うっとりと酔える、黄金色のスープ
黄金色に輝く液体がグラスに注がれる。
もう、それだけで、ふうわりと鼻先をくすぐる馥郁たる香り――。
グラスを傾け、しばし、その香りにうっとりと酔う。
ワインではない。その液体は、フレンチの真髄ともいえるコンソメスープ。西麻布「マルゴット エ バッチャーレ」の加山賢太シェフ渾身の一杯である。
「小学生の頃、月に一度家族で食べに行く洋食店があったんです。そこで出していたフォアグラのフランにコンソメがかかっていたのですが、そのコンソメが美味しくて、僕だけフォアグラ抜きのコンソメスープを出してもらっていたんです」
広島の実家も、洋食店を営んでいる加山シェフ、この頃には、既に料理人への道を決めていたとか。
「自分が一人前になったあかつきには、絶対にコンソメを出す!」
そう、心に誓ったそうだ。
それだけに、コンソメには人一倍思い入れが深い。日々のコースに欠かさず入れるそのメニュー名は“旨味と香り”。そこには、フレンチのみならず和食店での修業経験を持つ加山シェフならではの理想のコンソメ像がある。
コンソメの力強さにお椀の出汁の繊細さを表現したい――。そう考えた加山シェフ、ブイヨンのベースに昆布出汁を使ってみたところ、
「底味ができて、余韻が深まりました」。
ファーストインパクトの強さよりも、お椀の出汁のような、透明感のある味わいにしたかったそうで、曰く、
「後からじわじわと押し寄せてくるような旨味が欲しかったんです」。
シンプルなコンソメに注がれた、シェフの手間と愛情
作り方はこうだ。
まず、ベースの昆布出汁。ここににもポイントがある。贅沢にも水素水を使っているのだ。この水素水に羅臼昆布をつけること一晩。水出汁の昆布出汁を作ったら、昆布は取り出し、鶏ガラ、老鶏、牛骨、牛すじ、香味野菜等をアクや脂を丁寧に取り除きつつ約7時間煮込む。スープが濁らぬよう、決して煮立たせず、ゆっくりと旨味を引き出していく。これが基本のフォン・ブランで、出来上がったら冷蔵庫で一晩保存。冷やすことで、取りきれなかった脂が固まりきれいに取り除くことができるわけだ。
そして、これからがいよいよ本番。
ブイヨンをコンソメへと仕上げる最終段階となる。大鍋に、脂分が少なく旨味の強い牛スネ肉のミンチに赤ワインとアルマニャック、スパイス、ミルポワ、卵白を入れてよく混ぜ、先のブイヨンを入れながら、ゆっくりと木べらで混ぜていく。この時、トマトを入れるのも加山流。ブイヨンの対流がうまく鍋全体に回るようにとの配慮だ。20ℓの水に対して8kgの肉と通常レシピの倍近くの牛肉を用いているため、長く煮込む必要がなく、沸いて一時間ほどで旨味を抽出。雑味のない、見た目も味わいも澄んだコンソメが出来上がる。
ちなみに、コンソメとはフランス語で“完成された”の意味を持つそうで、澄ましたスープ全般を“コンソメ”と呼んでいる。
一見すれば、具もなく、至ってシンプルなコンソメが、いかに高価で手間のかかるものなのか、これでお分かりだろうか?
そして、ここ「マルゴット エ バッチャーレ」では、もう一つ、お楽しみがある。そう、お店の看板でもあるトリュフを、更に追加してくれるのだ。季節柄、今は白トリュフ。
最初は、そのまま生(き)の味を味わい、次にトリュフとのマリアージュを楽しむ。
まさに“旨味と香り”の二重奏である。
取材・文/森脇慶子
撮影/三好宣弘(RELATION)