〈これが推し麺!〉

ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。

今回訪れたのは、食べロググルメ著名人・門上武司さんが教えてくれた大阪・中崎町にある「大阪 松下」。しなやかで噛むほどに甘みが広がる「ざるそば」を紹介する。

ざるそば一本で勝負

大阪メトロ中崎町駅から徒歩5分程度。マンション1階の大きなガラス窓からそばを打つ様子が見える、モダンな外観のそば店がある。11時から20時までの通し営業で、さくっと一枚ざるそばを味わう人々で賑わいを見せる。

梅田駅からも徒歩12分程度の場所にある
「達磨」一門とあって、全国からそば好きが訪れる

店主は大阪出身の松下徹さん。元々は消防士を目指していたが、飲食の世界に入り、次第に楽しい、と感じるようになったという。そんな中、勤めていた店が手打ちそばを始め、独学で打っているときにもっときちんとそばを学びたいと思い、そば打ちの神様として知られ現代の名工でもある高橋邦弘さんの著書と出合う。その後、広島「達磨」で手打ちそば教室を体験。そこで高橋さんにより傾倒し、なんとか弟子入りを果たした。広島「達磨」で3年間そば打ちを学び、フランスパリ6区「Yen」では外国人と一緒に仕事をしながら、9年間厨房で経験を積んだ。その後「自分の根っこはやはり大阪にある」と考え、帰国。2015年、独立を果たした。

店主の松下徹さん。そば打ち教室も行っている

「そばの本当の味を伝えたい」と、そばのメニューは二八のざるそばのみ。玄そばは茨城県の常陸秋そばを中心に長野県や北海道、千葉県などの契約農家から厳選して仕入れている。毎日、粒揃え、皮剥き、石臼での製粉などを行い、そばを打つ。そばの香りや味わいを引き立てるつゆには、枕崎産の本枯節、大久保醸造の醤油などを使用している。

 

門上さん

パリの店で初めて会い、帰国され開店された時に訪問。店もそばも潔く、ざるそばのみというのがすごいです。

これが「ざるそば」の作り方!

今回は「ざるそば」を紹介する。実際に松下さんに作ってもらった。

使用している玄そば。甘みがある、茨城県産の常陸秋そばをメインに使用
機械に通し粒の大きさを揃える
そばの皮を剥き、丸抜きに
石臼を使って製粉。熱を与えすぎずに、細かくひくようにしている。ひいた粉は長く置かないように留意。「いい材料が何より大事です」と松下さん。しっとりとしたそば粉に仕上がっている
そば粉8割、小麦粉2割を混ぜ、45%量の水を加える
一粒ひと粒に水がまわるように混ぜる。「ここがおいしくなる肝です」
しだいに粉が密集してくる
力を入れ過ぎるとかたくなるので、ほどよい力で練っていく。弾力があり、ふんわりしたそばの食感はここで決まる
生地をまとめる。口を一つにして空気を抜く。菊の形になる
生地を丁寧に手でのばす。体重の半分くらいをのせるイメージ
生地を麺棒でのす。乾かないように素早く四角に。厚みは1.2mm。「圧をかけ過ぎないよう手の感覚を意識しています」
生地をたたみ、包丁でリズミカルに切っていく
打ちあがった美しいそば。「無駄な力を入れることなく、打てることがおいしさにつながります」
よく沸騰しているお湯にばらけるようにそばを入れて、そばを茹でる。時間は38秒
そばをしめる。3月初めの今なら水道水でOK。しめすぎないように注意
ざるにふんわりと盛って完成
これが門上さんおすすめ麺「ざるそば」900円

一口すすれば喉ごしがよく、しなやかさが感じられる。そばの甘みや香りもしっかりと伝わってくる。つゆとの相性も抜群で、もう一口と箸が進む味わいだ。

 

門上さん

二八そばで、喉ごしと香りが見事に調和している。つゆもきりりとしていて素晴らしい!

そばはざるそばのみだが、季節の酒肴は10品近く揃い、日本酒もそばに合う辛口がスタンバイ。人気の焼き蕎麦味噌は、西京味噌、ネギ、鰹節、そばの実を炒ったものを混ぜて、香ばしく焼き上げた。酒のアテに最適。

「焼き蕎麦味噌」550円。宮城県の辛口純米吟醸「阿部勘」850円(グラス130ml)

ただ、そばを打ち続けたい

「10年間あっという間でしたよ」と松下さん。「ざるそばだけでもお客様に来ていただけていることに感謝しています」とも。今後について尋ねると「最終的には自分の店を一軒家で持ちたいですね。そばを打つことが好きなので、“お客さんを喜ばせろ”との師匠の言葉を大切に、60、70歳と年齢を重ねても、そばを打ち続けていたいですね」。

 

門上さん

そばを食べるための店です。ぜひ。

白い暖簾に松下の文字が目印

教えてくれた人

門上武司

1952年大阪生まれ。関西中のフランス料理店を片っ端から食べ歩くももの足らず、毎年のようにフランスを旅する。39歳で独立し「株式会社ジオード」設立後はフードコラムニストというポジションにとどまらず、編集者、プロデューサー、コーディネーターとマルチに活躍。関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問であり、全日本・食学会副理事長、関西食文化研究会コアメンバー。著書には「食べる仕事 門上武司」「門上武司の僕を呼ぶ料理店」(クリエテ関西)、「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)

食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/

※価格は税込。

文:木佐貫久代
撮影:東谷幸一