〈ニュースなランチ〉
毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、編集部員や食いしん坊ライターによるランチ連載。話題の新店から老舗の新メニューまで、おすすめのランチ情報をお届け!
「等々力 ひらさわ」

「石麻呂に われ物申す 夏痩に良しといふ物そ 鰻取り食せ」という歌を詠んだのは、大伴家持。鰻が夏バテに良い食材であることは、どうやら万葉の時代から広く知られていたようだ。そして、鰻を夏の風物詩に担ぎあげたのは、江戸中期のマルチ文化人・平賀源内といわれている。彼の宣伝文句によって、土用丑の日に鰻を食べる習慣が根付いたとか。その背景には、暑さの厳しい夏土用の期間に、“う”のつく食べ物(例えば梅干しや瓜など)を食べて食養生するという風習があったことも一要因。源内は、この風習にかこつけ、土用丑の日に鰻を食べよう!と庶民に呼びかけたと伝えられている。
築138年の古民家をリノベーションした古民家鰻店

その土用丑の日に、是非とも出かけてみたい一軒が、ここ「等々力 ひらさわ」だ。等々力駅の目と鼻の先にありながら、広大な敷地を有する同店は、築138年になる古民家をリノベーション。

紅梅や白梅、柘榴を配した日本庭園を眺めながらのランチタイムは、都心にいながらにして小旅行に出かけたかのような気分にしてくれるに違いない。

手作りの提灯に出迎えられ入口を進めば、天井の梁もダイナミックな店内は、飛騨高山地方の合掌造りを思わせるどっしりとした佇まい。

一方、茶室を思わせる数寄屋風の個室は簡素でありながら、洗練された趣が漂う。数多くの和食の名店を手がけてきた京都の杉原デザイン事務所の設計と聞けば、それも合点がいく。
メニューの基本は鰻重と蒲焼きの2本立て

ランチには、平日限定10食のうな丼セット「ひらさわの昼膳」3,500円もあるが、基本的にはディナーとメニューは同じ。鰻の量によって値段が変わる鰻重と、土鍋で炊き立てのご飯が付く蒲焼きの2本立て。その他、白焼きや肝焼きなどの一品料理の用意もある。

鰻は地焼き。白焼きの後、一度蒸してから蒲焼きにするのが一般的な関東では、蒸さずに焼き上げる地焼きの鰻は珍しい(関西はこのタイプ)。
「鰻は主に三河や浜名湖、豊橋から1尾300~350gの、養殖では一番大きいサイズを仕入れています。大きい方がやっぱり脂ののりが違いますから」と、料理長の尾崎さん。鰻を選ぶ際には、体格が良く、色艶の良いものと決めているそうだ。

鰻はもちろん裂きたて。これを備長炭にかざし、強火の近火で、皮の方から一気呵成に焼きあげていくのが同店のスタイル。備長炭で炙られるにつれ、身からジュワジュワッと滲み出る鰻の脂が炭火に滴り落ちる。と同時に立ち上る燻煙も美味の秘訣。鰻ならではの香りを一層際立たせている。
おすすめは蒲焼きと白焼きを一度に楽しめる“紅白鰻重”!
この蒲焼きと白焼き、双方がのった贅沢かつ豪快な鰻重が、同店おすすめの紅白鰻重「寿」8,900円だ。

艶やかな飴色に焼き上げられた蒲焼きは、皮はパリッ、身はふっくらとして見た目に違わぬアクティブなおいしさ。地焼きならではの野趣とクリスピーかつジューシーな食味が醍醐味だ。甘みを控え、醤油ベースのさっぱりとしたタレが舌を飽きさせない。

一方、白焼きは炭火の香ばしさを纏いつつも、うまみは穏やかにして滋味豊か。鰻本来の持ち味をじっくりと味わうには格好だろう。共に出される鬼おろしを添えていただけば、鰻1本半弱のボリュームも難なく胃の腑に収まるに違いない。

自慢の味は鰻だけではない。ご飯も同様。米は山形県庄内産の「夢ごこち」。粘り気があり、もちもちとした軟らかな食感でバランスのとれた甘みが特徴。3合炊きと5合炊きの土鍋をフル回転させ、ランチの忙しい最中でも常に炊き立てを提供する心意気には拍手を送りたい。

鰻重は「福」4,900円~。蒲焼き膳は「楽」6,800円~。鰻重には小鉢と汁物。蒲焼き膳には旬菜と汁物、甘味が付く。

ちなみに、2025年の土用丑の日は、7月19日と31日の2回。31日めがけて、予約をしてから出かけたい。
※価格はすべて税込


