクラが咲き多くの観光客で賑わいます。
桜咲く、きぬかけの路を表現した、こなし製のお菓子です。
露敷妙
菓銘「露敷妙(つゆしきたえ)」
暑い夏の京都。
近年、猛暑の話題がニュースとなると必ず鴨川に並ぶ納涼床を背景にした四条大橋界隈の映像が流されます。
京都に暮らす人々は、打ち水や風鈴、簾(すだれ)など、五感で涼しさを感じて暑さをしのぐ工夫をしてきました。
水枕を表現した涼しげな葛製のお菓子の中には求肥が入っています。
水花火
菓銘「水花火」
夏の風物詩である花火。
多くの人々を魅了する日本が世界に誇る伝統文化の一つです。
夜空に花火が打ち上げられて花開くとき、水面に映る花火はとても幻想的です。
その水面に映る花火を表現したこちらのお菓子。
目にも涼やか。
夏の暑さを和らげてくれる葛製のお菓子です。
錦繡
菓銘「錦繡(きんしゅう)」
山粧う京都。
紅葉を目当てにした多くの観光客で賑わいます。
「紅葉が錦の織物のように美しい秋」を意味する菓銘がつけられたこちらのお菓子。
外郎(ういろう)生地で織り込み、織物を表現しています。
あまり見かけることがない珍しい意匠のお菓子です。
月替わりに店頭に並ぶ上生菓子以外にも、甘さ控えめの最中をはじめとしたフルーツ大福、羊羹などが販売されています。
松寿
「オープンして間もないので形式にとらわれることなく、新たなことに積極的にチャレンジしていきたいと思います」と語られるご主人。
今後が楽しみなお店です。
和菓子の新たな楽しみを感じに出かけてみてはいかがでしょうか。