【噂の新店】「東山八城」

三重県産の食材が集う、小さな日本料理店

八坂神社に寄り添う円山公園。その静かな一角に、2026年9月、日本料理店がオープンした。店内はわずか6席。白木を基調とした簡潔な空間には無駄な装飾がなく、凛とした空気が流れる。だが肩肘を張る必要はなく、カウンター越しに店主との会話や料理が生まれる瞬間を楽しみながら食事をいただける空間だ。

店は京都市内でいちばん古い公園と言われる、円山公園内にある
カウンター6席のみの小さな一軒

店主は三重県出身の28歳、西河一貴さん。実家は四日市市の寿司店で、子供の頃から厨房に入り手伝う日々を過ごしていた。小学生の時には既に、釣り好きが高じ、自分で釣った魚を捌いて料理していたという。高校時代も土日は店で仕込みを手伝い、自然な流れで料理人の道へと進んだ。「食場大野」や「祇園 大渡」で日本料理を学び、その後あえて別ジャンルの中国料理の名店「京、静華」へ。調味料や技法、中国料理の歴史など自身の料理に活かせる数々を学んだという。「京都は日本料理のメッカ。変化球も必要です」と、中国料理のエッセンスを巧みに加味した日本料理を供している。

店主の西河一貴さん。料理人以外の道は考えたことがないそう

食材の柱のひとつが、魚種が豊富な三重・熊野市から届く魚介類だ。水揚げされた翌日に店へ届く魚を、真空状態で寝かすなど最良の形を見極めて提供している。コースの〆には、三重県のブランド米「結びの神」を使用。伊勢神宮にも奉納された品種で、粒が大きく、香り高く、甘みが強いそう。また、熱源に炭火を使うが、炭焼き職人津村寿晴さんの手による三重県産の紀州備長炭を使用するなど、可能な限り故郷三重県のものを扱っている。

熊野から送られた縞鯵は、近くに養殖場もなく、純国産とのこと

いただけるお料理はこちら!

コースは全11皿(21,780円)。今回は4皿を紹介していく。

まずは先付から。錦市場の鮮魚店「丸弥太」から仕入れた淡路島産の渡り蟹に、秋茄子、黄ニラに生姜のジュレを合わせた爽やかな一品。

渡り蟹、秋茄子、黄ニラの生姜ジュレがけ

続いて登場した天然の縞鯵は、4日間寝かせてうまみを引き出したもの。全体に脂が回り、しっとりとした舌触りを楽しめる。山葵醤油、酢橘塩&山葵と2通りで味わうことで、魚の表情が変わる。

縞鯵の造り

椀物はチャイロマルハタ。チャイロマルハタの骨と羅臼昆布で丁寧に引いた出汁を使い、白味噌仕立てに。しっかりとうまみのある魚の身に、小蕪の甘みと黒七味の香りが重なり、どこか懐かしさを感じる余韻を生む。

チャイロマルハタの白味噌仕立て

熱々に熱した土鍋で供されるふかひれと松茸の煮込み。羅臼昆布、九条ネギ、生姜を使った和出汁に、手羽先でうまみを重ねている。濃厚過ぎず、一緒に供される白ご飯との相性も抜群だ。「ほかに中国料理のエッセンスと感じられる料理といえば、 “鮎ダック” 。揚げた子持ち鮎を薄餅で包み、生落花生や胡瓜、蓼ソースとともに味わう品で、面白い!と喜んでいただけています」

ふかひれと松茸の土鍋煮込み

6席だからこその空気づくり

料理はもちろんだが、西河さんが大切にしているのは空気づくりだ。「小さい店だからこそ、和気あいあいとした楽しい空間にしたい。お一人で来られた方も孤立しないよう、皆さんが自然と心を開ける場所になればと思っています」とのこと。また、独立した年齢は父親が店を構えた時とほぼ同じだそう。「苦労するなら若いうちがいいと思っています」と語る表情には、京都を代表する料理人たちがしのぎを削る東山に挑む、若き料理人の確かな覚悟が感じられた。

「ただコツコツと、実直にお店を続けていきたいですね」と話す西河さん

※価格は税込です。

文:木佐貫久代
撮影:福森公博