【噂の新店】AGE.

内観

ここ数年、飲食業界を席巻してきた熟成肉と薪焼きブームもどうやら一段落、と思っていたら、今度は熟成魚と薪焼きのレストランがオープン。早くもフーディの間で話題を呼んでいる。この8月、井の頭線神泉駅そばに開店した「AGE.」がそれだ。

焼き台

「魚は熟成させることで、その魚本来の真価が引き出されると思うんです。事実、適正に寝かした魚は余分な水分が抜け旨みが凝縮していますね」。そう熱く語るのは、島田亮平シェフ。魚介に特化したイタリア料理店としてブレイクした、あの北参道「ボガマリ・クチーナ・マリナーラ」(以下「ボガマリ」)では立ち上げから参画、3年目からは料理長として辣腕を振るった魚介のエキスパートだ。

島田亮平シェフ

「ボガマリ」時代から熟成魚には深い関心を寄せていたそうで、「寝かした魚のおいしさを初めて知ったのは、蒲田の『初音鮨』さん。熟れた魚の底味の深さ、旨みの余韻が印象的で。早速自分でも試してみたのですが、『ボガマリ』の設備では限界があり、思うようにはできませんでした」と島田シェフ。ここ「AGE.」はどうしても熟成魚に挑戦したかった島田シェフの夢が叶った念願の一軒というわけだ。

魚専用の熟成庫

店内に入ってまず目に入るのは、魚専用の熟成庫。本来は肉専用のものを魚仕様に仕立て変えた特別誂えの熟成庫だ。設定温度は1℃、湿度は90%と、湿度と温度を肉と変えているそうで、肉に比べて低めの温度にする(肉は1〜3℃)のは、陸上よりも温度の低い海中に棲む水棲細菌の動きを止めるため、また湿度を高くするのは、肉に比べて水分が抜けやすい魚のしっとり感を維持するためだとか。もちろん、個体差のある魚のこと。魚種や個々の魚に応じて熟成期間は日々調整している。島田シェフによれば、ハタやクエ、マグロにブリなど大型の魚は、魚の状態にもよるが、だいたい2週間ぐらい寝かした方がおいしいとのことで、骨付きのまま丸ごと1尾を熟成庫に吊るして保存している。ちなみに、魚は主に高知県宿毛市と三重の答志島から。どちらも熟練の漁師が、しっかり手当てして送ってくれるそうだ。「鮮度の良さは言わずもがなですが、とった後のケアも大切。これがきちんとできていないとせっかくの魚も台無しになる」と島田シェフ。熟成庫には、サゴシやアラ、イトヒキアジにマグロなど上質な魚がずらりと吊りさげられている。

「熟成昆布締めのスカンピと熟成本鮪のタルタル」1,200円

まず、登場したのはタルタル2種。「熟成昆布締めのスカンピと熟成本鮪のタルタル」だ。スカンピは昆布締めにして半日、本マグロはドライエイジングで6日間熟成させたもの。スカンピには塩レモン、本マグロは下にバルサミコとにんにくのペーストを忍ばせるなど見えない一手間も、飽きないおいしさの秘訣。ねっとりしたスカンピの甘みを昆布が増幅させ、仄かな黒にんにくの酸味がマグロの旨みをひきしめている。

「本日の厳選鮮魚4種」1,800円

また、「AGE.・SASHIMI」と称した「本日の厳選鮮魚4種」も同店の自信作。写真は、サゴシ(サワラの幼魚)、イカ、ヒラメ、アラの4種類。サゴシとヒラメは9日、イカは4日、アラは8日とそれぞれ巧妙に熟成期間を変えて寝かしている。しかも、ただカットしただけではない。サゴシには蕪のマリネを添え、細切りにしたイカには生カラスミを振りかけてシトラス系の爽やかな香りをプラス。一方、ヒラメにかけているのは土佐酢ジュレ。ナスタチウムをあしらい、アラは煎り酒とオリーブオイルで味つけするなどなど、いずれも一手間かけた仕立てが心憎い。

「熟成真鯛のブイヤベース」4,300円(写真はハーフサイズ)

そして、メインに選んだのは「熟成真鯛のブイヤベース」。写真でもハーフサイズというからボリュームもたっぷり。ベースのスープ・ド・ポワソンは、熟成魚の骨やカマなどのアラがベース。「アラは一度薪台に吊るしていぶしてから出汁を取ることで、深みと香ばしさが生まれます」と島田シェフ。主役は薪焼きにした真鯛。炭火で中まで火を入れた後、薪の炎で炙って仕上げた真鯛は仄かな薫香をまといつつ身はしっとり。これを自慢のスープ・ド・ポワソンにトッピング。スープには島田シェフ絶賛のカナダ産ムール貝や銚子のはまぐり、イカリング、そしてフカヒレが入り、磯の香り豊かな一皿を楽しませてくれる。

「根室産生ウニのスパゲッティ」2,800円

締めにはぜひパスタを。「薪焼きイカとイカ墨のリングイネ」1,300円もおすすめだが、隠れた人気メニューは「根室産生ウニのスパゲッティ」。仕立てはアーリオ・オーリオで、コラトゥーラ(イタリアの魚醤)を隠し味に、バフンウニで和えただけの潔さ。生クリームやトマトソースも使わず、シンプルに仕上げた締めに相応しい一皿だ。

ちなみに「生うにのフラン」「本日のスープ」に「熟成昆布締めスカンピと熟成本鮪のタルタル」と「本日の厳選鮮魚4種」がコースとなった「季節のおまかせ3品コース」4,180円も用意。まずはこれらをつまみつつワインを楽しみ軽くすませるも良し。その後、メインにするか、パスタにするか、あるいは、前菜ばかりを追加するのも一興。その日の腹具合に合わせてカスタマイズしたい。

外観

教えてくれた人

森脇 慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

※価格は税込。

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部
撮影:菊池陽一郎