【噂の新店】「浮耀」
高級割烹ほど格式張らず、居酒屋よりも料理が充実。ざっかけない普段着の味を、ちょっとだけ洗練させて気軽に食べさせてくれる。そんなアラカルト主体の和食店があったらいいなぁ~という食いしん坊な我儘を叶えてくれるニューフェイスが、今年1月、六本木にオープンした和食店「浮耀」だ。

場所は、東京ミッドタウン向かいの斜めに入る小路(往年のグルマンなら、昔「支那そば大八」があった場所といえばピンとくるはず)を少し入った辺り。ガラスの引き戸に染めの暖簾の掛かる楚々とした佇まいは、和食店へのハードルの高さを取り払ってくれるようだ。

店内はカウンター、テーブル含め20席。衒いのない内装は、気取りなくどこか清潔感を漂わせる落ち着いた雰囲気だ。そのカウンターに立つのが、22歳の杉森空人さん。なんとこの若さで、同店の料理長を任された逸材だ。が、当の本人はいかにも泰然自若、豊富なアラカルトメニューにも動じることなく淡々とこなす。

聞けば、子供の頃から料理が好きで、高校は、食物調理科のある三重県立相可高等学校に進学。2011年に放送されたドラマ「高校生レストラン」のモデルとなった高校だ。杉森さんは調理クラブの部長も務めたそうで「料理の基礎は高校時代に習得しました」とのこと。その杉森料理長を、傍らで補佐するのは統括料理長の新田龍生さん。杉森料理長を前面に出しつつさりげなくサポートしている。この2人がタッグを組み、それぞれのポジションをそつなくこなして上質な日常の味を提供している。

手渡されたメニューを見れば、刺身からおばんざい的な小鉢ものに鍋物、焼き物、土鍋ご飯まで実にバラエティ豊か。すっぽん鍋もある一方で、ハムカツや蟹クリームコロッケといった洋風の一品もある辺り、京都のおばんざい屋や小割烹を思わせる。おまかせコース1万円もあるが「うちでは、やはりアラカルトでお客様の好きなように召し上がっていただきたいですね」と杉森料理長。

オープンして2カ月、最もオーダー率が高いのは「焼き胡麻豆腐」800円。名店「銀座うち山」出身の新田統括料理長の手によるもので、本家に比べソースをやや濃厚にする反面、胡麻豆腐自体は少し軟らかめに仕立て、気持ち甘めにしているとか。

胡麻の香ばしさとクリーミーさが相まって、なるほど、人気が出るのも頷ける味わいだ。この他「切干し大根」800円や「金平牛蒡」800円、「フルーツの白和え」800円に「茄子の揚げ浸し」800円といったおふくろの味で一献傾けるもよし、「サーロインと九条ネギ すき焼き」1,800円や「銀カツの卵とじ」2,000円をおかずにカスタマイズした定食を楽しむもよし。しっかり食事をしたい時も、軽く飲みたい時にもOKな懐の深さ、TPOに応じて使いこなせる勝手の良さも魅力の一つだろう(ちなみに白飯は、注文を受けてから土鍋で炊くため、早めのオーダーが得策だ)。

杉森料理長のおすすめは「銀カツの卵とじ」。黒板に手書きされた日替わりメニューの一つで、聞けば、賄いから昇格した一品なのだとか。銀カツとは銀ダラのフライのことで、これをカツ丼よろしく甘辛のだしでさっと煮た後、卵でふんわり閉じている。だしを利かせたややしっかりめの味付けは、割烹の品の良さを漂わせつつも、ご飯のおかずとしての役どころもしっかりと果たしてくれる。程よくおばんざい感を残した味わいには、舌も心もほっと和むはず。そのまま白飯にのせ、銀カツ丼に仕立てるのも一興だろう。

この一品でもわかるように、同店のコンセプトの一つがだし。杉森料理長によれば、鰹節と昆布をベースにめじ節や鯖節、むろ節などを加えてコクを出すようにしているそうで、なるほど懐石のコースのようにお椀を出さない同店なら、割烹のような淡い吸い地のだしではなく、素材の味を更に引き立てる骨格のある味わいとなっている。

だしを味わう一品といえば、オリジナルの「だしまきカニ玉サンド」1,500円も外せない。

だしをたっぷり加えたふわふわのだし巻きは、パンと同じ厚さに焼き上げられ、食感のバランスも上々。パンとだし巻きの間にマヨネーズで和えたかにを挟んであり、これが旨みのアクセントとなっている。

「出来立てをぜひ味わってほしいです」と杉森料理長。時間が経つとだしが卵から流れ出し、せっかくのふわふわ感が半減してしまうのだ。

また「サーロインと九条ネギ すき焼き」もご飯を呼ぶ鉄板メニュー。黒毛和牛のサーロインを贅沢に用いたそれは、卵黄の黄色が映えるビジュアルも食欲をそそる佳品だろう。

献立には旬の食材をふんだんに取り入れるようにしているというだけに、締めの炊き込みご飯も季節感が満載。この時期はホタルイカと山菜をふんだんに用いた一品で、蓋を開ければ春の景色が花開くよう。

お米は三重のコシヒカリ。杉森料理長の祖父が丹精込めて育てた米だ。これを先のだしと醤油、みりんで味を調えて炊き、ホタルイカと山菜を、ご飯の上いっぱいに敷き詰めれば完成だ。

が、ホタルイカはスチームしたものを軽く炙って香ばしさをプラス。山菜類は、ゆでてからだしに漬けて下味を付けるなど細やかな仕立ても望ましい。〆ものは、他にもヒレカツサンドや京ネギうどんなど豊富に用意されている。

お酒も、シャンパーニュからワイン、日本酒、サワー類まで一通りそろっているが、杉森料理長のおすすめは、故郷三重の「作」の中でもレアな岡山朝日米を用いた純米大吟醸。また、珍しい伊勢のクラフトジン「伊勢神」も、ここに来たなら試してみたい一杯だ。日本酒は常時10~12種ほど、1合2,000円~、ワインはグラス2,000円〜。
※価格はすべて税込


